伊藤: 昨年12月には、宮澤さんとブラインドサッカーのアジア選手権に行ってきました。残念ながら日本はロンドンパラリンピックの出場権を得ることはできませんでしたが、宮澤さんは初めて見たブラインドサッカーに興奮されていましたね。

宮澤: いやぁ、すごかったねぇ。選手はみんな目が見えていないはずなのに、ピッチの中を走って、ドリブルして、パスして、ゴールまで決めちゃうんですからね。本当にすごかった! 星槎学園でサッカー指導している奥寺康彦さんや現役時代にはJリーグで活躍したリトバルスキーさんも、目を輝かせて観戦していましたよ。

 

二宮: 昨年、日本のブラインドサッカーのパイオニアでもある石井宏幸さんと対談したのですが、石井さんは「日常生活で走ることがほとんどない自分たちが、ピッチでは思い切り、自由に走ることができる」と、ブラインドサッカーの醍醐味を語ってくれました。

宮澤: その通りですよね。ブラインドサッカーは、目が見えなくてもサッカーができるというスポーツの素晴らしさを教えてくれました。

 

 目指すべき五輪との一元化

 

二宮: 今年はロンドンオリンピック・パラリンピックが開催されます。しかし、残念ながらオリンピックとパラリンピックとの扱われ方はまるで違います。歴史の違いもありますが、もう少し改善されるべきだと思うのですが......。

宮澤: 僕はそもそもオリンピックとパラリンピックに分けて、開催していること自体がおかしいと思っているんです。

 

二宮: それは乙武さんも言っていました。パラリンピックの競技をオリンピックの中のカテゴリーにするべきだと。

宮澤: 僕も全く同じ意見です。同じスポーツだという観点からすれば、やはりオリンピックの中に入れるべきでしょう。例えば今、世界最速のウサイン・ボルトは100メートルを9秒58で走るわけですよね。確かに、これはすごいことですよ。でも、片足や片腕の人たちがつくり出す記録というのもすごいんですよ。「この選手が両足で走ったら、どんなに速いんだろう......」なんて想像するだけで、興奮してくると思うんです。

 

二宮: 逆に私たち以上に、一流の選手の方が、彼ら彼女らのすごさを肌で感じるかもしれませんね。「どうやって義足でバランスを取っているんだろう......」とか。体の構造を熟知しているからわかるすごさもあるかもしれません。

宮澤: 僕なんか、ブラインドサッカーをひと目見ただけで興奮したんですから、実際の選手なら難しさを知っている分、より障害を持った選手をリスペクトするでしょうね。

 

二宮: 特にケガに苦しんだ選手なら、なおさら障害者スポーツをリスペクトするはずです。しかし、今のようにオリンピックとパラリンピックを分けて開催していては、"心のバリアフリー"はなかなか実現できない。その意味ではオリンピックとパラリンピックの一元化は前向きにとらえるべきだと思います。

 

伊藤: それは子どもたちにとっても重要だと思うんです。子どもたちは障害者スポーツを見ると、「すごい!」と興奮するんですね。でも、それは「障害があるのに」ではないんです。障害があるかどうかなんて関係ない。目の前の選手のパフォーマンスを見て、素直に驚いたり、感動したり、掛け値なしにすごいものはすごいと言うんです。ところが、大人になるにつれて心にバリアができてしまうんですよね。どうしても「障害があるのに」という言葉が先に出てきてしまいがちです。しかし、子どもの頃から"心のバリアフリー"があれば、「障害があるのに」という言葉は出てこないのではないでしょうか。その点においても、やはり障害者スポーツが世界最高峰の大会であるオリンピックの種目として行なわれることは非常に意義のあることだと思います。

 

(第3回につづく)

 

宮澤保夫(みやざわ・やすお)プロフィール>

1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退後、72年に塾を開講。アパートの一室で2人の生徒からスタートした塾はやがて規模を拡大し、85年、現在の星槎学園の前身、宮澤学園を設立。不登校などの子どもたちを受け入れ、個々のニーズにあった教育を施す。現在は、星槎グループとして幼稚園から大学まで展開し、独特のカリキュラムで子どもたちに寄り添った教育が行なわれている。2010年には教育と医療の分野で世界の子どもたちをサポートする「一般財団法人世界こども財団」を設立した。

星槎グループホームページ http://www.seisagroup.jp/


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