伊藤: 宮澤さんの教育方針は「子どもはみんなそれぞれ違うのだから、教育の方法だっていろいろあっていい」ということですよね。スポーツも全く同じだと思います。障害のある子どもは学校の体育の授業で見学というケースも少なくないようです。しかし、道具やルールを少し工夫すれば、障害のある子どもも一緒にできる。その工夫をしようとしないところに問題があるのではないでしょうか。

宮澤: 日本人は、画一的にやりたがるところがありますよね。でも、そもそも10人いたら、10通りの意見があるように、授業の仕方も本当は子どもたち10人に対して、10通りあるんですよ。だからといって、10通りのことはなかなかできません。しかし、例えば、特性によって10人を3つのグループに分けて、3通りの授業をすることはできると思うんです。それだけでも、子どもたちには選択肢が与えられ、可能性が出てくるんです。

 

二宮: そういう発想ができるのは、宮澤さんが全ての子どもたちを認めているからなんでしょうね。「こういう子じゃなきゃダメ」ではなく、「こういう子もいるよね」「ああいうい子もいるよね」と。つまり、星槎グループの3つの約束の1つである「排除しない」ということにつながっているんでしょうね。

宮澤: そう! まさにその通りです。ただ、それってとても難しいことなんですよね。簡単そうで、なかなかできない。

 

 理想は仰木監督の指導法

 

二宮: スポーツの指導者においても同じことが言えるんですよ。監督やコーチは、選手を見ていると、すぐに「そうじゃない。それは間違っている」と、口を出したくなるものなんです。でも、練習法にしろ、フォームにしろ、絶対的なものなんてないんですよね。その選手に合ったものが一番いいわけです。そういう点ではプロ野球の仰木彬さん(故人)は選手を型にはめず、個性を認めることのできる監督でしたね。野茂英雄の"トルネード投法"しかり、イチローの"振り子打法"しかり。今では彼らの代名詞となっていますが、当時は「あんなの邪道だよ」という意見の方が圧倒的に多かった。しかし、仰木さんは決して否定しませんでした。「まずは認めることが大事なんだな」ということを教わりましたね。

宮澤: 仰木さんの指導方法は、星槎グループの教育方針と似ていますね。僕たち大人は、まずその子どもたちを認めるところから始めるんです。子どもたちはみんな、認めてもらいたいもの。それは選手だって同じですよね。

 

伊藤: ただ、やはり自分に置き換えても、認めることの難しさは身に染みて感じてしまいますね。すぐに「それはいい」「これはダメ」と判断してしまう。思わず「ダメだ」と言ってしまった時は、どうしたらいいんでしょう?

宮澤: 「ダメだ」と言ってもいいんです。ただ、その後に必ず「だけどね」というフォローの言葉がなくてはいけません。「だけどね、ここはとってもいいところなんだよね」と。そう言った後で、「ここの部分は間違っていると思うよ。なぜ間違っているかというと、こういう理由だからなんだよね」と言えば、相手も認めてもらったうえでの指摘ですから、素直に聞く耳をもってくれるんです。

 

(第4回につづく)

 

宮澤保夫(みやざわ・やすお)プロフィール>

1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退後、72年に塾を開講。アパートの一室で2人の生徒からスタートした塾はやがて規模を拡大し、85年、現在の星槎学園の前身、宮澤学園を設立。不登校などの子どもたちを受け入れ、個々のニーズにあった教育を施す。現在は、星槎グループとして幼稚園から大学まで展開し、独特のカリキュラムで子どもたちに寄り添った教育が行なわれている。2010年には教育と医療の分野で世界の子どもたちをサポートする「一般財団法人世界こども財団」を設立した。

星槎グループホームページ http://www.seisagroup.jp/


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