二宮清純: パ・リーグは東北楽天が目下、首位です。昨季は5位でしたが、今季はカルロス・ペゲーロ選手を2番に据える攻撃的オーダーがズバリとハマっています。メジャーリーグでは3年連続で2番打者がMVPに輝いています。「小技のできる器用なバッター」というこれまでの2番像とはだいぶ異なりますね。

 

金石昭人: 日本でも以前、日本ハムの小笠原道大が2番に入ったこともありましたよね。

 

二宮: 小笠原選手はバントをしない2番打者と言われていました。実際に通算犠打は2つしかありません。ピッチャーの立場からすると、いきなりバントで1アウト二塁と、2番が打ってくるのでは心理的に違いますか。

 

金石: それは1アウトをくれる方がありがたい。

 

二宮: 二塁に送られても?

 

金石: もちろん。1アウトをとれた方が楽ですよ。逆に2番に強打者を置かれると怖いですね。

 

高橋慶彦: 野球が変わってきて、1点、2点、3点の勝負じゃなくなっているからね。

 

 走者を送るだけでは意味がない
ゲスト 高橋慶彦(たかはし・よしひこ) 1957年3年13日、北海道芦別市出身。74年、広島東洋カープに入団(ドラフト3位)。俊足巧打のスイッチヒッターとして鳴らし、79年、80年、85年に盗塁王。ベストナイン5回、日本シリーズMVP(79年)に1度輝く。33試合連続ヒット(79年6月6日~7月31日)は日本記録。現職は福島県に本社を置く住宅会社・ウェルズホームの広報部長。通算打率2割8分、1826安打、163本塁打、477盗塁。

ゲスト 高橋慶彦(たかはし・よしひこ)
1957年3年13日、北海道芦別市出身。74年、広島東洋カープに入団(ドラフト3位)。俊足巧打のスイッチヒッターとして鳴らし、79年、80年、85年に盗塁王。ベストナイン5回、日本シリーズMVP(79年)に1度輝く。33試合連続ヒット(79年6月6日~7月31日)は日本記録。現職は福島県に本社を置く住宅会社・ウェルズホームの広報部長。通算打率2割8分、1826安打、163本塁打、477盗塁。

二宮: 広島が強い頃は高橋さんが1番で、2番には山崎隆造さんが入っていました。山崎さんは小技のできるバッターでしたが、それでも単純な送りバントは少なかったですね。

 

金石: 2人とも走れるから、単純に送るんじゃなくてセーフティバントもありました。

 

高橋: 送る場面でセカンドに進めるのか、サードに進めるのかというのがあるわけ。1アウトの方がうれしいと金石が言ったのは、それはセカンド止まりだから。それが1アウトでサードへ送られたらピッチャーは嫌なはずです。そういう2番の送りバントなら効果的だけど、ただセカンドへ送ってタイムリーヒットでかえす、という狙いの攻めだと効率が悪い。よくスコアリングポジションに送った後にタイムリー欠乏症って言うでしょ? あれは欠乏症じゃなくて、タイムリーが出なくて当たり前なんですよ。

 

二宮: バッターは3割打てば成功ですからね。

 

高橋: そう。だからセカンドに送りました、ヒットを待ちましょう、ではイカンのですよ。オレたちがいた広島が一番強いときは、凡打でも点を取る野球をやっていたからね。1アウト三塁でノーヒットで点を取る。そういう野球ならバントは生きてくるけど、そうじゃなかったら送っても意味がないから打った方がいい。

 

二宮: 黄金期の広島相手に戦うピッチャーは嫌だったでしょうね。

 

金石: いやー、味方で良かったですよ(笑)。

 

高橋: 同じことは盗塁にも言えるんですよ。ランナーは成功率で盗塁の巧拙を語られるけど、本当に大切なのは盗塁した後にホームにどれくらいかえってこられるか、つまり生還率の方が大事なんです。ノーアウト一塁から盗塁して、その後にバントで送って1死三塁。これならノーヒットでも1点が奪える。1アウトだったら二盗、三盗を仕掛けるわけですよ。

 

二宮: 要するにホームまでかえってこられる盗塁でなければ意味がない、と?

 

高橋:そういうことです。ただ走りました、セーフです、それではダメ。意味のある盗塁をしているかどうかが問われるわけです。

 

二宮: 高橋さんの場合、盗塁はベンチのサインでしたか、それとも自分の判断?

 

高橋: 途中からは自分の判断だったね。

 

二宮: 待て、のサインは?

 

高橋: オレにはほとんど出なかった。2アウトで出塁したときは、次のバッターの調子を考えて走るかどうかを決めていたね。

 

金石: 無理をしてでも二塁に行けば、「このバッターならタイムリー打つやろう」みたいな?

 

高橋: そうそう。このバッターなら二塁にいけば2アウトでも何とかしてくれる、と思えるときは盗塁してたね。

 

二宮: 当時は3番にジム・ライトル選手、4番、5番が山本浩二さんに衣笠祥雄さん。あとは水谷実雄さんと好打者が揃ってました。だいたい二塁に行ったら誰かがタイムリーを打つみたいなところがありましたよね。

 

高橋: そうだね。だから後を打つ選手の調子まで全部、頭に入っとったよ。誰かが二塁にいて自分の打席だったら、次のバッターが調子がいいなら自分は無理して打たなくてもセーフティバントをしてランナーを送れば1点だな、とか。反対に次の打者の調子が悪いなら、自分がどうにかして点をとらなきゃと球にくらいついていった。

 

二宮: チーム全員が戦う意識を持っていた?

 

高橋: もちろん。だからサインが出なくても「あ、こいつセーフティ(バント)するかもしれない」とランナーもわかる。そして後ろのバッターもオレの意図を理解している。広島が強かったあの時代は全員が「1点とれば勝てる」という野球を徹底してやっていました。

 

金石: 駒の進め方を全員が熟知していましたね。

 

 重要なのは"野球IQ"

高橋: でもそうじゃない野球選手もいっぱいおるわけよ。オレが千葉ロッテで2軍監督やコーチをやっていたときに、1アウト三塁で調子のいいバッターがフォアボールを選んで喜んでいたことがあった。いやいや、そこは違うだろう、と。次のバッターの調子を見てるのか、と。ここはお前が無理してでも打つ場面だろう。好球必打というけど場面によってはストライクゾーンを広げて打たないといけないときもあるんですよ。そういうのも野球なんだよって教えたことがあった。

 

聞き手 二宮清純(にのみや・せいじゅん) 1960年2月25日、愛媛県八幡浜市出身。スポーツジャーナリスト。スポーツ情報サイト「スポーツコミュケーションズ」主宰。

聞き手 二宮清純(にのみや・せいじゅん)
1960年2月25日、愛媛県出身。スポーツジャーナリスト。スポーツ情報サイト「スポーツコミュケーションズ」主宰。

二宮: その手の"野球IQ"は大切ですよね。

 

高橋: 勝つチームではそれが一番大事!

 

二宮: それは監督の教育次第ですか?

 

高橋: ずっと監督が同じ教育をすると選手は覚えるもの。だから強かったあの時代の広島は古葉(竹識)さんの野球がすごく浸透していた。ピッチャーにもうるさかっただろ?

 

金石: いや、投手陣にはそうでもなかったですね。ただ無理に勝負をするな、ここは絶対に勝負だ、というゲームの中での山場というか、その機微は教わりました。

 

高橋: 野手もそのあたりはわかっていて、監督からサインが出る前に「歩かしてもいい場面だな」「絶対打ち取れ!」と、全員の考えが一致してたよね。

 

二宮: 強い時代の広島にいたからこそ、その後、他球団に行くと広島のレベルの高さが確認できたのでは?

 

金石: 僕は広島ではそんなに仕事をしていなかったから偉そうに言えませんが、Bクラスに落ちることはまずなかった。それで日本ハムに行ったら最下位争いをしているわけです。弱いチームというのはこういうものなのか、と……。

 

高橋: 広島からよそに行くと「だから負けるんだな」というのがよくわかったやろ?

 

金石: はい。やはりチームプレーができてない、個人プレーというか自分さえ良ければいいという雰囲気でしたね。

 

高橋: 今の野球も当時に比べるとちょっとレベルが落ちている面はあるよ。

 

二宮: 今の野球もですか?

 

高橋: 特に走塁の意識が低いというのかな。今季、見た試合でこんなシーンがあったんよ。ノーアウト二塁、代走が出てきて、バッターがフェンス直撃のツーベースを打った。当然、1点と思うんだけど、なんと代走の選手はサードまでしか行ってない。

 

金石: そのシーンは僕も見てましたけど外野手に捕られると思ってたんでしょうね。ランナーの判断ミスですけど、代走に出された選手が判断ミスしたらいかんですよ。そんなに難しい当たりでもない。

 

高橋: オレだったらカーンと打ったときにだいたいどこに落ちるかわかる。というかわからなといけないでしょ。

 

金石: ただ足が速いから代走に出しておこう、ってそういう感じですよね。今は打つことと守ることが重視されていて、個人野球になっているんですよね。とにかく打ったらいい、守ったらいいという。

 

高橋: もうちょっと緻密な野球をやってもらいたいよね。

 

 大谷は日本球界の宝

二宮: 今季は北海道日本ハムの大谷翔平選手がケガで戦列を離れています。もし高橋さんがコーチだったら二刀流を継続させるか、それともどちらかに専念させるか……。

 

高橋: 本人ができるんだから周りがとやかく言う問題じゃないからね。まあそれだけの素質があるんだからさせるべきだよね。

 

金石: 昔なら絶対にどちらかにされてましたよね(笑)。

 

高橋: まあそうだろうな。

 

金石: それにしても開幕前に足首を負傷した後、「じゃあピッチングは止めて、バッターに専念して」となったのがわからない。いやいや、まずは足首を治しましょうよ、というのが普通でしょ。

 

高橋: 大谷の最初のケガは足首だっけ? まあ足首は痛くてもプレーができるところなんだけど、それで違うところをケガしてるから話にならないんだけども。

 

金石: 本当は監督やコーチが止めなければいけませんよ。もうバッティングはするな、ピッチングもやるな、と。

 

高橋: 日本球界の宝ですからねえ(笑)。そういえば昔のピッチャーも二刀流じゃないけど、江夏豊さんはノーヒットノーランやって自分でホームラン打って勝ったりしたこともあったでしょ。

 

二宮: 金田正一さんもホームランを通算で38本打ってます。近鉄の鈴木啓示さんは7番で出ていましたから。

 

高橋: まあプロのピッチャーは子供のときからずっとエースで4番だったんだから打とうと思えば打つよ。

 

二宮: 広島の投手陣もバッティングは良かったですよね。池谷公二郎さん、北別府学さん、川口和久さん----。皆、よく打った。キャッチャーよりも(笑)。

 

高橋: ホントにそのとおり。みんなバッティングは良かったよ。

 

金石: 自分で打たないと勝てないですからね(笑)。

 

高橋: でもピッチャーが打つと1番バッターからしたらすごく邪魔なんだよ。2アウトからヒットを打って、お前は何がしたいんや、って(笑)。ピッチャーでチェンジになれば次の回にオレが先頭でいけるのに、何をしてくれとるんや、と。

 

金石: 僕が登板していたときは1アウトだったら8番の達川(光男)さんに「頼むからアウトになってくれ」と思っていた。

 

高橋: 2アウトでランナーなしなら自由に打てるからか?

 

金石: そうなんですよ。2アウトランナーなしだと、もう自由に打てるじゃないですか。ピッチャーでもやっぱり打ちたいんですよ。

 

二宮: ピッチャーは基本的にバッティングが好きなんですね。

 

金石: 好きです。

 

高橋: まあ好きなのはわかるけど、でも一番邪魔や(笑)。2アウトランナー一塁もそうだし、1アウトで出てこっちがバントしても足が遅いからアウトになるんだよな……。

 

金石: まあまあ、いいじゃないですか。

 

 巨人浮上のカギ握る坂本
ゲスト 金石昭人(かねいし・あきひと) 1960年12月26日、岐阜県加茂郡白川町出身。79年、PL学園からドラフト外で広島に入団。85年に初勝利。翌年、12勝6敗(防御率2.68)でリーグ優勝に貢献。91年、日本ハムに移籍。92年、自己最多の14勝をマーク。93年、リリーフに転向し9勝13Sで田村藤夫と最優秀バッテリー賞を受賞。現在は寿司屋『かねいし』、広島風お好み焼き・鉄板焼き店『かねいし』を経営。通算72勝61敗80S、防御率3.38。

ゲスト 金石昭人(かねいし・あきひと)
1960年12月26日、岐阜県加茂郡白川町出身。79年、PL学園からドラフト外で広島に入団。85年に初勝利。翌年、12勝6敗(防御率2.68)でリーグ優勝に貢献。91年、日本ハムに移籍。92年、自己最多の14勝をマーク。93年、リリーフに転向し9勝13Sで田村藤夫と最優秀バッテリー賞を受賞。現在は寿司屋『かねいし』、広島風お好み焼き・鉄板焼き店『かねいし』を経営。通算72勝61敗80S、防御率3.38。

二宮: さてパ・リーグは楽天が首位で、オリックスもシーズン序盤はAクラスにいました。下馬評が低かったチームが上位に来た理由は?

 

高橋: オリックスは今はちょっと落ちてますけど、まあピッチャーですよ、ピッチャー。金子千尋なんて去年がなんだったんだっていうくらい絶好調です。

 

金石: 金子は良かった次の年はダメで、その後は良くなるという隔年で活躍のイメージですね。

 

高橋: 年俸5億のピッチャーがそれじゃあ困るけどな(笑)。とりあえず野球はピッチャーがしゃんとしていれば、まあ打つ方もそこそこ打たないと勝てないけど、基本は投手力という面はあるよね。

 

二宮: 楽天首位の原動力は攻撃力ですよね。

 

金石: 楽天の投手は今シーズンは投げやすいと思いますよ。攻撃陣が打つからピッチャーが楽に投げられる。1点をとられちゃいけないというプレッシャーの中で投げるのと、5点とられても打線が6点、7点をとってくれるチームで投げるのとでは投手心理は大きく違いますよ。

 

二宮: 梨田さんは近鉄の"いてまえ打線"で証明したように、打つチーム作りに長けていますね。

 

高橋: 梨田さんはなんにも言わない。そして性格としては楽天的……。

 

金石: ダジャレですか(笑)。

 

高橋: 違うわ(笑)。あの人は本当に楽天家なんだと思うよ。

 

二宮: キャッチャー出身にしては珍しい。

 

金石: とはいってもまだ今の順位はまったく関係ないんですよ。交流戦が終わって、それでオールスターが終わるまでは順位は関係ない。ただ離されずについていくことだけですよ。

 

二宮: 優勝を争う上でゲーム差は最大どれくらいまででしょう。

 

金石: 3ゲームから5ゲーム差くらいまでにいれば十分ですよ。

 

高橋: そうだな。3ゲームならもう完璧射程内だし5ゲームでもまだ大丈夫。5ゲームでも考えてみれば6連勝と6連敗でひっくり返るんだから、あり得ない数字じゃないよ。

 

二宮: ではセ、パどちらもまだまだペナントの行方はわからない?

 

金石: まだまだ、全然わからないですよ。

 

高橋: 今後の動向は監督次第じゃないかな。将棋と一緒ですよ。将棋って指し手が変わったらガラリと変わるでしょう。将棋盤と駒は変わってないのにヘボ将棋から名人になる。それと同じですよ。

 

二宮: 今の球界で一番の指し手は?

 

高橋: オレは梨田さんだと思うね。

 

二宮: 2番、3番、4番に外国人を並べたりするのもユニークですしね。

 

高橋: で、野球と将棋は似てると言ったけど、ひとつだけ違うのは選手は駒と違って感情があるということ。人間だから監督の心がすごくわかるから、矛盾したことをされたら選手はムッとするし、オレは嫌われているんじゃないかと思うことだってある。梨田さんは選手起用にそういうところがないんじゃないのかな。だからうまくいってるんだと思う。

 

二宮: 金石さんの注目は?

 

金石: 巨人の坂本勇人です。彼は打撃も守備でもチームを引っ張る存在ですよ。

 

二宮: ショートの高橋さんから見て坂本選手はどうですか?

 

高橋: どうって、まあ危なげもないし、普通にやってるよね。

 

金石: そう、その普通にやって普通にやれていることがすごいことなんですよね。やろうとしてではなく、普通にやってそれなりの成績を残しているのがすごいな、と。坂本がどこまで巨人を引っ張っていけるか。巨人の浮上は彼にかかっていますね。

 

二宮: なるほど。これから両リーグともに波乱がありそうですね。

 

高橋: そりゃあ、まだまだあるよ。

 

二宮: お話は尽きませんが、残念ながら時間が来てしまいました。長時間ありがとうございました。