二宮: 佐藤さんは大学2年の時に骨肉腫を発症し、右足を切断されました。最初は、どんな症状だったのでしょう?

佐藤: 足首に痛みが出たんです。大学では応援部チアリーダーズに入っていたので、はじめは捻挫をしたのかなと思って、テーピングをしたりアイシングをしたりしていました。

 

二宮: それでも痛みがひかなかったと?

佐藤: はい。どんどん痛みが激しくなり、腫れてきたんです。接骨院には行っていたのですが、まさか病気だとは思いもしなかったので、2カ月くらい我慢してしまったんです。でも、さすがに我慢できなくなって、とにかくレントゲンを撮ってもらおうと小さな病院に行きました。そしたら、先生が「骨が溶けている」と。既に腫瘍が浸食をして溶け出している状況で、骨がもろくなっていたようなんです。それでも無理して激しい運動をしていたために、骨折していました。その時にはちょっとジャンプしても、歩いていても、砕けそうな痛みがありました。でも、チアリーディングのステージを控えていたので、周りには迷惑はかけられないと思って我慢していたんです。

 

二宮: すぐに切断手術をしなければならないほど重症だったのですか?

佐藤: 3カ月ほど抗がん剤治療をしてから手術をしました。治療は、それまでにスポーツでも経験したことのない地獄のような毎日でした。骨肉腫は小児がんなので、進行が速く、すぐに転移してしまうんです。それで薬を大量投与しなければいけなかったので、ひどい吐き気で、まったくご飯が食べられませんでした。髪の毛も眉毛も、一気に全部抜けてしまって、心身ともにボロボロでしたね。

 

二宮: 抗がん剤治療が終われば、足を切断しなければならないわけですから、精神的にもきついですよね。

佐藤: 人によって抗がん剤の効果は違うのですが、私は幸運にもよく効いたんです。それで、入院したばかり頃はひどかった足の痛みが、だんだん和らいでいきました。「もしかしたら、このまま抗がん剤が効けば、手術をしなくてもいいのでは?」という期待をもつようになったんです。

 

二宮: 医師からは何と言われたんですか?

佐藤: 手術の1週間前に、先生に「手術は最後の手段にしたい」と言いました。でも、先生は「最後の手段にしたら手遅れになってしまう」と。

 

二宮: 切断以外の方法はなかったのでしょうか?

佐藤: 「もしかしたら10年後には、ヒザや股関節のように、足首の人工関節ができているかもしれない。でも、それを待っている余裕は今はない」と言われました。実際、10年経った今現在も、足首の人工関節は完成にはいたっていないんです。

 

 臼井氏のひと言で始まった陸上人生

 

二宮: 退院後、再びスポーツを始められました。そのきっかけは何だったのでしょう?

佐藤: スポーツに頼らざるを得ないくらい、自分自身を失くしてしまったんです。入院中は、退院さえすればこれまでとは変わらない日常生活が戻ってくるのだろうとばかり思っていました。10カ月間入院しましたが、退院して3日後には大学にも復学したんです。でも、自分でも想像していなかったほど、精神的に落ちていってしまいました。

 

二宮: 自分自身を取り戻すためにスポーツをしようと。

佐藤: 心から湧き出るエネルギーがないと、そのままどんどん落ちていきそうだったんです。その状態から立て直すには、スポーツの力が必要でした。

 

二宮: 陸上をやろうと思ったきっかけは?

佐藤: はじめは水泳をやろうと、東京都障害者総合スポーツセンターのプールに通っていたんです。そこで切断者スポーツクラブ「ヘルスエンジェルス」や日本のスポーツ義足の第一人者・臼井二美男さんのことを知りました。

 

二宮: 佐藤さんに陸上を薦めたのは臼井さんだったんですね。

佐藤: はい。当時はまだ義足で満足に歩くこともできなかった時期だったのですが、初めて臼井さんを訪ねた時、「ちょっと走ってみなよ」と言われたんです。それが、その後の陸上人生の始まりでした。

 

(第3回につづく)

 

佐藤真海(さとう・まみ)プロフィール>

1982年3月12日、宮城県生まれ。サントリーホールディングス株式会社勤務。早稲田大学2年時に骨肉腫を発症し、右足ヒザ下を切断。退院後、東京都障害者総合スポーツセンターで水泳を始める。その後、競技用義足の第一人者・臼井二美男氏と出会い、陸上競技へ。走り幅跳びで2004年アテネ、08年北京に続いて、昨年ロンドンパラリンピックに出場した。2013年2月に日本スポーツ振興センターのSports Japanアンバサダーに就任。著書に『ラッキーガール』(集英社)、『夢を跳ぶ――パラリンピック・アスリートの挑戦』(岩波ジュニア新書)、『とぶ!夢に向かって』(学研)がある。

サントリーホールディングス株式会社 http://www.suntory.co.jp/


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