二宮: アトランタ以降、オーエックスエンジニアリングが開発・製造した競技用車いすに乗った選手が獲得したメダルは計90個にものぼります。陸上だけでなく、車いすテニス、車椅子バスケットボールの選手にも高く評価されていますね。

石井: やっぱりメーカーとしては選手に世界でトップを獲ってもらいたいですからね。その思いで競技用車椅子の改良を重ねてきました。

 

二宮: 例えば、どんな部分がアトランタ以降、改良されているのでしょう?

石井: ひとつに陸上用レーサーで言えば、後輪とフロント部分をつないで支えている「メインフレーム」がありますが、この部分に使うパイプの断面の形状はどんどん変わってきているんです。これについてはエンジニアの小澤が説明します。

 

小澤: 車椅子ランナーはレーサーに正座の状態で乗り、常に前傾姿勢で後輪を漕いでいきます。ですから、後輪と前輪をつなぐメインフレームに選手の全体重が乗るわけです。つまり、メインフレームは選手の体を支えている重要な役割をしています。そして選手が後輪をこぐ時、体が激しく上下動しますので、メインフレームにはその力を支えるだけの強度が必要になります。

 

二宮: なるほど。そのメインフレームの形状を変えることで強度が増してきたと?

小澤: はい、そうです。アトランタ以前は円形のものが当たり前だったのですが、弊社ではその常識を覆し、楕円形にしたんです。しかし、楕円形では縦方向からの力には強いのですが、コーナーを曲がる時など横から力が加わった時には弱いんです。そこで、シドニーではおにぎりのような三角形の形状のフレームを開発したんです。

 

二宮: 単なる三角形ではなく、おにぎりの形というのが面白いですね。

小澤: 普通の三角形では角がとがってしまいます。そうすると、その角に負荷が集中してかかってしまいますので、壊れやすくなるんです。そこで角に丸みを帯びたおにぎり形にしたんです。しかし、次のアテネに向けての時には、フランス人の選手からもオーダーを受けたことで、大柄な外国人選手の力にも耐え得る、さらなる強度が必要になったんです。そこでできたのが、ひょうたん形でした。もともと自転車には使われていたのですが、これによってコーナーを曲がるときに働く遠心力に対しての強度がさらに増しました。

 

強度と重さの微妙なバランス

 

二宮: 「楕円形」「おにぎり形」「ひょうたん形」と来て、前回の北京はどんな形状のフレームだったのでしょう?

小澤: 「もなか」形です。「コ」の字形の金属板を、お菓子の最中のように溶接で張り合わせるんです。これによって、選手や路面から受ける力、方向を考慮した設計・製造が可能になりました。中が空洞になっていますから、最中のあんこの部分には、板を入れることができます。その板の厚さ、大きさ、入れる場所によって強度を調整することができるのも特徴です。

 

二宮: 溶接で張り合わせるという発想はどこからきたのですか?

小澤: 実は石井社長のアイデアだったんです。もともと車椅子バスケットボール用の車椅子はもなか形のパイプが使われていたので、それを陸上用レーサーのメインフレームにも採用してみたらどうかと。

 

二宮: それがうまくいったというわけですね。陸上用レーサーで最も重要なのは強度ですか?

小澤: もちろん強度は重要です。ただ、強度ばかりを追求して重くなってしまってもダメなんです。特に日本人選手は外国人選手よりもパワーがないですから、軽量化というのも非常に重要になってきます。しかし、軽ければいいと言うわけではなく、強度とのバランスが大事なんです。

 

石井重行(いしい・しげゆき)プロフィール>

1948年、千葉県生まれ。71年、ヤマハ発動機に入社。76年、28歳の時に独立し、オートバイ販売会社「スポーツショップ イシイ」を設立した。ライダー、ジャーナリストとしても活躍。84年、オートバイのテスト走行時、転倒事故で脊髄を損傷。下半身不随となり、車椅子生活となる。88年、「オーエックスエンジニアリング」を設立し、翌年には車椅子事業部を設置。車椅子の開発・製造に着手し、92年には初号機を販売する。翌年には車いすテニス用、車椅子バスケットボール用、95年には、陸上競技用のレーサーを販売。アトランタパラリンピック以来、同社の車椅子で獲得したメダルは、計90個にのぼる。

オーエックスグループ http://www.oxgroup.co.jp/

 

小澤徹(おざわ・とおる)プロフィール>

オーエックスグループ会社のレブに所属。エンジニアとして、競技用車椅子を開発・製造している。

 

(第4回につづく)


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