2008年から障害者スポーツの放送に乗り出したスカパー!。全日本車椅子バスケットボール選手権の中継を皮切りに、08年北京パラリンピックでは車椅子バスケットボール、12年ロンドンパラリンピックでは60分のダイジェスト版を連日放送した。そして、ソチパラリンピックでは24時間専門チャンネルを開設。生中継60時間を含む全5競技72種目を現在放送中だ。そこで今回は、この事業に深く関わってきた執行役員専務で放送事業本部長の田中晃氏に、障害者スポーツを中継する価値と意義について訊いた。

 

伊藤: 今回のソチパラリンピックでは、スカパー! が24時間専門チャンネルを開設しました。全5競技72種目を放送するという画期的な企画を初めて耳にした時は、正直驚きました。

田中: ここまでくるには長く険しい道のりでした。それだけに、喜びもひとしおです。

 

伊藤: ソチパラリンピックではアルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン、アイススレッジホッケー、車いすカーリングと5競技が行なわれています。しかし、残念ながらアイススレッジホッケーと車いすカーリングに日本は出場していません。それでもすべての競技・種目を中継しているところが、すごいと思いました。

田中: 日本人選手の活躍はもちろんですが、それだけではなく、世界のトップ選手の高いスキルや優れた戦略も、ぜひ観てもらいたいと思ったんです。例えば、"氷上の格闘技"と言われているアイススレッジホッケー。世界トップ同士の対戦は、楽しめること間違いなしです。

 

二宮: 私も長野パラリンピックでアイススレッジホッケーを初めて観ましたが、いやぁ、すごい迫力でした。まさに肉弾戦ですよ。テレビで観ても、ぶつかり合う音がすごいですから、臨場感を味わえるはずです。技術も戦略もどんどん進化していますから、他の国同士の対戦でも一見の価値ありです。

伊藤: 決勝は15日(土)ですから、まだ間に合いますね。私も見逃さないようにします。

 

 成功に不可欠な"トライアル&エラー"

 

二宮: スカパー! での冬季パラリンピック中継は初めての試みです。苦労した点も多かったのでは?

田中: 先例がありませんから、正直、非常に大変でした。スポーツ中継ですから、選手たちの技術的な部分まで視聴者に伝えたいわけです。例えばアルペンスキーなら、その選手の滑るラインが旗門に対して遠回りしているのか、逆に近すぎるのか。ターンが鋭角に入り過ぎているのか、そうでないのか、ということを表現するには、どういうカメラアングルがいいのか。また、パラリンピックにはさまざまな障害を抱えている選手が出場するわけですから、残された機能をどんなふうに鍛えて、どういう技術を習得しているのか。そして、それを伝えるにはどんな解説がいいのか。こうしたさまざまなことをスタッフやアナウンサーが何度も勉強会を開いて、最善を尽くしました。

 

二宮: スカパー! は日本において障害者スポーツ中継のパイオニア的な役割を果たしていますね。

田中: どの競技でも最初はそうだったと思うんです。例えば、サッカーだって今のようなカメラアングルや、わかりやすい解説で、最初から中継していたわけではなかったはずです。先人たちのトライアル&エラー、試行錯誤の上に、今日のスポーツ中継は成り立っている。ですから、障害者スポーツの中継も、今回のソチパラリンピックを第一歩として、2020年東京パラリンピックに向けて中継のレベルを上げていきたいと思っています。

 

二宮: 特に障害者スポーツは健常者が使用したことのない用具を使いますから、経験者でなければなかなかわからない部分が多い。そこにチャレンジしたというのは、ある意味、日本のスポーツ中継の歴史が変わることにもなるのかなという期待があります。

田中: ぜひ、ソチパラリンピックを一度、観てもらいたい。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を感じてもらえるはずです。

 

(第2回につづく)


田中晃(たなか・あきら)プロフィール>
1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップサッカーなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、現在同社執行役員専務、放送事業本部長を務めている。


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