ホームランは“野球の華”である。ベーブ・ルースの存在なくしてメジャーリーグが、ここまで発展することはなかっただろう。それは王貞治と日本プロ野球の関係についても同じことが言える。

 

 そのホームランの数がMLBでは年々、増加している。14年に4186本だったホームラン数は15年4909本、16年5610本。それに比例するようにピッチャーの防御率は14年3.74、15年3.96、16年4.18と下降線をたどっている。

 

 こうした“打高投低”にさらに拍車をかけようということなのだろうか。先頃MLBはストライクゾーンに関するルール変更を選手会側に提案した。これまでストライクゾーンの下限はヒザ頭の下のくぼみ(hollow)までだったが、それをヒザ頭の上まで2インチ(約5センチ)引き上げるとしている。

 

 5センチと言えばボール1つ分に近い。ストライクゾーンの上限は変わらないわけだから、ピッチャーは圧倒的に不利になると見られる。そのまま導入されれば死活問題である。

 

 周知のようにこの話は、今になって急に持ち上がってきたものではない。昨年も米球界を賑わした。概ね打者には好評だったが、投手には総スカンだった。

 

 その一方で故意四球(intentional balls)については審判に意思表示さえすれば、自動的に一塁を与えるという機構側の案が、いよいよ選手会側の承認を待つだけとなった。要するにピッチャーは4球ボール球を投げる必要がなくなるのだ。

 

 このルール変更案の背景には試合時間短縮の狙いがあると見られている。MLBは約3時間。NBAの2時間14分あたりと比べると、確かに長い。人間の集中力は90分が限度という説もある。

 

 しかし、それならば打高投低ではなく投高打低にカジを切るべきだろう。興行的には打撃戦が望ましいが、かといって試合が長引くのは困る――。ルール変更から透けて見える経営者側の本音は少々、ムシが良すぎるのではないか。

 

 ベースボールといえば、ある意味米国の国技だが、先の二つのルール変更はこの競技の背骨に関わる問題である。深い議論もなく変更するとなれば、御都合主義の誹りを免れない。それに日本が“右へ倣え”する必要はない。

 

<この原稿は17年2月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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