アタッカーはノーゴールだと調子が悪いと思われがちだ。

 横浜F・マリノスのエース、齋藤学は今季、折り返し地点を回ったところで1ゴールも奪えていない。昨季は10得点を稼いでいるだけに、「10番を背負っている重圧があるんじゃないか」「スランプに陥っているんじゃないか」などと心配する声すら挙がり始めている。

 

 だが、調子自体は悪くない。むしろ上がってきた感がある。

 1日のアウェイ、大宮アルディージャ戦でも味方のゴールをしっかりと演出した。

 

 0-0で迎えた後半14分、中澤佑二の縦パスを受けたウーゴ・ヴィエイラが反転して左のマルティノスに。猛然と駆け上がっていく齋藤は、内へ切り込むマルティネスと交差して左に向かい、ボールを呼び込もうとする。この動きでディフェンスの注意を引き、マルティノスの先制ゴールを手助けしている。

 

 そして山中亮輔が左サイドからミドルシュートで挙げたチームの2点目も、齋藤はクロスを想定してペナルティーエリア内のファーサイドに走り込んでいた。

 ゴールを取りたいというオーラが相手に脅威を与えていたように見えた。勢いよくペナルティーエリアに入ってくる動きが、味方のゴールにつながったと言える。

 

 ゴールは欲しいに決まっている。しかしながらゴールがないことに対する焦りは、感じない。

というのも今年は10番としてキャプテンとしてチームを勝利に導くことに自分のテーマを置いているからに他ならない。チームは大宮に勝って4年ぶりのリーグ戦5連勝。6位ながら首位鹿島アントラーズに勝ち点4差と、十分に射程圏内に入っている。

 

 開幕前、彼はこう語っていた。

「これまでも自分がチームを引っ張っていく気持ちでやっていました。でもそれは自分が覚悟を持ってやっていくだけであって、課せられたものじゃない。今年は10番を背負ってキャプテンになって責任から逃げられない立場になったということ。

 昨年は2ケタ(得点)取って、Jリーグのベストイレブンに選ばれましたけど、チームが勝ってくれるなら極端なことを言えば自分が3得点でもチームが優勝すれば満足できる。チームの結果というところに、去年以上により目を向けていきたいと思うんです」

 

 追い求めるのは個人的な結果じゃなく、あくまでチームの結果だ。

 2-0になっても守備を怠らず、1失点を喫してからも率先して相手にプレッシャーを掛けていた。ゴールはあくまで2の次だ。

 

 この日、J1史上最多となる140試合連続フルタイム出場記録を達成した中澤も「良い形で(サイドハーフの)マナブ、マルちゃん(マルティノス)も一生懸命、守備をやってくれている」と名前を挙げて称えている。

 

 10番とキャプテン。

 この2つの大きな責任を、昨季までは中村俊輔がこなしてきた。中村のジュビロ磐田移籍に伴い、育成組織出身の齋藤が後継者になることは運命だったとも言える。

 

 以前、彼から決意を聞いていた。

「背負ってつぶれてもいいぐらいの気持ちですよ。でも絶対につぶれないだけの自信はあります。仲間のことを考えて、仲間を信頼して、責任感と覚悟を強く持って勝っていきたい。やれるチームだと僕は思っていますから」

 

 仲間のために、チームのために働く背番号10。大宮戦の後も充実した表情を浮かべていた。きっと初ゴールは、もう間もなくである。


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