素晴らしい一撃だった。

 10日のJ2東京ヴェルディvs.名古屋グランパス戦。前半15分、ゴール正面、ペナルティーエリア手前でパスを受けた20歳の杉森考起(名古屋グランパス)は、右足をコンパクトに振り抜いてミドルシュートでゴールネットを揺らした。

 

 2015年にはJ3のJ-22選抜として5ゴールを挙げているものの、所属するグランパスでは公式戦デビューから4シーズン目にして待望の初ゴールだ。シモビッチのパスを左足でトラップし、GKのタイミングを外すように間髪入れずゴール左上に蹴り込んでいる。高い技術とアイデア。杉森の良さが詰まっていた。

 

 先制点を挙げながらも後半は決定機を外し、チームは1-2で逆転負け。「ゴールを取ったことは自信になりましたけど、2点目を取るチャンスがあったのに取れなかった」と試合後の表情は晴れなかった。

 

「名古屋ユースの最高傑作」と呼ばれる男が、ついに結果を出した。

 香川真司(ボルシア・ドルトムント)をほうふつとさせる身のこなしと攻撃センスでクラブ史上最年少となる16歳でトップチーム昇格。2014年のブラジルワールドカップでは坂井大将(大分トリニータ)とともにトレーニングパートナーに抜擢されたことは記憶に新しい。名古屋ユースの先輩である吉田麻也(サウサンプトン)も「一瞬でスピードに乗って、その状態のままテクニックを出せる」と、その高いポテンシャルを評価したほどだった。

 

 期待されながらも“芽”が伸びてこなかった。15、16年シーズンは出場機会もわずかにとどまり、今回、久保建英(FC東京U-18)の飛び飛び級で注目を集めたU-20W杯メンバーからも漏れている。だが今季就任した風間八宏監督のもとで、彼はしっかりと才能を伸ばしていた。

 

 指揮官が重視する「止める、蹴る、(人を)外す」。

 ゴールシーンがまさに「止める、蹴る」であったが、足元でボールをもらうばかりでなくスルーパスに対して裏に抜け出すなどマークを「外す」動きも向上していることがうかがえる。

 

 前半30分には左からのクロスのタイミングで、中央にいた杉森は止まることで相手を外している。残念ながら彼にボールは渡らなかったが、フリーの状況を生み出せるようになっている

 

 風間監督は「若いから彼を使っているわけじゃない」と言う。シモビッチ、玉田圭司、佐藤寿人、永井龍、杉本竜士などフォワードにタレントがそろうなかで、レギュラーの座をつかんでいる。伸びしろを期待されての“抜擢”ではなく、あくまで能力を評価されての起用だ。

 

 風間監督は会見の席で、杉森についてこう語っている。

「何しろほかの選手と比べても自由になるのが一番うまい選手。だけどもっとやってもらわないと困る」

 

 相手と駆け引きして「外す」ことができる点をやはり評価していた。ゴールを決めたことによって「自信がついた」ならば、シュートやアシストなど得点に絡む仕事が増えていくに違いない。

 

 杉森も東京五輪世代である。U-20W杯に参加できなかったことは、悔しい思い出として胸に残っている。しかし彼は「もっと頑張ろうって、凄く刺激になりました。チームで活躍してそういう場に呼ばれるように頑張りたい」と前を向く。

 

 若い選手は何かをきっかけに、大きく伸びていくものだ。

 杉森考起にとって初ゴールを挙げたこの試合が、ターニングポイントになるような気がしてならない。


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