photo by Shugo Takemi_TAK3875

(写真:義肢のブレードやソケット調整はパフォーマンスアップのために必要不可欠なのだが……。写真/竹見脩吾)

 先日、インタビュー取材の機会があり、新豊洲Brilliaランニングスタジアムへ足を運びました。この施設では全天候型の60m陸上トラックのすぐ横に義足開発ラボラトリーが併設されています。公式サイトには「誰もが走る喜びを実感できる(中略)世界で初めてのユニークな施設です」と書いてあります。

 

 確かにユニークでした。そしてパラアスリートにとっては願ってもない施設です。このスタジアムではパラアスリートはトラックで走って、すぐにその場で義足の調整ができるのです。

 

 義足は反発力のあるブレードと呼ばれるカーボン製のバネの部分と、足にフィットさせるソケット部で構成されています。一度作ったらそれで完成というものではありません。

 

 ブレードの反発力を高めていくと、それを使いこなすフィジカルの強さが求められます。ソケットのフィット感は全力でパフォーマンスをするためにとても重要な部分です。さらに筋力の増減によってブレードやソケットの微調整も必要になってきます。例えば、地面を蹴る力が強くなればより反発力の強いブレードが必要になり、筋肉で足が太くなればソケットの調整が必要、というわけです。

 

 競技者とメカニック役の義肢装具士との共同作業によって義足はシビアな調整が繰り返され、自分の物になっていくのです。

 

 これまで義足の調整をする場合、以下のような流れでした。トラックで走った後、調整が必要な場合は後日、義肢装具士を訪ねて調整を行います。調整後は再びトラックへ行って試走。その結果をふまえて後日、義肢装具士の所へまた行って……と後日、後日、後日の繰り返しでした。

 

 それがこのスタジアムなら試走即調整という環境が整っています。まだこの場所だけですが、これまでの行程を考えれば大きな変化と言えます。

 

photo by Shugo TakemiA41I2222

(写真/竹見脩吾)

 

2020年パラリンピック開催の意義

 こうした変化は他のパラスポーツの現場でも起きています。

 

 ある大学でこんな話を聞きました。国家資格である柔道整復師の資格などを有する医療福祉関係の教員が、その地域のパラスポーツ大会でマッサージルームを開設しているというのです。

 

 他のスポーツと同様にパラスポーツでも競技後の体のケアが重要なことは認識されていました。選手ももちろん分かっていましたが、そのケアを受ける機会がなかったのです。専属トレーナーをつける余裕もないし、競技後、すぐにマッサージなどのケアを受けに行く時間もない。そこに登場したのが、この大学教員によるマッサージルームです。

 

 競技直後に初めてケアを受けたパラアスリートは「こんなに違うんだ」と、その効果を実感したと言います。こうした報告を受けたこの大学では、以来、地域のパラスポーツ大会への派遣を継続中です。教員だけでなく学生も多く参加してアシスタントを務めています。学生たちも「現場から学ぶことはすごく多い」と感じているとのこと。さらにこれに参加したことでパラスポーツ関係に就職を希望する学生も増えているそうです。

 

 上記2例のようにパラスポーツの現場では、様々な地域で様々な側面から様々なサポートをする人が確実に増えています。現在、2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて予算が用意されて、競技環境が整えられています。その一方でこうした民間や有志による仕組みの構築も並行して進んでいます。これこそがパラリンピックが開催される意義なのです。

 

 パラスポーツに関心を寄せ、何らかのかたちで関わったり、サポートをする。その行動こそが障がいに対する理解を進めます。障がいのある人は決して川の向こうの別世界の人ではなく、一緒に地域社会に暮らす人たちなんだという理解です。こういうことの積み重ねが共生社会を生むのだと実感させられました。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

◎バックナンバーはこちらから