二宮: アイエスエフネットグループにはさまざまな人たちが働いているわけですが、トラブルも少なくなかったのでは?

渡邉: もちろんいろいろとありますよ。朝から社員同士で「誰がどうした、ああした」というような言い合いがあったりするなんてことは、日常茶飯事です。でも、意外に思われるかもしれませんが、大きなトラブルはないんです。

 

二宮: それだけ社員教育がきちんとされているんでしょうね。

渡邉: はい。教育に関しては徹底的に行なっています。採用後にまず最初に行なうのは、倫理的な教育なんです。何せ、無知識、未経験とビジネス経験がない人がほとんどですからね。

 

二宮: 例えば、どういうことをされているのでしょう?

渡邉: 私は京セラとKDDIの創業者で現在は日本航空の名誉会長を務めている稲盛和夫氏が主宰する経営塾「盛和塾」で勉強していたのですが、そこで学んだ"利他の心"が重要だと考えているんです。それを軸にした「アイエスエフネット哲学」を社員全員に共有させようと、例えばボランティア活動の一環として会社付近の道路などを清掃しています。ボランティアは強制されてやるものではないですから、最初は幹部くらいしか集まりませんでしたが、今ではパッと100人ぐらい集まるようになりました。ボランティアをすると色々な気付きがあります。例えば道路が舗装されていて歩きやすかったり、清潔に保たれているのは、整備をしてくれたりきれいに使っている人たちがいるからなのだと......。こうした目線を持てるようになると、自然とビジネスマナーも身に付いてくるものなんです。

 

二宮: だからこそ、さまざまなタイプの人がいても、会社がうまく回っているのでしょうね。

渡邉: 弊社が他の会社と違うのは、全社員が障がいのある人たちに対して、何の違和感もなく、受け入れられることです。現在、弊社には2300人ほど社員がいますが、そのうち約800人が一般的には就労困難な方々です。しかし、残りの1500人の中に一人としてその800人を嫌がる人はいません。これには絶対の自信を持っています。

 

 ビジネスに障がいは関係なし

 

二宮: 単に同情で障がい者を雇用しているのではなく、きちんとビジネスとして成立させ、会社が成長している。これは素晴らしいことですね。

渡邉: 他の会社では雇ってもらえなかった800人が、この会社に入って成果をあげていますからね。

 

二宮: 800人もいれば、驚くほど優秀な人材もいるでしょうね。

渡邉: 例えば、全盲の男性社員がいますが、現在27歳で幹部社員になっています。彼はまだ入社して間もないですけど、経営的な部分で非常に高い能力をもっている。将来は、弊社のグループ会社を任せようと思っています。

 

二宮: 日本の企業で全盲の経営者というのは、あまり耳にしたことがありません。

渡邉: おそらく皆無に等しいと思いますね。でも、彼なら経営者になれますし、そういうふうに育てていきたいと考えています。

 

(第4回につづく)

 

渡邉幸義(わたなべ・ゆきよし)プロフィール>

1963年、静岡県生まれ。武蔵工業大学(現東京都市大学)出身。1986年、日本ディジタルイクイップメント株式会社(現日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社。2000年に株式会社アイエスエフネット会社を設立した。現在は全国に35拠点、海外6カ国で事業を展開している。2010年、特定非営利活動法人Future Dream Achievementを設立し、「NIPPON IT チャリティ駅伝」を支援するなど、就労困難者のサポート活動を行なっている。

アイエスエフネットグループ http://www.isfnet.co.jp/


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