たかが一敗、どんな投手でも打たれることはある、と思うべきか。はたまた、そこには重大な警鐘がこめられていると察知すべきか――。そんな試合だった。

 

 8月2日の阪神戦である。8回裏に出た松山竜平のソロで3-2と勝ち越し、今日もカープの勝ちかと喜んだ直後である。9回表に登板した今村猛が2失点し、逆転負けを喫してしまったのだ。

 

 そりゃ、今村だってセーブに失敗することはある。次にがんばってくれればよい、というのが、今季、ここまでの彼の果たした役割を考えれば妥当なのだろう。

 

 事の発端は、1死一塁となって打席に上本博紀を迎えたところからである。

 

(1)ストレート、ボール 高め

(2)フォーク、ボール 低め

(3)フォーク、ボール 低め

(4)ストレート、ボール 高め

 

 四球で1死一、二塁。打者福留孝介。

 

(1)フォーク、ボール 低め

(2)フォーク、ボール 低め

(3)ストレート、ボール 高め

(4)フォーク、ストライク 低め

(5)フォーク、ボール 低め

 

 連続四球で1死満塁。打者ジェイソン・ロジャース。

 

(1)フォーク、ボール 低め

(2)ストレート 内角高め

 レフト戦へ痛烈なライナー。2人が還り、3-4と逆転された。

 

 今村の生命線はフォークだが、福留への4球目を除いて、ことごとくボールになっている。というより、阪神の打者に見切られていた、というほうが正鵠を射ている。しかも、ストレートは高めにはずれる。最後は、ストライクを取りにいって仕留められている。

 

 今村はフォークでストライクが取れるか、あるいは見切られるかで、こうなる可能性は常にはらんでいるということだ。

 

 ペナントレースは、このまま行けばいい。8月2日から引き分けをはさんで2連敗とやはり少しおかしくなったが、8月5日に勝って連敗を2で止めたのが大きい。

 

 問題はクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズである。

 

 去年の日本シリーズ、最大の敗因は緒方孝市監督がシーズンと同じ戦い方を貫こうとしたことにあった。短期決戦に対する戦略不足が敗因のすべてである。その点、日本ハムの栗山英樹監督はしたたかだった。このことを、われわれは絶対に忘れてはいけない。

 

 CSで阪神や横浜DeNAに足元をすくわれたくないのだ。どんなことがあっても。そのためには、いざというときの短期決戦用の戦略を、いかに用意できるかがポイントになるのではないか。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

 


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