今季のカープには、これまで2回の大きな転機があった。
一つ目は、5月5日から5月7日の対阪神3連敗である。これを機に、2位に転落し、負けもこむようになった。なにしろ中日に3連敗したりしたのだから。
阪神3連敗については、岡田明丈が9点リードを逆転された6日の試合がよくとりあげられるが、私はその前に、序盤のリードを守れなかった5日の加藤拓也の大乱調が伏線になったと考える。
二つ目は、どん底に陥ったチームが再浮上した5月23日ヤクルト戦から5月31日西武戦までの7連勝だ。その中でポイントになったのは5月28日の巨人戦である。
延長10回、3-2で競り勝った。10回表に勝ち越しタイムリーを打った西川龍馬が直接のヒーローだが、真の勝因は3回裏にあると思う。
0-0で迎えたこの回、先発、中村祐太は2死一、二塁のピンチを迎える。打者、立岡宗一郎はライトフェンス直撃のタイムリー二塁打。二塁走者・長野久義はゆうゆう生還。一塁走者・脇谷亮太も本塁へ突入した。
ライト鈴木誠也はクッションボールを素早くとって、カットに入った菊池涼介に送球した。外野に入ってこれを待ちかまえた菊池は、捕球してふり向くなり、ホームへ。これが、イチローがレーザービームを投げるときにも似た鮮やかなフォームの送球で、ホーム寸前、脇谷を刺したのである。菊池の強肩おそるべし。
通常、当然2失点を想定するところだ。1失点にとどめたこのプレーが、7回の同点、10回の逆転につながった。まさに、チームとして守り勝つ力を見せつけた瞬間であり、このカットプレーこそが、再び首位を快走する隠れた要因になったのである。
というわけで、さぁ連覇だ、と期待もふくらむが、もちろん不安がないわけではない。
優勝には欠かせない、いわゆる“勝利の方程式”だ。現在は、7回中崎翔太、8回ジェイ・ジャクソン、9回今村猛である。
まあ、彼らが打たれるまでは、今季はこの形を続けていくのだろう。
8回のジャクソンはいい。疲れはあるはずだが、なんとか、去年同様のボールを投げている。
今村と中崎に関しては、いつのまにか、変化球投手に変身したような投球内容になっているのが気がかりだ。
少なくともクローザーは、150キロを超えるストレートで相手を圧倒するようなピッチング・スタイルであってほしい、と願うのは私だけだろうか。
いや、もちろん、打たれなければ、何の問題もない。ただ、これから勝負の夏場に向かうにあたって、どうしても、有事の場合を想定してしまう。そこで、150キロを超えるストレート、鋭く落ちるフォークという、ごく一般的な“クローザー像”を考えると、自ずと浮かんでくる名前がある。薮田和樹である。
もちろん、せっかく先発で成功しているのに、リリーフ再転向はありえない、という反論もあるでしょう。
ここまで交流戦を順調に勝ち越してこられたのは、交流戦の開幕戦に先発し好投した薮田のおかげでもある。じつはこの試合、1回裏に西武の1番・秋山翔吾、2番・源田壮亮のヒット性の当たりを菊池が連続超ファインプレーでアウトにしている。
体調に不安を抱える菊池をどう使うか、薮田をどう起用するか――このあたりに連覇のカギは隠れていそうだ。
(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
◎バックナンバーはこちらから