第202回 大晦日の『RIZIN』注目は「クロンvs.川尻」だ!
大晦日のスーパー格闘技イベント『RIZIN』(12月29・31日、さいたまスーパーアリーナ)が、いよいよ目前に迫っている。
無差別級トーナメントを中心に好カードがそろったが、その中で私が一番楽しみにしているのは、大晦日に行われるクロン・グレイシー(ブラジル/グレイシー柔術)vs.川尻達也(T-BLOOD)である。この一戦は、UFCと契約を解除した直後に川尻が望み実現に至った。RIZIN初登場となる川尻は、インパクトの強い闘いをしたい。そのためには、「勝って当たり前」ではなく「勝てるのか?」と周囲が思う相手が必要だったのだろう。
キャリアを見れば、川尻にアドバンテージがある。柔術、グラップリングマッチは数多くこなしているとはいえ、クロンはMMA(総合格闘技)では今回が4戦目。対して川尻は、2000年に修斗でデビューしてから数えて、すでにMMAを46戦こなしている。
逆に勢いがあるのはクロンだ。
2014年12月に『REAL.1』でデビュー。その後、山本アーセン、所英男を破り3連勝中で、いずれも一本で勝ちを収めている。
一方の川尻は今年未勝利である。2月と8月にオクタゴンに入って闘ったが、デニス・バミューデス(米国)、カブ・スワンソン(米国)に、ともに判定負けを喫した。
勝負を面白くする明確なファイトプラン
私も同じだが、大方の予想は「クロン優位」である。
上り調子にあるクロンと、絶頂期を過ぎた観のある川尻。この差は大きく、クロンが寝業に持ち込みサブミッションで決める可能性が高いように思うのだ。試合形式は、RIZINルール(1R10分、2R5分)ではなく、RIZIN特別ルール(1R10分、2・3R5分)。通常よりも5分長く試合時間は20分となる。クロンは落ち着いてチャンスを待ちながら闘うことができるはずだ。
とはいえ、川尻の一撃勝利が無いとも限らない。
「寝業になったら諦めます。いまさら凌ぐ対策をやっても勝てない。ただ絶対に負けたくないので(寝業には)持ち込ませません。自分の得意な状況に持ち込んでKOします」
先月に開かれた対戦カード発表の記者会見で川尻は、そう話した。
ファイトプランが明確であるだけに面白い。迷いながらリングに上がってしまい、そのうえで寝業を過度に警戒してしまうようなら、クロンにペースを握られる可能性が高いが、川尻は、それを最初から回避している。
逆にクロンに打撃を警戒させる。そして先にパンチを顔面に叩き込むことができたならば、川尻がプラン通りの展開に持ち込めるかもしれない。おそらく川尻が狙っているのは、開始直後の一撃だろう。
「特に対策は考えていません。自分がやるべきことができれば、自然に結果はついてくると信じています」(クロン)
川尻よりも10歳若いが冷静なクロン。対して“熱きクラッシャー”川尻。どちらが勝つかで来年の「RIZIN中量級」の勢力図が大きく変わる。
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。
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