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(写真:前人未到の偉業を成し遂げ、8度宙を舞った岩出監督)

 9日、全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、帝京大学(関東対抗戦Aグループ1位)が東海大学(関東大学リーグ戦1部1位)を33-26で下し、8連覇を達成した。帝京大は東海大の圧力に押され、前半6分と17分にトライを許す苦しい展開だった。それでも2トライを返し、前半のうちに追いつく。後半開始早々に再びリードされたものの、3トライを挙げるなど逆転して引き離した。

 

 2年連続同一カードとなった決勝戦は、帝京大が地力を発揮し、王座を守った。

 

 序盤、帝京大は東海大の強力FWに押され、自陣でプレーすることを強いられた。キックオフのボールをノックオンすると、相手ボールのスクラムとなった。そこから圧力をかけられ、6分にはHO大塚憂也(3年)のトライを許した。コンバージョンキックも決められ、0-7とリードされる。16分にはスクラムからNo.8テビタ・タタフ(2年)に押し込まれ、14点のビハインドを負った。帝京大はハンドリングエラーが目立ち、東海大にターンオーバーを許すなどボールをキープできない。

 

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(写真:激しいマークを受けながらゲームをコントロールした松田<中央>)

 しかし、帝京大は焦らなかった。「スクラムで押し込んでくることは予測していた」と、キャプテンのFL亀井亮依(4年)は振り返る。司令塔のSO松田力也(4年)も「後ろから見ていても、帝京のFW8人がまとまっていて頼もしく映りました。今までやってきたことを信じて、自分たちができることをやり続けた」と一体感を持って戦った。松田は試合中、FW陣に声を掛けながら、チームを鼓舞した。

 

 プレーでも落ち着いてゲームメイクしたのが松田だ。キックを多用して陣地を稼いだ。松田は「東海大学さんのFWを後ろに走らせたら、フィットネスが落ちてくると思った」と説明。34分には相手の裏を突くグラバーキック。跳ね上がったボールをNO.8ブロディ・マクカラン(4年)がキャッチして、そのままインゴールへ飛び込んだ。38分には松田のパスを受けたCTB矢富洋則(3年)が鋭いステップワークで東海大のマークをかわすと、中央左にトライを決めた。松田はコンバージョンキックを確実に決めて、同点に追いついた。

 

 前半を終えて14-14。白熱の決勝戦は残り40分間で勝負が決まる。ハーフタイム、帝京大の岩出雅之監督はロッカールームの選手たちを見て、“これで大丈夫だな”と感じたという。「すごく元気になっていました。もう1試合できそうだった」。序盤苦しみながらも同点に追いついたことで、気持ちが乗っていたのだろう。選手たちは意気揚々とピッチに戻ってきた。

 

 ところが、後半開始早々にスコアを動かしたのは東海大だった。帝京大SH小畑健太郎(2年)がハーフウェーライン付近で、ボールを受けると左へ展開しようとした。そのパスを東海大のSH湯本睦(4年)がインターセプト。そのまま独走してトライを奪った。コンバージョンは外れたものの、帝京大は14-19と再びビハインドを負う展開となった。それでも帝京大のWTB竹山晃暉(2年)は「リードされていたんですけど、FWがいいセットプレー、プレッシャーをかけてくれていたので、僕自身は絶対に自分たちに流れが来ると思っていました」と心は折れない。

 

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(写真:タッチラインギリギリでインゴールに飛び込んだ吉田)

 ワイドに展開して攻撃する帝京大。東海大も消耗してきたのかFW戦でも負けなくなってきた。15分に矢富がトライを奪って、再び追いつく。矢富のトライを演出したのはLO姫野和樹(4年)が大きくゲインしたからだった。23分には小畑、FL飯野晃司(4年)、マクカランと左へ繋いで、最後はWTB吉田杏(3年)が大外で抜け出した。吉田はタタフのタックルを受けながらも、左隅に飛び込んだ。24-19とついに帝京大が勝ち越した。難しい角度のコンバージョンキックも松田が決めてリードを7点差に広げた。

 

 地力に勝る帝京大は、松田のキックで加点する。28分、中央左22mライン付近でボールを受けた松田が、竹山とのアイコンタクトでキックパスを選択。左足から放たれた東海大の裏を突いたキックは、インゴールへ向かって跳ねていく。そのボールにFB野口竜司(4年)と競り合いながら、竹山が飛び込んだ。レフェリーが協議する微妙な判定ではあったものの、トライが認められてリードを広げた。冷静に状況を見極めた松田は、コンバージョンキックも沈め、33-19と勝利を手繰り寄せる。

 

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(写真:ノーサイドの笛が鳴った瞬間、帝京大のフィフティーンは歓喜に沸いた)

 帝京大は34分に東海大にスクラムトライを許したが、終了間際には相手の圧力に耐え抜いた。ゴール目前まで迫られながら、ボールがこぼれたところをすかさず奪い取り、最後は松田が外に蹴り出してノーサイドの笛が鳴った。33-26で帝京大が逃げ切り、8連覇を達成した。「僕は学生を信じていました。最後は笑えると、それしか思っていませんでした」と岩出監督。最上級生の亀井と松田は「チーム全員で笑えたこと」を誇り、喜んだ。

 

 V8という日本ラグビー史の金字塔を打ち立てた。7連覇で並んでいた新日鉄釜石、神戸製鋼はいずれも社会人チーム。選手の在籍年数に限りがある学生スポーツでは、その価値はさらに高い。「8連覇はとても重い数字」と口にする岩出監督。「本当に10年近く学生が根気よく続けてきた結果だと思います。今年1年は今年の学生が頑張った。8連覇を9連覇にしていく目標にしてくれたことを後輩たちが受け止めて、頑張っていきたいと思います」と語った。

 

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(写真:21日に学生王者としてTL王者に挑む帝京大)

 約2週間後の21日にはトップリーグの優勝チームと日本選手権準決勝を戦う。大学生チームの出場は今大会限りと言われている。岩出監督が「優勝とトップリーグのチームに勝つことを目標にしてきた。思い切ってぶつかっていきたいと思います」と言えば、亀井は「学生代表として、学生枠はラスト。このチャンスを生かし、自分たちの積み重ねてきたものを思う存分出し切りたいと思います」と意気込んだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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