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(写真:山中はWBCの他、米リング・マガジン認定ベルトも持つ)

 いま、日本人のプロボクシング世界チャンピオンは、暫定王者(WBO世界ミニマム級)の福原辰弥(本田フィットネス)を含めて9人いる。

 

 その中で、人気、実力両面で日本のボクシング界をリードしているのは次の3人だろう。

 

 山中慎介(帝拳=WBC世界バンタム級王者)

 井上尚弥(大橋=WBO世界スーパーフライ級王者)

 井岡一翔(井岡=WBA世界フライ級王者)

 

 山中は、さる3月2日、東京・両国国技館で挑戦者カルロス・カールソン(メキシコ)を7ラウンドTKOで破り、12度目の王座防衛に成功した。次のタイトルマッチで王座を守ると、具志堅用高(元WBA世界ジュニアフライ<現ライトフライ>級王者)が築いた13度王座防衛の日本記録に並ぶことになる。

 

 井上はプロ8戦目で世界2階級を制した“モンスター”だ。昨年12月30日、東京・有明コロシアムで元WBA世界スーパーフライ級王者の河野公平(ワタナベ)を6ラウンドTKOで下し、4度目の防衛を果たした。「パウンド・フォー・パウンド最強」と称されるローマン・ゴンサレス(ニカラグア=4階級制覇の現WBC世界スーパーフライ級王者)との対決に照準を絞っている。

 

 そして、4月23日にエディオンアリーナ大阪で、現在61連勝中のノクノイ・シットプラサート(タイ)を相手に5度目の防衛戦を行う井岡。世界最速で3階級を制覇した彼は、「超攻撃型」のスタイルを標榜し、4階級制覇を目論んでいる。

 

 階級が1つずつ異なるとはいえ、フライ級(50.8キロ以下)からバンタム級(53・52キロ以下)の間に、この3王者はいる。この3人の中で果たして誰が一番強いのだろうか?

 

 軽量級というと、テクニックを重視され判定決着が多いのが常である。だが、この3人は違う。一撃で相手を倒すハードパンチを備えており、そこが魅力なのだ。世界タイトルマッチの枠を飛び越えて、この3人における直接対決を観たいと思うのは私だけではないだろう。

 

 記録よりも記憶の勝負を

 

 昔の話になるが、現役の日本人世界チャンピオン同士がノンタイトル戦で闘ったことがあった。

 

 1970年12月3日、東京・日大講堂で小林弘(中村)と西城正三(協栄)が拳を交えた。当時、小林は世界ジュニアライト級王者、西城は世界フェザー級王者だった。団体が乱立する以前のことだから、なおさらに価値があり、また両者にとってリスクを伴ったマッチメイクだったと思う。

 

 この時は、契約ウエイトは58.97キロに合わされた。試合はクロスファイトになり、結果、ジャッジ泣かせの2-1の判定で小林の手が挙げられている。だが内容的には、どちらが勝者でも良かっただろう。ファンはこのハイレベルの攻防に大熱狂し、世間のボクシングに対する注目度もさらに高まったのである。

 

 半世紀近くの時を経て、ボクシングファンが最も感情移入ができ、また熱狂できる闘いを再現できないだろうか。

 

 山中vs.井上、井上vs.井岡、さらに1つ階級を飛び越えて山中vs.井岡。タイトルマッチであることにこだわる必要はない。ノンタイトル戦でいい。ウエイトリミットは、間を取ればいいと思う。ベルトよりもプライドを賭けての拳の交錯が観たいのだ。

 

 記録よりも記憶――。

 

 世界タイトルマッチを超えた珠玉の日本人対決の実現を願っている。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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