サッカーの見方は千差万別だな、とあらためて思う。あの、親善試合とは思えぬ熱気に満ちた撃ち合いを「酷い負け方」と感じる人がいるのだから。おそらく対戦相手も、「こいつら、だいぶ手強いな」と驚いたのではないか。いうもでもなく、先週土曜日に行われた浦和対ドルトムントのことである。

 

 ただ、少しばかり複雑な気持ちにさせられた試合でもあった。

 

 FCバルセロナは、チームを創設したスイス人のジョアン・ガンペールの名前を語り継いでいくため、彼の名前を冠したカップ戦をシーズン開幕前に行っている。世界各国から招待された強豪たちとのプレシーズンマッチは、そのシーズンのバルサを占う上で大きな意味を持っている。ファンの関心も、それなりに高い。

 

 あくまでも、それなりに。

 

 シーズンが始まると、試合によっては入手が極めて困難になることもあるカンプ・ノウでのチケットだが、ガンペール杯であれば何の苦労もなく手に入る。観客席には空席が目立ち、普段の試合より観光客が多いのも特徴である。

 

 つまり、ガンペール杯とは、日本のプロ野球でいうところのオープン戦なのである。

 

 バルセロナに限ったことではあるまい。いまや世界中でプレシーズンマッチ真っ盛りだが、どれほどの人気チームであっても、ホームスタジアムを満員にすることは難しい。オープン戦の甲子園や東京ドームが満員札止めになることがまずないように、である。勝敗にさほど意味のない試合のチケットのために、貴重なお金と時間を使ってもかまわないと考える層は、それほど多いものではない。

 

 翻って日本である。

 

 Jリーグ発足以前、サッカーの試合がテレビ中継されることはあまりなかった。せいぜい、海外から呼んだクラブと日本代表が戦うキリンカップやトヨタカップ、高校サッカー選手権の中継があったぐらいで、日本リーグの試合をテレビで見る機会はまずなかった。この国には、リーグ戦を楽しむ日常というものが根付いていなかったのである。

 

 Jリーグを立ち上げた人たちが夢見たのは、だからきっと、そんな日常に違いない。欧米のサッカーのように、日本のプロ野球のように、国内のリーグ戦に注目が集まる日常――。

 

 複雑な気分になったというのは、だから、浦和対ドルトムントという“非公式戦”が地上波で放送され、チケットは完売したからだった。なにより、他ならぬわたし自身が大いに試合を楽しんでしまったからだった。

 

 普段、地上波では滅多に放送されないJリーグの公式戦以上に。

 

 Jリーグが発足してから四半世紀。日本サッカーは確実に進化し、根を伸ばしてきた。それでも、海外のチームを招いてのプレシーズンが「それなりの関心」しか向けられなくなる段階には至っていない。

 

 道は、まだ半ばである。

 

<この原稿は17年7月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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