10日後に迫った後期開幕に向けて四国アイランドリーグplusの各球団、各選手は練習試合やオープン戦、そしてトレーニングなど調整に忙しい。今回は「後期も優勝したい」と意気込む前期グラゼニMVPに輝いた伊藤克(すぐる)投手(徳島インディゴソックス)に話を聞いた。ルーキー伊藤克が振り返る初めてのプロ生活とは?

 

 クラブチームからトライアウト

 前期グラゼニMVPという栄誉ある賞に選ばれてとても嬉しいです。中学時代、相模原リトルシニアで南関東2位になり全国大会に進んだものの、中学卒業後は野球から離れていた自分がここまで来られるとは……お世話になった方に感謝の気持ちしかありません。


 元々勉強するのが好きじゃなかったこともあり、高校には行かずに就職したんです。野球もまったくやりませんでした。ボールを握ることもなく2年程が過ぎて、あるとき知人から「人数が足りないから」という理由でクラブチームの試合に誘われたんです。それが去年までお世話になったエマノンBBC戸塚というチームだったのですが、いきなり「ピッチャーをやって」と言われてトレーニングもしていない状態でマウンドに上がりました。打たれたのか抑えたのかもあまり覚えていませんが、翌日、体がバキバキだったのだけは覚えています。

 

 エマノンで野球を再開したのですが、そのときはプロに行くなんて考えてもいませんでした。球速は130キロとかでしたからね。それがエノマンの監督さんに「アイランドリーグのトライアウトを受けろ」と言われて、それで去年の秋、受験したんです。

 

 遠投、ピッチング、投内連携などの後、実戦形式のテストで3人に投げてセカンドゴロ、フォアボール、センターフライ。自信も何もなかったので「合格」と言われたときにはビックリしました。「えっ、自分がプロ野球に!?」とまるで実感がなかったですね。

 

 徳島に入って最初の自主トレでは、周囲の選手のすごさに驚きました。投げる球の質も違うし、何よりも体力面で大きな差があった。ランニングメニューひとつとってもタイム走があったり、砂浜を走るメニューがあるのですが、もうついていくだけで必死でした。

 

 チームの雰囲気はとても明るくて、新人だからといって萎縮するようなことはありませんでした。たぶん監督の養父鐵さんのノリの良さもそれに一役かっているんでしょう。だって監督がいきなり朝会うと「どう、克ちゃん、やってる?」ですからね(笑)。本当に明るくていいチームに入ったと思っています。

 

 流れを変えたロングリリーフ

 養父さんにはブルペンでの肩の作り方について色々と教わりました。「ブルペンで毎日30球、40球投げたとしたら、1週間で何球になるか考えろ」と。いかに効率よく仕上げるかがポイントだということですね。今はキャッチボールを入念にやっておいて、ブルペンでは10球くらい投げればもうOKになります。だから先発投手が初回で崩れたときに「スグル、行ってくれ」と言われてもまったく問題ないんですね。

 

 前期で印象に残っている試合は2つあります。まず5月10日、対高知ファイティングドッグス戦。徳島と高知がゲーム差なしで首位を争っていた時期の大一番、いわゆる天王山です。ですが、この試合、先発がいなかった。ケガ人の影響もあってローテーションに完全に穴が空いていて、「あれ、明日誰が投げるの?」と。本当に誰も先発がいない状態でしたから。

 

 それで午後になりアイランドリーグの公式サイトを見たら予告先発の所に「徳島・伊藤克」ってなっていて、すぐに監督に「僕、明日先発なんですか?」と聞きに行きましたよ。そうしたら監督は「あ、見ちゃった。緊張するから黙っていたんだけど(笑)」って、実に養父さんらしい答えを頂きました。

 

 初先発は緊張よりも意気に感じる部分の方が大きく、自分らしい向かっていくピッチングができました。5回1/3を投げて2失点、勝ち投手になれたし、あとマニー(ラミレス)に右中間に一発放り込まれたのを覚えています。実はマニーの来日初ホームラン、献上したのは僕だったんです。

 

 その5日後、対愛媛マンダリンパイレーツ戦も記憶に残る1戦です。このときは4回から2番手としてマウンドに上がりました。3回までに3点をとられて0-3という非常にイヤな流れだったのですが、4回、5回と2三振ずつ取って三者凡退に抑えたんです。その裏に味方が逆転したので"ピッチングで流れを変えられたな"と、投手冥利に尽きる試合でした。

 

 しかもこのときは自己最速147キロも記録しました。8回まで投げて被安打3、7奪三振。テンポ良く投げられましたし、マウンドにいて楽しかったですね。

 

 後期の目標は「前期の自分を超えること」です。投げるのは先発でも中継ぎでもどこでも、監督に「どこでも行けますよ」と言ってあります。今は球種がストレートとスライダーだけなので、フォークとシュートを試合で使えるレベルまで高めていきたいです。将来的な目標はドラフト指名を受けてNPBで活躍すること。1年前はそんなことは考えもしませんでしたが、これまで野球を通して知り合った方々に恩返しの意味も含めて、もっと上を目指したいです。後期も応援をよろしくお願いいたします。

 

<伊藤克(いとうすぐる)プロフィール>
1996年10月10日、神奈川県出身。小学1年生から地元のチームに所属してピッチャーとして活躍。中学時代は相模原リトルシニアでエースを務めて南関東2位になり全国大会に出場した。中学卒業後、地元の建設会社に就職。野球から離れていたが神奈川県野球協会所属のクラブチーム、エマノン・ベースボールクラブ戸塚で野球を再開。16年11月、四国アイランドリーグplusのトライアウトを受験。2次テスト免除で入団内定の特別合格者に選ばれ、ドラフト8位で徳島インディゴソックスに入団した。中継ぎ、先発でフル回転した前期は12試合に登板。3勝1敗、防御率1.09。前期グラゼニMVPを獲得した。身長178センチ、体重90キロ。


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