第190回「お祭りはスポーツだ!」
夏はお祭りの季節。毎週のようにどこかの町が賑やかになっている。老若男女、祭り囃子を聞くとどこか楽しい雰囲気が流れ、非日常の空気感が流れるから不思議だ。両親があまりお祭り好きではなかったので、僕は幼少期にお祭りに参加した記憶はそれほど多くない。そんな僕でさえ、提灯など見るだけで気持ちが上がるのだから、お祭一家で育った人たちたるや……。日本人にはお祭り好きの血が流れているのかもしれない。
そんな僕が地元・江東区の富岡八幡例大祭に参加することになった。小さい頃に子供神輿の記憶はあるが、おそらくキチンと神輿を担ぐのは初めてだ。それも今年は3年に1度の本祭。近隣54の町会から神輿が出てきて、大行列が8kmの行程を練り歩く大掛かりなもの。普通の人より体力に自信はあるが、果たしてどれだけ担げるのか……。不安と興奮で1日目を迎えた。
初日は同じ神輿を町内中心に練り歩く。「うちの神輿はそれほど重くないから」と言われても約700kgもある。それを約50人程度で担ぐわけだから、1人14kg程度の負担がかかる。それだけでも丸太が肩に食い込んでくるとかなり痛い。特に身長が高いとかかる重さも大きくなるのでグリグリと肩にめり込む。あまりの痛さに体が担ぎ棒の下から逃げてしまい横から担ぐようなってしまうと、ベテランの方に肩をつかまれて、棒の下に戻される。そんなことを数時間繰り返しながら、コツを覚えていく。棒を肩でしっかり受け止め、腰を少し落とし高さを調整することである程度我慢できるようになってきた。それでもたった4時間ほどで肩は赤く腫れるし、痛みは伴うはで翌日の本祭へ不安が募る。
翌日の本祭は朝8時から担ぎ始めるものの、昨日のダメージもあり、最初に担いだ瞬間から痛みが走る。それでも昨日学んだ乗せる位置、体の使い方を思い出しながら長い道のりを進み出した。さすが本祭、昨日より担ぎ手が多いので交代要員もたくさんいる。つらくなったら代わることができるのだが、なんとなくすぐに交代しては逃げているようで納得がいかない。
しかし、あまり無理をしては、長丁場は持たないということで、様子を見ながら交代をしていく。ギリギリを攻めたいけど、行き過ぎはNG。まるで自分のペースを探りながら走っているマラソンでの感覚に近い。さらに、中盤を過ぎると、担ぎ手全体に疲労感が漂い始める。すると神輿の位置が下がりだし、ますます担ぐのが負担となってくる悪循環。そんな時に、数人が声を出し高さをコントロールすると、皆の集中力も再燃し位置が修正されるから不思議だ。チーム全体の士気が下がっている時に、数人だけでも雰囲気を変えるメンバーがいればチーム全体の雰囲気が変わる瞬間というのがある。まさにそんな感じだ。
神輿はチームワーク
また、疲れてくると集団の中で少しサボってしまったりする。50分の1がさぼっても急にパフォーマンスが変わるわけではない。しかし、それがチームに広がりだすと、確実に全体の士気が下がり、パフォーマンスは低下していく。1人1人がチームに貢献することが、チーム力を上げる一番の要素。チームスポーツでは当たり前のように言われることだ。
このように考えると、神輿とはほとんどチームスポーツであることがよくわかる。
勝敗こそつかないが、いい神輿巡行はいい担ぎ手チームがあってこそだ。1人1人のパフォーマンスはもちろん大事だが、その全体をどう盛り上げ、まとめ上げるかは大変重要になる。ただ、担ぎ手は事前に合同練習をやっているわけではないので、現場での指示や雰囲気づくりが大切になるのだろう。
そんな目で見ると、我々の神輿はなかなかのものだったのではないかと思う。まとめ役の人たちのコーディネイト能力の高さだ。この方たちに鼓舞されて僕も最後まで担ぎ通すことができた。1人では最後まで到達することはなかっただろう。
お祭りに命を懸ける人がいる。お祭り好きはたくさんいる。
彼らは単に楽しいということではなく、こんなチームスポーツの面白さをどこかで感じ取っているからなのだろう。チームの難しさと楽しさは、一度はまると次からもそれを追及してしまう。まさにお祭りの魅力の一つなのかもしれない。
そんなわけでその翌週の僕の肩は皮がむけ、腫れ上がり、数日は使い物にならなかった。
スポーツ選手としてはNGだけど、なぜだか残るこの高揚感。どうやら、「お神輿」というチームスポーツに少しハマったのかもしれない。
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。今年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。