セ・リーグ連覇ですねえ。なにか、夢を見ているようだ。しかも4番・鈴木誠也を怪我で欠いたのに、松山竜平がそれを埋めて余りある鬼神のごとき大活躍。カープは強い、と思わず感嘆の声をあげる。

 

 MVPは誰だろう。これは意見が分かれるだろう。事実上優勝が決まったのは阪神3連戦の初戦(9月5日)である。ここで逆転サヨナラ2ランを放った安部友裕。2完封を記録した薮田和樹(9月14日時点で14勝)。シーズン通して安定して打ち続けた丸佳浩。8月22日から24日までの横浜DeNA戦3連敗の翌日、今季一番の投球(8回無失点)をして暗雲を振り払ったクリス・ジョンソン。……MVPがジョンソンのわけはないけれども、あそこが分水嶺だった。まだ鈴木離脱のショックが冷めやらぬ、しかも3連敗のただならぬ雰囲気を振り払った、あの1勝が優勝をたぐり寄せたといっても過言ではない。

 

 思い出したくもない話をもちだして恐縮だが、横浜DeNA3連敗は、本当に悪夢のような3連続サヨナラ負けだった。その原因はというと、今村猛と中崎翔太が打たれた、というところにいきつく。

 

 むしろ、この時期でよかったと思うべきだろう。2人がシーズンはなんとか打たれずに乗りきって、クライマックスシリーズでDeNA3連戦のように打たれたら、日本シリーズに行けなくなってしまう。

 

 今村、中崎はソフトバンクのデニス・サファテのような絶対的な抑えではない。ましてや、完投できる先発投手はほとんどいない状態で、緒方孝市監督は、セーブ機会ではない場面でも、勝ちゲームの9回は今村か中崎を起用することが多い。勝てる試合は一戦一戦確実に勝つということかも知れないが、彼らの蓄積疲労は容易に想像がつく。たとえば、9月13日のDeNA戦は、12-4と8点リードで、9回は今村だった。はたして、彼らは日本シリーズまでもつのか?

 

 かといって、いまさら他の投手をクローザーに起用するわけにもいくまい。打たれる可能性もあることを織り込みながら、やりくりしていくしかない。でも将来を考えれば、絶対的なクローザーを育てるというのは、球団の大きな課題ではないだろうか。

 

 将来の話をしてみたい。今夏の甲子園で一躍スターになったのは、ご存知、広陵の中村奨成捕手である。

 

 かの清原和博(PL学園)を抜いた一大会個人本塁打6本という新記録ももちろんすばらしいが、何よりも肩がすごい。

 

 キャッチャーの二塁送球というのは、低い弾道でも、多少は山なりになるものだが、彼の送球は上から下へと二塁ベース上へ伸びていく。

 

 U-18世界大会でも、アメリカ戦の1回に、1番打者の盗塁を完璧に刺していた。それだけで、ため息の出るような送球である。

 

 じつは彼は、この大会では精彩を欠いた。25打数3安打。しかも長打はなし。アメリカ戦の途中からは、正捕手をはずされた。

 

  アメリカ戦で、彼は二塁に牽制を送って、それが悪送球になったシーンや、パスボールして、打者走者を一塁に送球してアウトにする間に二塁走者の生還を許したシーンがある。想像だが、これを見て、小枝守監督は交代させたのだろう。しかし、二塁送球は低かったけれども相当強いボールだった。監督は安定を求めたのだろうけれども、こんな果敢な捕手は、滅多に出ない(それにしても、この大会のアメリカは強かった。ピッチャーなど、出てくるのが全員メジャーの投手に見えるほど)。

 

 ところで、カープの今年のドラフト1位は誰なのだろう。常識的には、投手がほしいということになるのだろうか。絶対的なクローザーも育てたいし。

 

 しかし中村は、あの肩、フットワーク、スピード、そして甲子園で見せた華麗なバッティングに象徴されるスター性と、すべてそろった、30年に1人の大型捕手である。

 

 しかも、地元広島出身。広陵の選手が必ず広島出身というわけではないが、彼は広島だそうだ。

 

 若手捕手では、ルーキー坂倉将吾の評判がいい。でも、だからといって、若手2人はいらない、ということにはならない。

 

 あれだけ華のある捕手は、古田敦也以来だろうか。しかも古田より長打力がある。肩は梨田昌孝以来か。いや、史上最強か。これぞ真のスーパースターである。

 

 カープの正捕手は、しばらく會澤翼だろう。それを磯村嘉孝が追う。今季の構図である。しかし、数年後、2人をあっさり抜き去る中村の姿を夢みたい。

 

 即戦力の投手なら、毎年何人かはいる。極端にいえば、年に3人は出る選手を獲るのか、あるいは30年に1人の選手かということである。今年のドラフト1位は迷うことなく、中村に入札してほしい、と切に願う。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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