二宮: 小倉事務総長が考える東京オリンピック・パラリンピック開催の理念とは何でしょう?

小倉: パラリンピックをもっと重視すべきではないかと思っています。開催理念のひとつとして、日本は障害者に対してやさしい国づくりを目指しているということを掲げれば、これは強いメッセージになります。例えば、「パラリンピックに備えて環状線内すべてをバリアフリーにする」といったようなプロジェクトが盛り込まれてもいいのではないかと。こうしたインフラ整備は、超高齢化社会となっている日本の為にもなるのです。

 

二宮: 以前、バルセロナからロンドンまで6大会連続でパラリンピックに出場している競泳の河合純一さんがこんなことを言っていました。「障害者の僕たちの姿は、これから皆さんが年老いた時の姿でもあるんですよ」と。確かに、人間、歳をとれば、誰しも足腰が弱くなり、視力も落ちる。杖をついたり、車椅子に乗る人だって少なくありません。そう考えると、やはり他人事ではなくなってきます。

 

伊藤: 河合さんは「僕たち障害者は、健常者の先輩なんです」とおっしゃっていました。なるほどな、と思いましたね。今、障害のある人たちが、どうすれば暮らしやすくなるのかを考えることは、結局は自分たちの将来の暮らしについて考えるということになるんですよね。

 

小倉: そうなんです。ところが、日本では障害者に対して未だに別世界の人だと感じている人が少なくありません。ですから、日本人の社会意識の改革が必要です。よく「レガシー(遺産)」という言葉が使われますが、もちろん素晴らしいデザインの国立競技場もオリンピック・パラリンピックのレガシーになるでしょう。しかし、こうした有形物だけでなく、無形の精神的レガシーを残せるかどうかも考えていくべきです。

 

 姿よりも貢献度で示したい「復興日本」

 

二宮: 東京開催の理念として現在、掲げられているのが「震災復興」です。世界に東日本大震災から復興した日本の姿を見せよう、ということですが、これだけでは弱いと感じています。

伊藤: 復興後の姿だけではなく、震災を乗り越えたという強さもアピールしたいですね。

 

二宮: 私も復興をアピールすることには賛成です。ただ、それはあくまでも国内問題。投票権を持つIOC委員が、それをどれだけ支持するかはわかりません。

 

伊藤: では、どうすればいいのでしょうか。

二宮: 「復興しました。ありがとうございました」で終わらせるのではなく、「復興した日本は、そのメソッドを広く世界に還元しますよ」という強いメッセージが必要だと思うんです。

 

小倉: まさにおっしゃる通りです。アピールする部分は、復興そのものではなく、復興の過程で得たノウハウや精神力、そうしたものを世界の皆さんと共有し、そして世界に貢献していきたい、ということ。オリンピック・パラリンピックはそのひとつということをもっと前面に押し出さなければいけません。

 

(第4回につづく)

 

小倉和夫(おぐら・かずお)プロフィール>

1938年11月15日、東京都生まれ。東京大法学部、ケンブリッジ大経済学部卒業後、62年に外務省に入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官などを歴任し、在ベトナム、在韓国、在フランスの各大使を務める。2003年、国際交流基金理事長に就任。11年12月より東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会事務総長を務める。

東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会 http://tokyo2020.jp/


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