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(写真:試合後に言葉を交わした両者)

 ボクシングの日本スーパーバンタム級タイトルマッチが4日、東京・後楽園ホールで行われ、王者の石本康隆(帝拳)が同級1位の久我勇作(ワタナベ)に2ラウンド2分49秒でTKOで敗れた。石本は3度目の防衛に失敗した。通算戦績を38戦29勝(8KO)9敗。ベルトを奪取した久我は17戦14勝(10KO)2敗1分けとなった。

 

『チャンピオンカーニバル』と銘打たれた興行は、日本王者に指名挑戦者が対戦する。約1年1カ月ぶりのリターンマッチとなったスーパーバンタム級は勝者と敗者が入れ替わる結果となった。

 

 後楽園ホールに詰めかけた両者の応援団が試合前から声を張り上げて声援を送る。“勝ちたい”“勝たせたい”という熱気が会場の室温を何℃か上昇させていた。リングアナの呼び込みで青コーナーからは挑戦者の久我がリングへ向かう。

 

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(写真:終始落ち着いていた表情の石本)

 続いてチャンピオンの登場。「石本康隆」の名がコールされると、いつもの入場曲Hi-STANDARDの『BRANDNEW SUNSET』が流れる。ベルトを掲げた陣営と共に赤コーナーから戦場に立った。石本は小さく拳を挙げて声援に応える。王者として3戦目のリング。自身6度目のタイトルマッチだ。前戦では「いつになっても緊張する」と話していたが、慣れた様子にも見えた。

 

 ゴングが鳴ると同時に仕掛けたのはチャレンジャーだった。強打を武器に前回の対戦時も押していた印象はあるものの、今回はそれ以上に最初からアクセル全開だった。1分が過ぎたころだった。久我の右フックが石本を襲う。ダウン――。パンチが当たったというよりはスリップ気味にも映ったが、レフェリーはカウントを取った。「倒れた方が悪い」と石本は振り返った。

 

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(写真:拳が交錯する。機先を制した者が勝者となった)

「2ポイント取られただけ。“大丈夫だ”と頭は冷静でした」と石本。インターバル間の表情は、笑顔が見えるなど落ち着いていた。挑戦者の鋭い出足に面食らった様子はなかった。迎えた第2ラウンドは打撃戦の様相を呈した。石本も左ボディやワンツーを放って攻める。先手は取られたが、ここからチャンピオンによる反撃開始の狼煙かと思われた。

 

 それでもチャレンジャーは一歩も退かなかった。左ボディで石本の動きを止めると猛ラッシュ。石本は必死に耐えようとする。多少、頭は下がっていたが、“ここを凌げば”との思惑はあったはずだ。しかし残り時間が10秒切る前に、レフェリーが2人の間に割って入った。石本のセコンドからタオルが投げられたからだ。

 

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(写真:リベンジマッチを制し王者となった久我<左>)

 正直、まだやれるようにも見えた。だがボクサーを守るのもトレーナーの仕事だ。誰もこの判断を責めることはできないだろう。石本も潔かった。

「自分ができると思っていても傍から見れば違うということ。ボクサーはみんな“やれる”“効いていない”って言いますから」

 

 石本はリング上で久我と抱き合うと「おめでとう」と9歳下の新王者を祝福した。四方に頭を下げてリングを降りた元王者。試合後の控え室で「先手を取られてしまった。相手がすべて上回っていました。(自分の力を)出す前にペースを握られた。自分が弱かった」と敗因を分析した。

 

 石本は1年以上守り抜いてきたベルトを失った。新チャンピオンとなった久我は言った。「石本さんのおかげで強くなれた」。昨年12月、石本に敗れたことで彼は変わった。久我を指導する今関常秀トレーナーは「前回の対戦ではお人好しな部分がボクシングにも出ていた。石本君のズル賢い部分や気持ちの部分に押された。でもあの負けにお釣りが出るくらい成長できた」と話した。

 

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(写真:応援団に頭を下げる石本<右>と田中トレーナー)

 35歳の石本はこれまで勝つたびに「これでボクシングを続けていける」「もう後がない」「職がつながった」と口にしてきた。それだけ一戦一戦、進退を懸けていたということだろう。「心に決めている答えはある」。そう語る石本の目は赤かった。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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FORZA SHIKOKU 2014年1月掲載

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