二宮: 今年9月には2020年オリンピック・パラリンピックの開催都市が決定します。今月7日には開催計画が書かれた立候補ファイルが提出されました。これから限られた時間の中でやるべきこととは何でしょうか?

小倉: さまざまな意見があります。例えば、最終的に投票するのはIOC(国際オリンピック委員会)の委員なのだから、個別にアプローチして票を獲得することが大事だと言う人もいます。

 

伊藤: IOC委員の家族のことまで調べて、誕生日にプレゼントを贈るというような話を耳にしたことがあります。

小倉: いわゆる個別訪問式選挙戦ですよね。こうした戦略を重視している人は少なくありません。確かに、人の気持ちを向けさせるアプローチは必要だと思いますが、私はそれと同じ位に世論を動かすことも重要だと思っています。例えば、昨年12月に行なわれた衆議院議員総選挙では自民党が圧勝しましたが、あれは自民党員が個別訪問をしたから勝てたわけではない。やはり世論が自民党の方に動いたということなのではないでしょうか。オリンピック・パラリンピック招致においても、世論の力は大きいはずです。

 

二宮: 確かにいくら個別に恩恵を受けたとしても、世界を揺るがすような風が吹けば、IOC委員もそれを無視することはできないでしょうね。

小倉: 16年大会の招致の時、ブラジルのリオデジャネイロが勝った要因のひとつには、やはり「新興国でオリンピック・パラリンピックを」というふうに世論が動いたことが挙げられます。そう考えると、私自身はIOC委員への個別な戦略と並んで、世論に訴えかけていかなければいけないと思っています。

 

 未だ明確でない東京での開催理由

 

伊藤: そうなると、東京がなぜ再び20年に立候補したのか、納得のいく理由を提示しなければなりません。

小倉: 一番の問題はそこなのです。

 

二宮: 16年の招致の時もそうでしたが、今回も「なぜ東京で?」というところが、まだまだ明確ではありません。

小倉: そうです。そのためにはマスコミやスポーツ関係者はもちろん、政府や東京都のオピニオンリーダーが、どんな点を売り込みのポイントにするのか、という声をどんどんあげていく必要があります。

 

二宮: 1964年の東京オリンピックでは、敗戦から日本がここまで復興したということを世界に知らしめた大会でした。では、もう一度、東京でやるのはなぜなのか。その新しい理念が求められています。

小倉: もちろん、とても実現が難しい、夢みたいなことは言えませんが、多少勇み足になっても、「日本ではこういうことをやります」という指針をドーンと掲げるべきでしょう。それくらいでなければ、世論は動きませんからね。

 

(第3回につづく)

 

小倉和夫(おぐら・かずお)プロフィール>

1938年11月15日、東京都生まれ。東京大法学部、ケンブリッジ大経済学部卒業後、62年に外務省に入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官などを歴任し、在ベトナム、在韓国、在フランスの各大使を務める。2003年、国際交流基金理事長に就任。11年12月より東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会事務総長を務める。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会 http://tokyo2020.jp/


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