代々木第一体育館で行われた全日本卓球選手権は20日、最終日を迎えた。男子シングルス決勝では丹羽孝希(青森山田高)が水谷隼(beakon.LAB)を4−3(11−8、3−11、8−11、9−11、11−7、11−5、11−9)で破り、初優勝を果たした。丹羽は男子ダブルスとの2冠となった。女子ダブルスは、藤井寛子、若宮三紗子(日本生命)組が小野思保、森薗美咲(日立化成)組をストレートで下し、史上2組目の4連覇を達成した。
(写真:笑顔で天皇杯を掲げる丹羽)
 相手のリターンがアウトとコールされると、丹羽は噛みしめるように宙を仰いだ。史上3人目の高校生王者誕生の瞬間だった。18歳の若武者が決勝で対戦したのは、日本のエース水谷だった。

 この日、丹羽は準々決勝で平野友樹(明治大)と対戦。前年度覇者の吉村真晴(愛知工業大)を破るアップセットを演じた伏兵を難なくストレートで下した。

 続く準決勝は岸川聖也(スヴェンソン)をファイナルゲームで破った松平健太(早稲田大)。第1ゲームを14−12の接戦でとったものの、そこから連続でゲームを落とした。逆転を許した丹羽だったが、ここで慌てなった。第4ゲームを11−8でとると、「色んなサーブを出してきて手こずった。サーブに自信を持たせてしまった」と、松平が語るように、そこで勢いに乗った。第5、6ゲームも連取した。ダブルスパートナーでお互いの特徴は分かっている。ラリーは続き、最後までどちらに転ぶかわからない接戦を逆転で制して、初の決勝戦へ進出した。
(写真:この日も得意のバックハンドは冴えていた)

 一方の水谷は「ラケットの補助剤問題」を理由に、国際大会出場を辞退するなど、ロンドン五輪から4カ月のブランクが空いていた。前日の会見では「かなり優勝は難しい」と話していたが、「乗り越えれば優勝も見えてくる」とポイントにあげた張一博(東京アート)との準々決勝。苦手とする左利きを相手に、ファイナルゲームまでもつれた熱戦をモノにし、勢いに乗った。準決勝は張の同僚・大矢英俊をゲームカウント4−1で退け、決勝へとコマを進めた。

 両雄がまみえた決勝は第1ゲームを丹羽が先取した。「1ゲーム目が大事だったので、そこで流れに乗るかと思った」と、丹羽がペースを握るかに思われた。しかし全日本5度の優勝を誇る水谷も意地を見せ、3ゲームを連取。丹羽は一気に追い込まれたが、そこから「1本1本粘っていこう」と慌てなかった。丹羽は、昨夏にロンドン五輪に出場した。その後もドイツに渡るなど、この1年で様々な経験値を得た。初の決勝の舞台にも「緊張することなくプレーができた」と振り返る。第5ゲームは8−3とリードしながら、4連続ポイントを奪われ、1点差に迫られた。「負けパターンだった」と、ここでタイムアウトをとり、一呼吸を置いた。再開後、3連続ポイントを奪い、このゲームを11−7でとった。

 土壇場で息を吹き返した丹羽は第6ゲームを11−5で奪取。決戦は最終第7ゲームに突入した。開始前には躍動感の溢れる2人の熱戦に、代々木第一体育館の観衆から拍手が送られた。ファイナルゲームまでもつれた一進一退の攻防に終止符を打ったのは、丹羽の「一番自信のある」という武器“チキータ”(バックハンドの変化球)だった。10−7のリードから2本取られる危ない場面だったが、丹羽のチキータが水谷のショットを狂わせ、11−9でゲームセット。18歳の丹羽が初めて全日本王者に輝いた。

 丹羽はこれまで全日本選手権ジュニアの部で3連覇を果たしているものの、一般の部ではベスト8止まりだった。現在、世界ランキングでは22位と、日本では水谷(同10位)に次ぐ位置にいる。「何回も負かされている」という日本のエースを破っても「日本のエースだとは思っていない。この1年で証明していきたい」と語った。この春、高校を卒業し明治大学に進学予定。奇しくも青森山田中・高−明治大という経歴は水谷と同じ道を辿っている。2011年には世界ジュニアを制しており、現在U−21の世界ランキングでは1位の座にいる。丹羽がエースの系譜を受け継ぐ日も近い。まずは5月の世界選手権パリ大会で、それを証明したい。
(写真:白熱した決勝戦に観衆は何度も沸いた)

 女子ダブルスは、藤井寛、若宮組の独壇場だった。小野、森薗組との決勝戦でも、若宮と藤井寛のペアは、台上の上下左右へと打ち分ける自在な配球。「相手は攻撃力のある選手だったので、受け身にならないように戦った」と若宮が振り返るように、終始ペースを握ったまま3ゲームをとった。今大会は1ゲームも落とさぬ完勝で、1980〜83年度の神田絵美子、山下恵子組以来、2組目の4連覇という快挙を成し遂げた。

 優勝ペアはお互いの長所を、7歳上の先輩・藤井寛が「チャンスを作ってくれて、私につないでくれる」と相性の良さを挙げれば、後輩の若宮も「決めてほしいところで打ち抜いてくれる。いつも心強い」と信頼の厚さを口にする。相思相愛の日本最強女子ダブルスが、次に目指すのは世界のステージだ。5月に行われる世界選手権で「2年前、悔しい思いをしたので、笑顔で終われるようにしたい」と藤井寛は語り、準々決勝で敗退した前回のロッテルダム大会のリベンジを誓った。
(写真:4連覇のポーズをとる藤井寛<左>と若宮)