鈴木尚広(元プロ野球選手)<前編>「中日戦が一番燃えた」
二宮: 今回は昨シーズン限りで巨人を引退した鈴木尚広さんをお迎えしました。おつかれさまでした。
鈴木: ありがとうございます。
二宮: 20年の現役生活をそば焼酎『雲海』の「そばソーダ」を飲みながら振り返っていただきます。鈴木さんはお酒は強い方ですか?
鈴木: まあ弱くはないですね。いやいや、やっぱり弱いですね(笑)。
二宮: お酒好きの方はみんなそう言うんですよ。で、いかがですか、「そばソーダ」は?
鈴木: 雲海というのは宮崎のお酒ですよね? 巨人のキャンプのときから飲んでいて馴染みがあるので、懐かしい味です。
二宮: では「そばソーダ」を飲みながら、足のスペシャリストとして駆け抜けた思い出話をうかがいましょう。
鈴木: お先に一口いただきます。うん、すっきりしていて、これなら1本くらいすぐに空きそうですよ。
二宮: さて鈴木さんは38歳で引退しました。普通は年齢を重ねると足は遅くなるものですが、鈴木さんは最後まで俊足のままでした。「なんだ、オレより速いヤツはいないじゃないか」と、現役生活に未練はありませんか?
鈴木: 未練や心残りはまったくありません。足の速さ云々はありますけど、でも自分としてはもうやるべきことは全部やったので、まったく悔いはありませんね。
二宮: そこまで言い切るということは、高橋由伸監督の慰留があったとしても現役続行はなかったんですね。
鈴木: 監督には引退を決めてから報告に行ったんですよ。だから監督も「お前が決めたことに対して、自分がどうこう言うことはない。それにお前は自分で自分のことを決められる立場にいる人間だ。だから俺はその決断を尊重する」と、言っていただけました。
二宮: 横浜DeNAとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ第3戦のことをうかがいます。9回無死一塁から代走で出て、そこで鈴木さんは牽制で刺されました。この瞬間を見ていましたが、「エッ、まさか」という感じでした。
鈴木: あのときはもう自分が自分じゃないというか、最初の牽制のときから投手と合ってない感覚があったんですよ。
二宮: 相手の田中健二朗投手と?
鈴木: あまり対戦したことがない投手ですが、それは関係ありません。感覚が合ってない中で、それでも勝負しなきゃいけない状況でした。そこで気持ちが整理できないままだったのが原因ですね。結局は自分のミスなんですが、チームには非常に申し訳ないことをしました。ましてやCSですからね……。
二宮: 昨シーズン、10度の盗塁を失敗なく決めていた鈴木さんでも、ああいうことがあるんですね。
鈴木: いつも完璧だと思われていたから、そういう部分では少しホッとした感じもあります。"オレだって人間なんだよな"って思いました。
球場は常に一番乗り
二宮: さて鈴木さんは福島県の相馬高から、ドラフト4位で巨人に入団しました。失礼ですが相馬高は強豪校ではありませんよね。
鈴木: 県内3回戦がやっとというレベルでした。それでも巨人以外にも近鉄、横浜のスカウトの方がよく見に来ていたようです。でも"まさか自分が指名されるとは"と驚きました。
二宮: 高校時代のポジションと打順は?
鈴木: ショートで、打順は1番や2番でしたね。
二宮: 当時から俊足だったんでしょうね。
鈴木: まあ、走ればほとんど盗塁は成功してましたね。足には自信がありましたが、プロに入ったらそんなものは吹き飛びましたね。
二宮: レベルが違いましたか?
鈴木: すべてのことに目がついていかないんですよ。球も速いし、人の動きも速い。たとえば投手のクイックにしても、パッと動いたらもう投げてるみたいな感じで、盗塁するどころの話じゃありませんでした。瞬きした瞬間ですから動けないんですよ。イースタンですらそうなんですから、1軍となったらどんな場所なのか……。
二宮: これはすごい所に来てしまったな、と。
鈴木: ですね。ただ僕の勝手なイメージでしたが、とりあえず高校を出て4年間は球団に置いてもらえるだろうと考えてました。根拠があるわけではなく"大学に行ったと考えれば4年間は大丈夫だろう"と。
二宮: 1997年の同期入団にはどんな選手がいましたか?
鈴木: ドラフト同期は入来(祐作)さん、小野(仁)さん、三澤(興一)さんなどでしたね。みんな即戦力で、それに対して僕は1年目は骨折などケガばかりしてて、"最初に辞めるだろう"と見られてたでしょうね。そんな自分が一番最後まで現役を続けていたんですから分からないものです。
二宮: 現役を長く続けられたのは日々の節制の賜物でもあったんでしょう。普通は38歳なら足は衰えるし、体重も増えて体型も変わるものですが。鈴木さんは引退した後でもスマートですよね。
鈴木: 節制ということに関しては徹底してやってきました。野球に全部を注いでいたので、食事からトレーニングから何から何まで野球中心に考えてました。
二宮: そういえば鈴木さんはいつも一番最初に球場に入っていたんですよね。球場入りは何時だったんですか?
鈴木: ナイターの場合は遅くても午前11時、デーゲームだと朝7時に球場入りしていました。
二宮: 午前中のドームなんて誰もいないでしょう?
鈴木: 僕が行くと警備員さんがちょうど鍵を開けにくる感じでしたね(笑)。
二宮: 球場に到着してからのルーティンについて教えてください。練習開始までどう過ごしていたんでしょうか。
鈴木: 車通勤だったのでまずはジェットバスで足湯につかってリラックスして体をほぐします。その後にお風呂に入って、体を動かす準備をしていきます。ストレッチを40~50分間やって、その後に1時間から1時間半、体幹トレーニングをやります。それが終わったらランニングをして、その後にようやくユニフォームに着替えて、チーム練習が始まる、という流れでした。
二宮: ランニングは球場の中ですよね? どれくらいの距離を走っていたんですか。
鈴木: 特に決めてなくてその日、その日の感覚で距離や時間は変えていました。ストレッチやトレーニングも基本は決まってますけど、その日の感覚で変えていました。
二宮: しかし鈴木さんくらいのベテランが早く来てると、他の選手も見習うようになったんじゃないですか?
鈴木: そうですね。最初は誰もいなかったんですが、段々、早く来るようになっていましたよ。その辺りは毎年の査定でも球団に評価していただきましたね。
二宮: 後輩たちに黙って背中で教えていたわけですね。あと食事面ではどういうことに気をつけていましたか?
鈴木: 朝はバナナを1本程度にして、それでトレーニングの後におそばなどの炭水化物とプロテインをとってました。どうしても筋肉を使うから補修のためにプロテインは必要だし、エネルギーとしての炭水化物、糖質も大事だと考えてました。
二宮: そういうのは栄養士さんがついたりしたんですか?
鈴木: いや特に栄養士はついてなかったんですが、とにかくあまり食べ過ぎると胃に負担がかかって眠たくなるし、動きも悪くなる。それが経験で分かっていたので、その点は気をつけていましたね。だからどか食いではなく、ちょっとずつ細かく食べていたし、体重は毎日計って、ベストの74キロから減ったり増えたりしたら食事を調整していましたね。
二宮: シーズン中、お酒は?
鈴木: お酒はリラックスするために飲んでいましたよ。試合後や遠征先では先輩と一緒に飲んでプロの心構えなどを教わりました。
二宮: そこで気付いたり、学んだことも多いんでしょうね。
鈴木: 考え方にしても何にしても先輩の経験談は参考になりました。こういうときにはこうやって考えているんだぞ、とかメンタルの部分で多くを教わりましたね。そういうグラウンド以外のお酒の席でもいろいろと勉強させてもらいましたね。
二宮: それは、いいお酒との付き合い方ですね。今日も「そばソーダ」でリラックスしてきたんじゃないでしょうか。
鈴木: そうですね。何でも話せる気分になってきました(笑)。
二宮: ところで鈴木さんが現役時代、一番走りにくかった相手チームは?
鈴木: 中日の谷繁(元信)さんのマークがきつかったですね。
二宮: 谷繁さんといえば強肩でインサイドワークにも優れたキャッチャーですからね。
鈴木: 僕が塁に出ると谷繁さんは"走ってみろよ"って感じでギラギラの視線を送ってくるんですよ。目で牽制するみたいな感じで。こっちも"走ってやろうじゃないか"って。谷繁さん相手に盗塁を決めると本当に気持ち良かったですね。
二宮: 足のスペシャリストはキャッチャー、ピッチャー、そして内野手とも戦う必要があります。当時の中日は二遊間をアライバ、荒木雅博選手と井端弘和選手のコンビで固めていました。これも手強かったのでは?
鈴木: 盗塁守備で一番うまかったのは東京ヤクルトの宮本慎也さんで、キャッチャーの送球ミスをほぼ帳消しにしていました。センターに抜ければ三塁まで一気に行けるんですが、それはほぼなかったですね。それに続くのが荒木選手です。リカバリー能力もすごいし、タッチもストンと落とすだけで無駄な動きがないんですよ。
二宮: 中日の投手陣はどうでしたか。鈴木さんが出るゲーム終盤は浅尾拓也投手、岩瀬仁紀投手がマウンドに立っていました。サウスポーの岩瀬投手は走りにくかったのでは?
鈴木: 実は岩瀬さんの牽制はそう怖くありませんでした。牽制なら浅尾投手の方が上ですね。ターンが速いので、ものすごく気を使いましたね。
二宮: 鈴木さんが塁に出る。それは"盗塁しますよ"ということですから相手は当然、厳しく牽制してきますよね。
鈴木: ただ僕の仕事は盗塁することだけじゃないんですよ。ホームに戻ってきて初めて仕事をしたと胸を張れましたね。
二宮: 鈴木さんほどのスペシャリストなら盗塁は常にフリー、いわゆるグリーンライトだったんじゃないんですか?
鈴木: 状況に応じて「待て」のサインも出たし、走らないという選択肢もありました。僕が塁にいることで相手にプレッシャーがかかる。それで攻撃の幅を広げるのも役割のひとつでしたからね。
二宮: 確かに、バッターに集中したいのにそれができないんですからね。相当な揺さぶりになりますよね。
鈴木: ゲーム終盤、ここぞという場面で出て、相手に嫌がられてなんぼという役割でした。
二宮: なるほど。では盗塁の技術的なことを含めて、次回はさらに深い話をうかがいます。
鈴木: その前に「そばソーダ」をもう1杯いただきます。
二宮: 1本が空になりそうなスピードですよ。
鈴木: ピッチが早すぎましたかね(笑)。今なら、足より速いかも。
(つづく)
<鈴木尚広(すずき・たかひろ)プロフィール>
1978年4月27日、福島県生まれ。97年、相馬高からドラフト4位で巨人に入団。俊足を生かし主に代走、守備固めとして活躍。7度のリーグ優勝、3度の日本一を経験した。05年から12年連続で2ケタ盗塁を記録。08年には外野手としてゴールデングラブ賞に輝いた。14年4月に通算200盗塁を達成。その翌月には代走での盗塁NPB新記録(106)をマークし、現役引退までに132個まで記録を伸ばした。15年、オールスター出場。通算盗塁200個以上の選手で史上最高の盗塁成功率.829を誇る。
今回、鈴木さんと楽しんだお酒は本格そば焼酎『雲海』。厳選されたそばと、宮崎最北・五ヶ瀬の豊かな自然が育んだ清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎です。ソーダで割ることで華やかな甘い香りが際立ちます。
提供/雲海酒造株式会社
<対談協力>
うらら
東京都中央区銀座8-6-15銀座グランドホテルB1
TEL: 03-6228-5800
営業時間: 朝食バイキング/7時~10時(最終入店9時30分)、ランチ&ディナー/11時30分~翌4時(LO翌3時、土日祝は22時まで。LO21時)
定休日・無
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◎クイズ◎
今回、鈴木さんと楽しんだお酒の名前は?
お酒は20歳になってから。
お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は絶対にやめましょう。
妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。