伊藤: 今回、日本のプレゼンテーションへの評価が高かったと思いますが、二宮さんはどう感じられましたか?

二宮: もう満点と言っていいと思いますね。あまり知られていませんが、IOCの第1公用語はフランス語。英語は第2公用語なんです。今回、日本のプレゼンテーションでは英語だけでなく、フランス語でのスピーチが織り交ぜられていました。これはIOC委員にいいアピールになったのではないでしょうか。

 

鈴木: はい、そうだったと思います。今回は高円宮久子さまをはじめ、滝川クリステルさん、水野正人招致委員会副理事長が流暢なフランス語でスピーチされました。これは日本にとってひとつの戦略だったんです。

伊藤: 高円宮久子さまのスピーチに続いて、プレゼンテーションのトップバッターを担ったのがパラリンピアンの佐藤真海さんでした。

 

鈴木: 佐藤さんのプレゼンは、IOC委員の心を捉えてしまったんです。佐藤さんは昨年のロンドンパラリンピックにも出場しましたから、日本ではパラリンピアンだということがわかっている方もいたと思いますが、IOC委員には彼女が誰かということは必ずしも知られていたわけではなかったと思うんです。おそらくはじめは「かわいい笑顔の女性が出てきたな」というくらいの印象だったのではないでしょうか。そこに彼女の競技映像がバーンで出てくるわけです。その瞬間、明らかに会場の雰囲気が変わったのがわかりました。

 

伊藤: 映像も効果的に使われていましたね。

鈴木: はい。そこで一気にIOC委員の心をわしづかみにしてしまったんです。さらに骨肉腫で右足を失ったり、東日本大震災で家族が被災したけれども、その度に「スポーツの力」が救ってくれたという、彼女の実体験にIOC委員は心をうたれたことでしょう。

 

 一体化の実現を目指す20年大会

 

二宮: 佐藤さんのスピーチでIOC委員が東京のプレゼンに耳を傾ける姿勢になりましたよね。それからのプレゼンは、一糸乱れぬ素晴らしいリレーでした。

鈴木: 佐藤さんをプレゼンのトップにもってきたということからも表れているように、私たちは2020年大会はオリンピックとパラリンピックを一体化して、同時開催に近いかたちにするということをずっと思ってきました。

伊藤: 障害者スポーツの選手たちからは「パラリンピックもオリンピックと同じ世界最高峰のスポーツの大会であり、自分たちもアスリートなんだということを広く知ってもらいたい」という声を何度も耳にしてきました。そういう意味で、今回のプレゼンテーションは日本の障害者スポーツ界にとって、いえ日本のスポーツ界にとって画期的でしたよね。「新しい時代になってきたな」ということを感じました。

 

(第3回につづく)

 

鈴木寛(すずき・かん)プロフィール>
1964年生まれ。灘高、東大法学部卒業。通産官僚を経て慶應大学助教授。2001年参議院議初当選(東京都)。民主党政権では文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化を中心に活動。党憲法調査会事務局長、参議院憲法審査会 幹事などを歴任。超党派スポーツ振興議連幹事長、東京オリンピック・パラリンピック招致議連事務局長。超党派文化芸術振興議員連盟幹事長。日本ユネスコ委員。大阪大学招聘教授、中央大学客員教授、電通大学客員教授。主な著書に『熟議のススメ』(講談社)ほか多数。


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