2016年はリオパラリンピックが開催されたこともあり、パラスポーツの認知度が大きく上がった年でした。15年、内閣府が行った調査では「パラリンピックを知っている」という人の割合は98.2%に上っています。
 そんな中、様々な自治体や団体、もちろん私たちNPO法人STANDも各地でパラスポーツの体験イベントを開催しています。また、チームや選手が練習する機会も増えています。ここで多くの団体が直面するのが「スポーツ施設を借りる」という高い壁です。

 

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Photo/竹見脩吾

 国や自治体のパラスポーツに関する理解は急速に進み、体育館などのスポーツ施設はパラスポーツの使用に開放する方向です。しかしそれでも現場との間にはギャップがあります。
 リオパラリンピックの直前に日本パラリンピアンズ協会が発表したアンケート「パラリンピック選手の競技環境」によれば、「障がいを理由にスポーツ施設の利用を断られた経験、条件付きで認められた経験の有無」は、パラリンピアンの21.6%が「ある」と回答していました。特にウィルチェアーラグビーや車椅子バスケットボールなどの車椅子系スポーツの選手から、そうした声が寄せられていました。

 

 私たちも「車椅子の競技にはちょっと……」と断られたり、借りることはできてもそこには条件が付いたり、ということも実際に経験しています。
 条件としては以下のようなものがありました。「体育館の床面を養生するか、スポーツコート(樹脂製マット)などを設置する」「通常のモップがけの清掃だけでなく、早めに切り上げて床拭きの清掃をする」「通常のイベント保険以外の保険をかける」「備品の使用禁止、または使用に制限を設ける」「使用した備品の清掃料を負担する」などです。

 

 通常のスポーツで使用するよりも料金や使用時間の面でハードルが高い、そう感じてしまうのは否めないところです。そういう条件が付くと団体や選手としては、それを承知で施設を貸してもらうか、使用を諦めるか、という二択になってしまいます。パラスポーツがもっと普及、認知されるためには、こうした施設貸与のことももっと考えていくべきでしょう。

 

 ところでパラスポーツへの施設貸し出しのハードルが高いのはなぜなのでしょうか。施設の所有者である国や自治体の理解は深まっている、と先に述べました。しかし自治体などから管理を任されている指定管理会社が、パラスポーツでの利用を制限してしまうケースもあると聞きます。
 もちろん指定管理会社の挙げる理由ももっともです。年間委託料が決まっている中で施設修繕の必要が出るとそれは予定外の支出になります。そうなると管理会社の利益率が下がってしまいます。そのリスクを回避するのは、至極当然な成り行きと言えます。

 

 さて、そもそもなぜパラスポーツに使用するとなると「借りにくいのか」に戻ります。「汚れる」「傷がつく」というのが、根本的な理由です。でもこのままでは、進展の緒が見つかりません。

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Photo/竹見脩吾

 そこで、こんなことを考えてみました。日常生活を送る中で、どんな物も使えば傷や汚れがつくのは当たり前のこと。お気に入りの物ほど使用頻度が高くなり、その分、傷むのも早いものです。

 たとえばお気に入りで長く使っている革製品が身近にありませんか? 一つひとつの傷や汚れに思い出があることも少なくないでしょう。ほころびが出たら修理を重ねて、使えば使うほど、愛着がわいてきます。

 

 汚れること、傷つくことを避けるために使わないでおくとしたら、それは本末転倒です。スポーツ施設も同じ。使って、汚れて、傷ついてこそ、愛されるスポーツ施設という考え方もあってもいい。新しい年を迎えるにあたって、発想を変えてみるのもいいのではないでしょうか。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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