西本聖(元プロ野球選手)第40回「若返りを図る巨人。問われるのはブレない覚悟」

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 今季、巨人は11年ぶりのBクラスに終わり、2007年から始まったクライマックスシリーズ進出を初めて逃しました。すでにフロントは巨人再建へ向けて動き出していることでしょう。私もOBとしてどのような再建策をとるのか気になっています。

 

 今季、13連敗を喫するなど苦しいシーズンを送ったのはオフに実施した補強、そして序盤の選手起用がチグハグだったのが原因です。昨季、坂本勇人が首位打者を獲得しましたが、チームの打点王は81打点をあげた村田修一でした。村田はホームラン数も25本とチームトップで、打率も3割以上(3割2厘)をマーク。彼がポイントゲッターだったことは誰の目にも明らかです。攻撃の軸となるポイントゲッターの村田をサードのレギュラーに据えて、ショートは坂本。ファーストは阿部慎之助が入る。となれば補強ポイントはセカンドでした。

 

 ところが開幕してサードを守ったのは補強したケーシー・マギーで、村田はベンチを温めていました。当然、ポイントゲッターのいない打線では得点力は期待できず、結果、13連敗という球団ワーストの記録にもつながりました。シーズン途中からマギーをセカンドに回し、村田をサードで起用。最後はCS進出を争うところまでチームが回復したのは、この配置転換もあってのことです。

 

 Bクラスに終わったことで、このオフも大幅な補強が予想されます。今季と同じ轍を踏まないようにするためには、「現状分析」がまず必要でしょう。成長のためにはどこを補強して強化する必要があるのか? 分析することはプロ野球チームに限らず、会社などの組織はどこも同じですよね。

 

 厳しい環境で成長

 宮崎で行われているフェニックスリーグでは岡本和真がサードを守り、ポスト村田修一として名乗りをあげています。「若返り」という旗を掲げて巨人は生まれ変わろうとしているのが感じられますが、果たして来季、シーズンが始まった後も「若返り」を続けていけるのかどうか。首脳陣には覚悟が求められます。

 

 岡本、中井大介と近年、オープン戦で結果を残しながら、1軍で打てないとすぐにファーム送りになっていました。我慢して起用し続けることも選手を育てる際には必要です。

 

 鹿取義隆GMは「若手が育ってこない」と発言していますが、「育ってこない」ではどこか選手だけに責任があるように感じられます。チームとして「若手を育てないといけない」という危機感を持つことも重要でしょう。

 

 私も巨人に入団した若手時代、長嶋茂雄監督をはじめとして指導者の方に、かなり厳しく鍛えられました。その厳しい環境がプロ野球選手として育ててくれたと思っていますが、今の巨人にそうした厳しさがあるのかどうかも気になります。

 

 コーチの仕事は選手を育てることですが、全員が一人前に育つことはありません。しかし1人でも2人でもプロ野球選手として一人前にするのがコーチの仕事です。選手に好かれることも必要でしょうが、厳しく接してプロとして一人前にすることが何よりも選手のためになる。指導する側の覚悟も求められます。

 

 最初に強くなるために必要なのは「分析」だと言いましたが、分析するのは戦力だけではありません。チームの環境はどうなのかも分析する必要があります。広島や福岡ソフトバンクは生え抜きの若手が育ち、彼らを使いながら優勝も果たしています。それがなぜ巨人でできないのか? Bクラスになったこと、そして若手が育っていないことなど、すべての現実を受け入れ再建を図る必要があるでしょう。さて、来季、高橋由伸監督のブレない「覚悟」が見られるかどうか。楽しみにしています。

 

西本聖(にしもと・たかし)プロフィール
1956年6月27日、愛媛県出身。松山商から75年、ドラフト外で巨人に入団。江川卓と巨人の先発2本柱として活躍。81年には沢村賞を獲得した。88年に中日へ移籍。89年には20勝を挙げ最多勝、カムバック賞、ゴールデングラブ賞を獲得。90年にはドラフト外入団史上初の150勝を達成した。92年にオリックスへ移籍。そして94年には長嶋監督の下でのプレーを希望して再び巨人へ。1軍のマウンドには立てなかったが、そのひたむきな姿は多くのファンに感銘を与えた。同年引退。03年、阪神の1軍投手コーチを務め、見事セ・リーグ優勝に導いた。10年から12年は千葉ロッテ、13年から14年はオリックス、15年は韓国・ハンファで投手コーチを務めた。現役通算165勝128敗17セーブ 防御率3.20。

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