FIFA技術部門責任者のマルコ・ファンバステンが披露したオフサイド廃止を含む複数の改革案が波紋を広げている。中にはPKルールの変更というものもある。現行のルールはゴールラインからペナルティースポットまで11メートルというものだが、これを約23メートルにのばすかわりにキッカーには8秒の時間が与えられる。ドリブルも認められる。かつてNASLやMLSで実施されていたシュートアウト方式を採用しようというのだ。

 

 個人的にはオフサイド廃止にもシュートアウト制の導入にも賛成しない。ファンバステンは「サッカーをより魅力的なものにするための改革」だと主張しているが、メリットよりもリスク、効果よりも副作用の方が大きいと予想される。

 

 しかし、いわゆる、“炎上”覚悟で大胆かつ過激な改革案を披露したことに対しては敬意を表したい。誰かが悪役にならなければ、スペクタクルを失いつつある現状を打開できないとの使命感が彼にはあるのだろう。

 

 これはサッカーに限らず言えることだが、欧米人はルール変更に関する論争をいとわない。ルールを制する者が戦いを制するという考えが根底にはあるからだ。

 

 昨年、世界を揺るがしたブレグジット(Brexit)にしてもそうだ。ドイツやフランスが中心となって決めたルールになぜ、7つの海を支配した大英帝国が唯々諾々と従わなければいけないのか。そんなアングロサクソンの誇りとおごりが見てとれる。

 

 翻って日本人はルールをつくったり変えたりするのが苦手だ。「校則を守るのがいい子」。この刷り込みは、大人になったからと言って急に変わるものではない。

 

 だからこそ、この御仁は異色に映る。日本ラグビーフットボール協会理事の河野一郎だ。

 

「背の低い日本人が有利になるには、どうすればいいか」。ラインアウトの際のリフティングは今では見慣れた光景だが、河野によると、北半球のラグビー関係者のほとんどが「人の助けを借りるのはおかしい」と言って反対したという。「(リフティングの)ルール化は日本ラグビーにとっての生命線」。技術委員会でのタフな交渉の末に“合法”との方向性が示されたのは約20年前のことだ。歴史的勝利を収めたイングランドW杯での南ア戦、日本のラインアウト獲得率は93.5%を記録した。ルールには支配という意味もある。自らに有利なルールをどう構築するか。ここが戦いの起点となる。

 

<この原稿は17年3月1日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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