伊藤: ソチパラリンピックでは、スカパー!が24時間専門チャンネルを開設し、全競技をお茶の間に届けてくれました。

二宮: 日本国民は初めて日本にいながら、パラリンピックを隅から隅まで堪能することができました。これは日本の障害者スポーツ界にとっては、歴史的な出来事となったはずです。

 

田中: 多くの皆さんにパラリンピックを知ってもらい、楽しんでもらえたことは、テレビマンにとって何より嬉しいことです。

伊藤: 私はほかでもないスカパー!で放送されたからこそ、大きな意義があったと思っています。というのも、これまでプロ野球やJリーグ、ラグビーなど数多くのスポーツコンテンツを手掛けてきたスカパー!で放送したことで、パラリンピックはスポーツの祭典であり、選手たちはアスリートなんだということが、結びつきやすかったのではないかと。

 

二宮: 確かに、視聴者に与える影響力は大きかったでしょうね。これまで障害者スポーツは、なかなか純然たるスポーツとして見てもらえませんでした。選手たちはアスリートではなく、同情の対象として見られることが多かった。しかし、選手たちからは「スポーツとして見てほしい」「自分たちはアスリートなんだ」という声が多くあがっていました。それにいち早く応えてきたのがスカパー!でしたね。

田中: ありがとうございます。我々は2008年に初めて車椅子バスケットボールの中継を行った時から掲げてきたコンセプトが2つあります。ひとつはオリンピックやプロ野球、Jリーグと同じように、スポーツ中継として放送するということ。もうひとつは、選手をアスリートとしてリスペクトすること。これらは、スポーツ中継ではごく当たり前のことです。しかし、障害者スポーツでは当たり前ではなかった。だからこそ、この2つのコンセプトをスタッフ全員で共有して臨もうと。

 

伊藤: 実際に見れば、パラリンピック競技はオリンピック競技に勝るとも劣らない、まさにスポーツだということがわかりますよね。

 

 アスリートとしてリスペクト

 

田中: ソチパラリンピックを見ていただいた方にはわかると思いますが、例えば冬季パラリンピックのスキー・アルペン競技のコースは、オリンピックとまったく同じなんです。オリンピック選手が滑っていても我々は「すごいな」と思うのに、それを1本のスキー板しかついていないチェアスキーでも、バランスよく滑ってしまうんですからね。

 

二宮: 選手たちのパフォーマンスを見れば、自然とリスペクトする気持ちが沸いてきますよね。

田中: はい。まずは見てもらいたい。そして選手たちのパフォーマンスの高さに驚いてもらって、アスリートとしてリスペクトして欲しいですね。

 

伊藤: これまでは「ぜひ、一度見てほしい」と言っても、なかなか一般の人が見る機会がありませんでした。しかし、今回は見るチャンスをスカパー!が提供してくれました。これは本当に大きかったと思います。見ているうちに、障害がどうのなんて関係なく、スポーツとして楽しんだ人は少なくないと思います。

 

田中: 今回のソチパラリンピックを見た人の中には、オリンピックで金メダルを獲得したフィギュアスケート男子の羽生結弦選手を「すごいなぁ」と思ったように、チェアスキーで滑降、スーパー大回転で2冠を達成した狩野亮選手にもリスペクトの気持ちが芽生えた人は少なくないはずです。また、浅田真央選手に対して「残念だったけど、よく頑張ったよね」というのと同じ気持ちを、パラリンピックでメダルを逃した選手たちに対しても抱いていただけたのではないかと思っています。

 

二宮: 障害者スポーツを純然たるスポーツとして見る土台づくりへの大きな一歩ですね。

田中: はい。そうなればいいなと思いますね。


(第3回につづく)

 

田中晃(たなか・あきら)プロフィール>
1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップサッカーなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、現在同社執行役員専務、放送事業本部長を務めている。


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