「混セを勝ち抜く条件は?」<前編>
二宮清純: 広島は昨シーズン、25年ぶりの優勝を飾りました。連覇を果たせば79年、80年以来となります。まずは古巣のことをうかがいましょう。
高橋慶彦: 交流戦に入っても首位にいるけど投手陣は厳しい印象ですね。ゴールデンウィークに5対1、9対0から逆転された試合があったじゃない。あれはやはりピッチャーが原因ですよね。あの点差だったら勝たなきゃいけない。
フォアボールより打たれろ!
二宮: 79年、80年あたりに、ああいう大量得点差をひっくり返されたことは?
高橋: いや、なかったね。
金石昭人: 優勝するチームはああいうことがないんですよ。今年は先発で早々に(クリス・)ジョンソンがリタイアして、途中で抑えの中崎(翔太)も抹消になった。やっぱりそのしわ寄せが中継ぎにくるんですよね。ジョンソンは勝っても負けても完投したり8回までは投げてくれるピッチャー。そう考えるとジョンソン不在時は後ろに負担がかかる。
高橋: シーズンは長丁場だからやはりピッチャーがポイントですよ。
二宮: 一時は先発の柱を2枚欠きながら、それでも首位。考えようによっては広島は「強い」と言えませんか。
金石: チームが若いからああいう敗戦を「たかが1敗」で切り替えられるか、尾を引くか……。
二宮: 「たかが1敗」だったかどうか、その答えはシーズンが終了すればはっきりしますね。ところで緒方孝市監督と高橋さんは一緒にプレーされていますが、どういう性格ですか。
高橋: 一緒にプレーはしてますが、性格までは分からない(笑)。まあ人当たりは柔らかいんだけど、感情が表に出るタイプ。選手としては黙って知らんぷりしてくれる監督なら楽なんだけどね。
金石: 監督の性格は頑固ですよ。ああ見えて選手にも自分にも厳しい。だからあまり優しい言葉をかけないんじゃないかな。僕らが選手を褒めても、「なーに褒めとるんですか!」みたいな感じですよ。
高橋: アハハハ、そうそう。
二宮: 野手の中心はセカンドの菊池涼介選手です。同じ内野手から見てどうですか?
高橋: やっぱりいいよね。守備範囲も広いし。オレと比べて? 菊地の方がうまいよ。オレの場合はピッチャーに迷惑ばっかりかけていたから。
二宮: いやいや、守備範囲は広かった。
高橋: ただ菊地は何試合か休んでるでしょう。そっち(休まないこと)の方が一番大事なんだけどな。
金石: 投げる方として菊地がいて心強いのは、アウトをとれるところで確実にアウトにできることなんですよ。逆に菊地がいないとゲッツーのときに一塁でセーフになったりする。そういうのはピッチャーに結構、負担がかかるんですよ。
二宮: ボディブローのようなものですね。広島投手陣はフォアボールの多さが気になります。201四球(6月1日)はリーグワースト。歩かせてランナーが溜まったところでカーンとやられる、というシーンを何回か目にしました。
金石: ピッチャーはフォアボールを出したくて出しているわけではないんですよ。
高橋: オレらの頃はフォアボール出したら、マウンド行って「フォアボールは出すな」と言ったもんですよ。打たれてもいいけどフォアボールだけは……ってね。
金石: いやいや、言うだけじゃない。怒られたし、後ろから蹴っとばされましたよ!
高橋: 蹴ってはないよ(笑)。でも本当に打たれてもいいけどフォアボールだけはアカンというのは野球の真理ですよ。連打よりもフォアボールが続いての失点の方がダメージが大きい。
投手と野手のコミュニケーション
二宮: カープ全盛期の投手陣はみんなコントロールが良かった。北別府(学)さんや大野(豊)さん。川口和久さんはノーコンと言われたけど、フルカウントからが強かった。
高橋: 制球力の差は当然あるけど、そうは言っても考え方の差なのよ。打たれるのが嫌だと思って投げているか、打たれてもいいと思って投げるかってあるやんか。やっぱりピッチャーは、打たれるのが嫌だからコースを狙う。そうするとフォアボールになるんですよ。逆に打たれてもいいから、真ん中でもいいからって投げた方がゲームの流れは良くなる。
二宮: なるほど。
高橋: そこで大事なのはピッチャーと野手、そしてベンチがかみ合っているかどうか。オレたちの頃は古葉(竹識)さんの野球を選手全員が理解していたからね。「ここは歩かせて良いよ」「ここは打たれてもいいけど絶対勝負だよ」と。そういう判断をベンチのサインが出る前から選手全員が共有できていた。
金石: あと今季の広島で言えば、新人の加藤(拓也)はいいボールを持っているけど、ちょっと自分の中でのストライクゾーンが広すぎる感じがしますね。だから低めに決まったときはいいけど、そうじゃないと苦しくなる。
高橋: ピッチングって逆に雑に考えた方がいいと思うけどね。
二宮: 雑、ですか?
高橋: バッターは10回打席に立って3回しか成功しないんだから。そんなに打たれるもんじゃないよ、っていう思い切りが必要じゃないかな。真ん中目がけて投げて、散らばってコーナーに決まったら打てないんだから。自信持って腕を振って投げればいいんですよ。
金石: 黒田(博樹)はよく言ってたでしょう。「打たれちゃいけないと思ってコースを狙ってフォアボールを出すのはダメ。打たれてもいいから真ん中、ストライク投げなさい」って。
二宮: 内野手もマウンドでそう言っているのでは?
金石: 高橋さんみたいに蹴っ飛ばしてね。
高橋: だから蹴ってないって(笑)。まあでもピッチャーと野手陣、もっとコミュニケーションをとった方がいいと思う。ピッチャー同士で話をしてもバッターやランナーの心理まではわからんでしょう。逆もまた然りですよ。だから良いバッターと食事でも行って「バッターからしたら何が嫌なのか?」ということを聞けばいいんです。「オレはこういう初球の入り方が嫌い」とか「こういう球を投げられたら嫌だ」というのを勉強していけばいい。
二宮: 異業種交流じゃないけど、ピッチャーだけで固まっていたらいかんと。
高橋: そうそう。俊足のランナー対策もそうだよね。ピッチャー同士では「オレはこうしてる」という話だけで、ランナーからすればそれは大して効果がないかもしれない。だからチームメイトの足の速い選手に、「どういう牽制が嫌なのか?」と聞けばいいんですよ。相手側の考えが分かれば、そこから攻め方が見つかるわけ。諺でありますよね。己を知り、相手を知れば……。
二宮: 百戦危うからず。
高橋: そう。そういうことですよ。
金石: ピッチャーからすれば野手の意見は、本当に参考になります。「ここに投げられたら、バッターは一番イヤだ」というのが分かれば組み立てに生きてくる。それが一流のバッターの意見だったら尚更ですよ。
監督で勝つのは「年に5試合」
二宮: 最近の野球を見ていると、結構、先発陣が6回あたりで崩れる印象があります。侍ジャパンの投手コーチも務めた権藤博さんは「打たれる前に代えるのが継投」と言っています。その一方で「打たれてから代える」指揮官もいます。
高橋: 私もコーチや2軍監督の経験があるけど、継投は難しい。というか人それぞれ、投手によって違うとしか言いようがない。「ここを踏ん張って大きくなれ!」と託す場合もあるし、一概には言えない。ただ最近、6回、7回あたりでピッチャーが崩れるのは、グラウンド整備や球場のイベントで時間をとられるでしょ。あの影響もありますよ。
金石: ああ、今はイニング間が長いですよね。
二宮: やはり選手は集中力が途切れますか?
高橋: 流れが変わってしまうんだよね。はい5回が終わりました、良いピッチングをしていました。でもここで5回の後にグラウンド整備をしたりする時間が長い。それでグラウンドに戻るのに時間がかかる。だから大体6回でやられる。そのまますっと進んでいって、5回終わってすぐ整備してその流れでパッといけたら同じ流れでいけるんだろうけど、ピッチャーを見ていると、あそこでブツッと切れてるのが多いね。
金石: 確かに時間が空くとピッチャーは集中力が切れますよ。あと最近は分業制だから完投する練習をあまりしてないかな、という印象もありますね。
二宮: さてセ・リーグの他の球団についてうかがいます。阪神は金本知憲監督で2年目を迎えました。金本監督の采配で変わった面は見られますか?
高橋: いや、そんなに変わった風には見えないし、そもそも監督の采配で勝つ試合ってシーズンでどれくらいかというと、130試合の時代だけど古葉さんは「年に5試合くらいだ」と言ってたんですよ。まあその5試合が最後の最後で効いてくるんだけど。阪神はやはり糸井(嘉男)の加入が大きいんじゃないかな。
金石: 糸井はいいですね。彼は近畿大から鳴り物入りでピッチャーとして北海道日本ハムに来たんですよ。「150キロを投げる」と言われていたんですが、ストライクが入らなかった。早めに野手へ転向して良かったですね。
高橋: 糸井はよう練習するよね。阪神にはいなかったタイプだからそれも効果的なんでしょう。
二宮: 高橋さんはオリックスのコーチ時代に糸井選手を見ていますね。練習熱心ということはマジメということですか。
高橋: マジメというよりも恐がり、臆病なんですよ。不安だから一生懸命練習する。プロ野球選手としては一番いいタイプです。
金石: 去年、35歳で53盗塁して盗塁王になった。身体能力もすごいですよね。
高橋: あれはすごい。プロの中でも群を抜いてるんじゃないかな。ただ彼はまだ肩も足も本気出してないですよ。
二宮: 連覇を狙う首位・広島としては要注意ですね。
金石: 甲子園の広島戦で感じたんですが、阪神は広島を相当に意識してます。昨シーズン、阪神は広島に7勝18敗と痛めつけられたから「広島に負けるか」という意識が強い。昔は「巨人だけには」だったのが、今年は広島に矛先が向いています。
二宮: 昨シーズン、広島はセの5球団すべてに勝ち越してますから、阪神に限らず対広島包囲網がきつそうですね。
金石: どこも「カープに勝ち越さないと優勝はない」と思ってるでしょうね。
二宮: 横浜DeNAが3位に上がってきました。昨シーズンもクライマックスシリーズに進出しているだけにDeNAもセ・リーグをかき回しそうですね。
高橋: 広島、阪神が抜けている印象で、その後ろはどこが出てくるのかまだまだ不透明。今季、混戦になるのは間違いないね。
二宮: DeNAは梶谷(隆幸)選手が2番に入っています。東北楽天のカルロス・ペゲーロ選手といい攻撃的2番が日本球界でもトレンドになってきました。そのあたりのお話に加え、後編はパ・リーグを中心にお伺いします。
(後編へつづく)