二宮: アイエスエフネットグループでは、さまざまなイベント活動も行なっているそうですね。2010年からは毎年、「NIPPON IT チャリティ駅伝」を支援されています。

渡邉: 特定非営利活動法人「Future Dream Achievement」(FDA)を設立しまして、障がい者、ひきこもり、ニート、うつ病患者などの就労をサポートをしています。その一環として、IT業界に多いと言われているうつ病患者やひきこもりをサポートするチャリティ駅伝の支援を行なっているんです。

 

二宮: このチャリティ駅伝はどのような経緯で行なわれるようになったのでしょうか?

渡邉: 浅草橋に初めて会社を設立した時、雇用した社員の中に、元ひきこもりの人がいたんです。その人は自分の力で就労が出来たわけですが、ひきこもりの深刻な問題を知るにつれ、これは企業サイドでも就労支援などの力を入れるべきではないかと考えるようになりました。その後、40歳で12年もの間ひきこもっていた人も受け入れました。お母様が「経歴・経験は一切問わず、経歴書なしで面接をします」という募集内容を見て、僕のところに相談に来たんです。

 

二宮: 20~30代の若い時期にひきこもりになると、なかなか抜け出せず、高年齢化してしまうケースがたくさんあるそうですね。

渡邉: そうなんです。そうなると、両親も70代や80代ですから、もうどうすることもできなくて悩んでいるケースは少なくありません。僕のところに相談に来た母親も70代でした。とにかく「なんとか息子を助けてやってください」と泣きつかれましたよ。

 

 社会への一歩は自ら「出る」こと

 

二宮: どのようにして、ひきこもりから脱したのでしょう?

渡邉: きちんとしたトレーニングを受ければ、社会復帰できます。しかし、まずは本人が家の外に出なければ何も始まりません。僕が家の中に入ることはできないんです。「不法侵入」になってしまいますからね。そこで母親からこう伝えてもらったんです。「もし、うまく家の外に出てくることができたとしても、社会復帰は99%は難しいかもしれない。でも、1%の可能性はある。しかし、出てこなければ、100%復帰することはできない。1%の可能性に賭けてみるかどうか、自分自身で決めてほしい」と。そしたら、彼は自分の意思で出てきましたよ。

 

二宮: 今、その彼はどうしていますか?

渡邉: うちの会社でバリバリと働いています。もう、すっかり普通の社員ですよ。元ひきこもりだなんて、誰も想像できないでしょうね。

 

二宮: しっかりとしたサポートがあれば、社会復帰できることが証明されたわけですね。

渡邉: ひきこもりになった人で、社会復帰を望んでいない人は誰ひとりいないと思います。ただ、なかなかひきこもりに対しての支援は進まない。なぜなら、ひきこもりの支援団体などもありますが、最終的な出口=就労の部分では企業との連携が不可欠ですし、きちんとした就労トレーニングプログラムを受けて初めて、社会復帰することができる。そのためには費用がかかるわけです。ところが前述したように、本人は働いていない、年老いた両親は年金暮らしとなれば、それを賄うだけの経済力がないわけです。そこでチャリティ駅伝をしようと。旧友の仲であるチャック・ウィルソン(フィットネスインストラクター)にも協力をしてもらって、2010年に始めました。

 

二宮: 反響はいかがですか?

渡邉: 最初に始めた10年が約680人、2回目の11年が約2000人、そして3回目の今年は約3000人が応募してきてくれました。今年は元プロ野球選手の石毛宏典さんに野球教室を行なっていただき、大いに盛り上がりました。

 

(第5回につづく)

 

渡邉幸義(わたなべ・ゆきよし)プロフィール>

1963年、静岡県生まれ。武蔵工業大学(現東京都市大学)出身。1986年、日本ディジタルイクイップメント株式会社(現日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社。2000年に株式会社アイエスエフネット会社を設立した。現在は全国に35拠点、海外6カ国で事業を展開している。2010年、特定非営利活動法人Future Dream Achievementを設立し、「NIPPON IT チャリティ駅伝」を支援するなど、就労困難者のサポート活動を行なっている。

アイエスエフネットグループ http://www.isfnet.co.jp/


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