サントリー・流、上昇志向が上昇気流へ運ぶ
「ラグビー選手である以上、日本代表を目指したい。個人としては一番のターゲット」
そう語っていたSH流大(サントリーサンゴリアス)は「アジアラグビーチャンピオンシップ2017」の代表スコッドに選ばれ、既に2キャップを記録した。スーパーラグビー参戦2年目のヒトコミュニケーションズ・サンウルブズにも追加招集されている。16-17シーズンに大ブレイクした流は、その評価も赤丸急上昇中である。
16-17シーズンのジャパンラグビーはサントリーの2冠で幕を閉じた。チームワーストのトップリーグ9位から「サントリープライド」を取り戻したのは、若きリーダーの手腕に依るものも大きい。2年目ながらキャプテンに抜擢された流。身長166cmの小柄な男は大きな存在感を示した。
ルーキーイヤーの昨季は開幕戦(対パナソニック ワイルドナイツ)でスタメンに起用されたものの、「まだまだ自分のプレーができていない。実力不足」と大きな壁にぶち当たった。サントリーでSHのポジションを争うライバルは南アフリカ代表のフーリー・デュプレア、日本代表の日和佐篤。結局、シーズンの出場試合数は6試合にとどまった。
2年目の流にキャプテンの重責を背負わせたのは、新任の沢木敬介監督だった。この時点では主力とは呼べない流を主将に据えたのは彼の向上心を買ってのものだ。
「取り組む姿勢、“上手くなりたい”“成長したい”という気持ちが一番強い選手だと思います」
15-16シーズン終了後、既に監督就任が決まっていた沢木は流を呼び出した。流によれば、それはキャプテン打診というレベルではなく決定事項の報告だった。それだけ彼が沢木の志向するラグビーに必要なピースだったとも言える。沢木はそれを認めており、プレーヤーとしての流を高く評価している。
「僕がサントリーで取り組んでいるラグビースタイルをしっかりできる選手。彼の一番の能力はビジョンです。スペースを見極める力は才能だと思います」
流の持つその才能はスペースを広く使うサントリーのラグビーにおいて、必須の能力だった。
若きキャプテンが持つ“読む力”
流のスペースを見て、使う力を買っているのはチームメイトも同じだ。同じSHのポジションを争う日和佐篤に流の長所を訊くと「スペースがよく見えていて、そこに向かってキックが蹴れるところです」と答えた。ハーフ団を組むSO小野晃征も「常に前向きで、強気でプレーしてくれるのがすごく楽です。すごく周りが見えているのが彼の特長。裏のスペースが見ることができて、右足でも左足でも蹴れるのも大きい。9番のポジションからもゲームメイクできるというのはチームにとって大きかったと思います」と語っていた。
若きキャプテンと共にサントリーは上昇気流に乗り、トップリーグを全勝で終えた。1月の日本選手権決勝ではパナソニック ワイルドナイツと対戦した。しかし流は失点に繋がる大きなミスを犯している。ボックスキックを狙った際に相手のチャージに遭い、ボールをロストしたのだ。逆転を許すキャプテンのミスにもチームは下を向かなかった。
流がその場面を振り返る。
「インゴールにいた時のみんなの表情、発言がすごく前向きでした。『次、もう1回我慢して、ディシプリンを守って敵陣にいることが大事』と、みんなが口を揃えて言っていた。マツ(FB松島幸太朗)は『これはチームのミスで取られたトライだ』と言ってくれて、少し救われた気がしました。僕自身はあまり引きずるタイプではないんですが、少しだけ“やばいな”と。でも、みんなの姿や言動を見て、次に生かそうと向かいました」
一丸となって前を向いていたサントリーは慌てることなく着実に加点。4年ぶり7度目のタイトルを手にした。
2冠を達成した充実のシーズンを振り返り、小野は「大(ゆたか)のグラウンドでのリーダーシップが、素晴らしかったと思います」と流を称える。最多トライゲッター、MVPにも輝いたWTB中靍隆彰は2歳下の後輩を「上の人ともコミュニケーション取れるし、僕らも助けたいと思えるすごくいいキャプテン」と口にした。帝京大学時代に流を指導した岩出雅之監督は「落ち着いていて、いい意味で包容力がある。やるべきことをきちんとやることだと思います」と評価されたコミュニケーション能力やその姿勢をサントリーでもいかんなく発揮したのだ。
個人としてもベスト15に輝くなど、上昇気流にある流。サンウルブズ、日本代表のスコッドにも選ばれた。若手主体のメンバーとはいえ、アジアチャンピオンシップの2試合でキャプテンを務めたことからも日本代表ジェイミー・ジョセフHCからの信頼も厚いと見ることができる。6月からはアイルランド代表、ルーマニア代表とのテストマッチを控えている。小さな体躯に寄せられる期待は大である。
<流大(ながれ・ゆたか)プロフィール>
1992年9月4日、福岡県生まれ。小学3年でラグビーを始め、荒尾高校時には花園にも出場した。帝京大学では2年時から主力としてプレー。4年時には主将になり、大学選手権6連覇に貢献した。15年サントリーに入社。2年目の16-17シーズン、キャプテンに抜擢され、トップリーグと日本選手権の2冠達成に貢献した。トップリーグのベスト15にも輝いた。日本代表では今年4月のアジアチャンピオンシップで初キャップを刻むなど、2キャップを記録。身長166cm、体重71kg。
(文・写真/杉浦泰介)