二宮: ロンドンパラリンピックで男子日本代表は初のベスト4を目指すわけですが、そのためにはまず、予選プールを勝ち抜かなければいけません。日本が入ったBプールには、ドイツ、カナダ、コロンビア、ポーランド、そして開催国の英国がいます。強敵ばかりですね。

岩佐: はい。予選プールでは6チーム総当たりで戦い、上位4チームが決勝トーナメントに進出することができます。日本は第2戦のポーランド、第3戦のドイツ、第4戦のコロンビアの3試合のうち、最低でも2試合は勝たないと、厳しくなりますね。ただ、コロンビアとは初めて対戦することもあって情報が少ないので、どういうチームなのかよくわからないんです。時々、カナダに勝っていたりするので、ちょっと不気味な存在ですね。それだけに、ポーランドとドイツからは確実に白星を挙げて、勢いをつけたいなと思っています。

 

二宮: グループBの中では、カナダは頭一つ抜けているでしょうし、最終戦の英国は地元のアドバンテージがあります。

岩佐: そうなんです。ただ、英国とはいつも互角なんです。負けたとしても、わずか5点差くらい。バスケットボールでは1ケタ差での敗戦は、ヘッドコーチの責任と言われているんです。ですから、英国にもなんとかして勝ちたいなと思っています。

 

二宮: ただ、予選プールで全力を出し切ってしまっては、その後の決勝トーナメントを戦い抜く力がなくなってしまいます。多少なりとも余力を残しておかなくては......。

岩佐: その部分が一番難しいんですよね。予選プールの順位によって、決勝トーナメントの対戦相手が決まるんです。Aグループの1位とBグループの4位、Bグループの2位とAグループの3位......というふうに、たすきがけ方式で行なわれます。ですから、予選プールでどういう順位になるか、強豪がどこに入るかという読み合いも必要になります。

 

 シュートにつながる位置取り

 

二宮: 高さとパワーではかなわない日本が世界の強豪と渡り合うには、やはりスピードが重要となってきます。

岩佐: はい、もちろんです。そのために「アーリーオフェンス」を徹底的にやってきました。もう一つは、シュート力の向上も必要ですね。特に後半になると、フィニッシュの精度が悪くなるんです。

 

二宮: その原因はどこにあるのでしょうか?

岩佐: 海外のチームには、体格のいい選手がたくさんいますから、リーチをいかして、どこからでも手が出てくるんです。そうすると、例えば日本で一番大きい藤本怜央は、国内ではゴール下に高めのパスを出せば、手を伸ばしてシュートにもっていくことができるんです。しかし、国際試合ではそうはいきません。藤本よりも大きな選手がほとんどですから、そういうパスは全てカットされてしまいます。そうすると、どうしてもシュートまでもっていくことができなかったり、無理な体勢から打つことが多いですから、シュートの確率も落ちてしまうんです。

 

二宮: なるほど。では、その対策は?

岩佐: オフェンスにしてもディフェンスにしても、無理に競り合わずに、ポジションをうまく取ることが重要です。車椅子の幅をうまく使ったりして、できるだけいい体勢でシュートを打つんです。

 

二宮: スピードだけでなく、チェアスキルも重要になってくると。

岩佐: はい。あとは特定の選手にばかり負担を負わせないこと。エースの藤本ばかりを走らせては、一番大事な最後の4クオーターでシュート力がガクンと落ちてしまいます。ですから、藤本を外して、他の選手で戦う時間帯も必要です。もちろん、相手はここぞとばかりに攻めてくるでしょうから、厳しい展開になるでしょう。しかし、そこをなんとか最少失点に食い止めて、凌ぎ切ると。そして、最後にもう一度、ベストメンバーで勝負に挑む。文字通り"全員バスケ"で戦いたいと思います。

 

(おわり)

 

岩佐義明(いわさ・よしあき)プロフィール>

1958年1月6日、宮城県生まれ。大学までバスケットボール選手として活躍した。卒業後、宮城県の外郭団体職員として勤務。1989年、「宮城クラブ」を前身とした「宮城MAX」発足当初からヘッドコーチを務める。今年の日本選手権ではチームを4連覇に導いた。2008年北京パラリンピックでは女子日本代表を指揮し、ベスト4入り。09年、男子日本代表ヘッドコーチに就任。ロンドンパラリンピックでは女子に続いて初のベスト4進出を目指す。

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