第74回 体を動かすことが、次の行動を起こすきっかけになる
10月に、神奈川県主催の「かながわパラスポーツフェスタ2016」のお手伝いをしました。このイベントは「パラアスリートから学び、一緒に体験してみよう!」をテーマにして、パラアスリートとふれ合い、パラスポーツを体験するというものです。
2つの会場で行われたイベントには車いす陸上の花岡伸和さん、射撃の田口亜希さんの両パラリンピアンに特別ゲストで来ていただきました。地域の老若男女、障がいのある人ない人、約2500人が来場してくださいました。
会場では、車いすバスケットボール、ボッチャ、ゴールボールなどの体験会を行いました。
当日、こんなシーンを目にしました。ご両親、お姉さんと一緒に来場した車いすに乗った小学生の男の子。花岡さんが「一緒に走ろうぜ」とグラウンドに誘いました。トラックに並んで「よ~いドン!」と一緒に車いすで走り、お姉ちゃんは走りながら弟について行きました。
初めて車いすで陸上のトラックを走った男の子。しかも、パラリンピック選手と一緒に。よほど楽しかったのか男の子はトラックを1周した後、「もう1回」と花岡さんにおねだりします。もちろん花岡さんと一緒にもう1周。「今日のあの子の顔はきらきらして輝いている」と、一緒にいたご両親はとても感激しているご様子でした。「来てよかった」と思っていただけたと感じた瞬間でした。
もう1人は脳性麻痺の10代の女性でした。電動車いすに乗る彼女はケアトランポリンに挑戦しました。これは丸くて小さいトランポリンで、手すりもついていて補助する人もついてくれる車いすのまま乗れる物です。初めは恐る恐る、不安でいっぱいの表情でしたが、車いすと一緒に少しずつ上下に揺れるうちに彼女の表情に変化が出ました。生まれて初めて「飛んだ」「体が浮いた」という感覚に興奮、感激して頬が紅潮していたのです。
さらに勧められた彼女はボッチャも体験しました。ボッチャはジャックボール(目標球)という白いボールに、赤と青のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競うものです。
目標の近くにいかにボールを投げるか、彼女は初めてのスポーツに夢中になりました。体験時間を過ぎても「もっとやりたい」という気持ちがあふれているのか、すぐに順番待ちの列に並んでいました。
指導の先生に「ゆっくり。納得が行くまで、何度でも」と教えてもらって、最初よりも思った場所にボールがいくようになりました。先生に「パラリンピックを目指してみましょうか」と言われると、大きく頷き、笑顔がこぼれました。すると周り中にも笑顔が広がったのでした。
さて先ほどの車いすの男の子ですが、花岡さん宛にご両親からこんな連絡があったそうです。
「花岡さんと一緒にトラックを走って以来、毎日学校から帰って来ると"運動場へ連れて行ってー"とせがむようになりました。息子がなんだか変わったように思います。きっかけをくださってありがとうございます」
これらは2500分の2の例ですが、初めてスポーツに触れたり、体を動かしたりしたことが、何かのきっかけになったはずです。体験会の開催は、体験したスポーツを続けてもらうことだけが目的ではありません。スポーツでもなんでもいい、変化のきっかけになって欲しいと考えています。彼らを見ていて、次の行動を起こしてくれることを確信できました。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>