NPBもアイランドリーグもシーズンが開幕して約1カ月になろうとしている。アイランドリーグ出身選手ではWBC日本代表にも選ばれた千葉ロッテの角中勝也(元高知)が開幕から全試合でスタメン出場してヒットを重ね、福岡ソフトバンクの金無英(元福岡)が中継ぎで10試合連続で無失点を続けた。また東京ヤクルトの三輪正義(元香川)もスーパーサブとして1軍のベンチで控える。その他の選手たちも1軍での活躍の機会を虎視眈々と狙っている。NPB入りというひとつの夢を叶えた彼らの今を追いかけた。
 天国の母の“教え”を胸に――荒張裕司

 アイランドリーグの徳島から北海道日本ハムに入団し、今季が4年目だ。3年間、1軍昇格はなく、まさに勝負のシーズンとなる。昨季から取り組んできたのは、盗塁阻止率の向上である。強肩がウリの荒張ではあるが、昨季のイースタンリーグでは1割台。持ち味を生かしきれずにいた。

 オフに取り組んだのは下半身強化だ。どんな体勢であっても同じようにスローイングできる体の強さを求めた。安定した土台を改めてつくることで送球の精度を高めた。
「まだまだですが、去年よりも盗塁が刺せるようになりました。ピッチャーはクイックをしっかりしてくれるので、アウトにできるタイミングであれば、確実に刺したいです」

 日本ハムは1軍には鶴岡慎也、大野奨太と2人の実績あるキャッチャーがいる。若い近藤健介も昨季、高卒1年目のルーキーながら1軍でマスクを被った。荒張も、もうのんびりしてはいられない。2軍での成長を見守る福澤洋一バッテリーコーチは「技術は伸びている」と評価しながらも、「1軍の勝敗がかかったところではリード面での粘り強さが問われる。1軍の試合で自分ならどう抑えるか、当事者意識を持って答えを見つけ出してほしい」と語る。

「ピッチャーが調子のいい時は、どんなキャッチャーと組んでも抑えられるんです。たとえ調子が悪くても、いかにバッターを抑え、勝たせられるか。そこがキャッチャーとしての評価につながると感じています」
 野球の試合は1球ごとに状況が動く。それに応じて相手ベンチの作戦やバッターの考え、心理が変わってくる。幾通りもある配球の中から最善手を見出すのは極めて難しい作業だ。一方で、野球は1球ごとに間が生じる。その間を有効に活用すれば、より良い手に近づくことはできるはずだ。

「相手のベンチやバッターの動きから、何を感じとるか。それを瞬時にリードに生かす力がもっと必要です」と本人が語るように、1軍レベルのキャッチャーになる上では、観察力、洞察力、分析力といった目に見えない“無形の力”を向上させることが不可欠である。

 加えて打力のアップも課題のひとつだ。いくら守りの要といえども、あまりにも打てなければ1軍では代打を出されてしまう。昨季のファームでの打率は.269。ヒット25本のうち、長打はわずかに1本(二塁打)だった。ただし、これには荒張なりの狙いがあった。しっかりボールを引きつけ、逆方向へのバッティングを磨いたのだ。ボールもしっかり選び、18個の四球を記録した。出塁率は4割を超えた。

 もちろん一朝一夕でバッティングが劇的に良くなるほどプロの世界は甘くない。まず右バッターの荒張はサウスポーを徹底的に打つことでアピールしようとしている。コーチや先輩からアドバイスを受けながら、自分の懐に向かって入ってくるサウスポーのボールの対処法をつかんだ。その成果は今季、イースタンリーグ初出場となった3月28日の埼玉西武戦で早速出た。5−6と1点ビハインドの8回、左腕の中崎雄太がフルカウントから投じた1球は真ん中から中に入ってきた。それを見事にとらえ、レフトスタンドに叩きこんだのだ。

 この試合、日本ハムは二刀流に挑戦している大谷翔平がピッチャーとしてマウンドに上がっていた。その直前には勝ち越し点を奪われており、ルーキーの負けを消す上でも貴重な一発となった。マスク越しにみたスーパールーキーの球筋はどんなものなのか。

「翔平は真っすぐも変化球もスピンの数が他の2軍のピッチャーとは違いますね。2軍レベルでは、真っすぐと分かっていても打てない。スライダーもボールがすごくキレる。普通のスライダーはリリースしたところから外に曲がっていくだけですけど、翔平のは1回、インサイドのほうに出てくる。もし、これがストレートなら、右バッターならぶつかりそうな感覚です。そこからグーンとアウトサイドに曲がっていく。腕の振りもストレートと変わらないので、初めて対戦したバッターが思わずのけぞってしまうんです」

 この3月には母をガンで亡くした。約1週間、チームを離れ、実家の大阪に帰った。
「腰が痛いとか、いろいろ兆候はあったみたいですが、仕事をしていて周囲には隠して我慢していたんです。病院で分かった時にはだいぶ進行してしまっていました。もう少し早く気づいていれば、助かったかもしれないと思いましたね。野球の話に置き換えるのは良くないかもしれないけど、些細な積み重ねが大きなことにつながる。大量失点する前に、ピンチの芽を摘み取ることがどんなに大事か。そのことを母が身をもって教えてくれたのかなとすごく感じています」

 誰よりも活躍を願っていた天国の母に、このオフこそはいい報告を――。荒張は強い決意を胸に、シーズンに臨んでいる。 
 
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(石田洋之)

4月24日(水)

 篠原、5回無失点で3年ぶり勝利(香川3勝、高知、397人)
香川オリーブガイナーズ  3 = 010000002
高知ファイティングドッグス 1 = 000000001
勝利投手 篠原(1勝0敗)
敗戦投手 井川(0勝2敗)
セーブ   酒井(2S)