今季のプロ野球、球界の“盟主”巨人はリーグ4位に終わった。2006年以来のBクラス。球団史上初めてクライマックスシリーズに進めなかった。先発に菅野智之(17勝5敗)、マイルズ・マイコラス(14勝8敗)、田口麗斗(13勝4敗)の3本柱がいながらリリーフ陣は振るわなかった。リリーフの働きぶりを示すホールドポイント、ホールド、セーブ。巨人はその全てにおいてリーグワーストを記録した。かつての巨人はリリーフ陣を軽視している時代があった。11年前の原稿で“盟主”巨人の敗因を考察しよう。

 

<この原稿は1996年6月6日号『Number』(文藝春秋)の原稿を一部再構成したものです>

 

近代野球におけるピッチャーの職能は、大きくスターター(先発投手)、セットアップ(中継ぎ)、クローザー(抑え)の3つに分けることができる。メジャーリーグでは、大枠として9イニングのうちの6イニングをスターターが、2イニングをセットアップが、そして最後の1イニングをクローザーが担当する。もちろんスターターがすべてのイニングを担当することもあるが、その場合、投球数が150球を超えることはきわめて珍しい。ロサンゼルス・ドジャースのデーブ・ウォレス投手コーチは「1イニング13球として、9イニングで117球。これが理想の完投勝ちさ」と明言している。

 

もっとも、これは海の向こうの話。ベースボールと野球は似て非なるもの。我が国の場合、球界の盟主と呼ばれるチームが近代野球に背を向け、“ジュラシック・(ボール)・パーク”への道をバックギアを入れてひた走っている。

 

巨人が負けた17試合のうち(1996年5月19日時点)、セットアップ、クローザーが決勝点を与えたのは、なんと9つ。「勝利の方程式」も何もあったものではない。斎藤、ガルベス、槙原ら完投能力のある先発投手陣の踏ん張りでどうにか持ちこたえているものの、バトンを受け取る第二走者、第三走者が手薄なままで長いシーズンを乗り切れるとは思えない。どうする、ジャイアンツ? 策は「スーパーマリオ」のリセットボタンを押し続けるだけなのか。ファンは嘆いている。「ゲームオーバーまで待てない」

 

 結果には必ず原因がある。リリーフ投手陣の崩壊、その原因の第一はスカウティングのミスにあると断定したい。

 

 ジャイアンツには「ルーキーのピッチャーは先発タイプの本格派でボールの速い順にとる」という不文律がある。この発想自体は決して間違いではない。斎藤、槙原、桑田、河原はいずれもドラフト1位。全員が揃って活躍すれば、後ろが少々、不安定でも、それを補えるだけの力を秘めている。

 

 しかし、リリーフ投手まで同タイプである必要はない。“投壊”を招いた4人の顔ぶれを見て欲しい。石毛、西山、小原沢、木田――ヒジが曲がっていて長いイニングを投げられないといわれる石毛も含め、基本的には全員、先発タイプの本格派である。にもかかわらず短いイニングを担当しているのは、先発ローテーションから漏れたためであり、リリーフの適性を認められたからではない。

 

 筆者が何を言いたいか、もうおわかりだろう。要するに近代野球におけるリリーフ・ピッチャーとは、いわば“専門職”であり、先発ローテーションから漏れたピッチャーの“副業”として務まるほど甘くはないということである。

 

 具体的にいえば、リリーフ・ピッチャーには次の4つの条件が必要とされる。まず第一に窮地をしのぎ切れるウイニング・ショットと制球力があるか、否か。ふたつ目として、ゲームの流れを冷静に読むことのできる“頭脳”があるか、否か。3つ目として、ピンチにも動ぜず、それをエネルギーに転じるくらいの精神力があるか、否か。4つ目としてセットポジションでの投球、バント処理などのフィールディングが巧みか、否か。これらの条件を“リリーフ適正”という言葉で置きかえた場合、巨人のリリーフ投手陣は、はなはだ心もとないのである。

 

 しかし、それをもともと先発志向の強い彼らに求めるのは酷というものだろう。むしろ、問われるべきは「リリーフは先発失格組でまかなえる」と考えているに違いない歴代フロントのオールド・ファッション体質だろう。

 

 以下はスカウティング部門の責任者である石山編成本部長補佐(当時)との一問一答。

 

――巨人の最近のドラフトを見ていると、ピッチャーの適性をあまり考えず、ただボールが速く、体の大きい者を評価の順に指名しているだけ、という印象が強い。二軍に埋もれている谷口や三野も基本的には先発タイプです。かつての鹿取のようなリリーフ投手は、あまり好まれない。一時期中継ぎで成功した橋本にしてもPL学園時代からリリーフだったため、プロでも適応できた。そういう事情を踏まえ、今までの指名のあり方を再考する時期にきているのではないか?

 

石山 先発完投型が4人か5人いて、かれらを中心にローテーションが回っていく。これが理想です。ドラフトに関していえば、逆指名の問題もありますから、1、2位で短いイニング専用のピッチャーを獲るというのは難しいでしょう。

 

 しかし、ウチの場合、ご指摘のように同タイプのピッチャーが多いというのも事実。リリーフの出来不出来が勝敗に直結する最近の野球ではアンダースローや変則モーション、左のワンポイント・リリーフも必要でしょう。またそういうピッチャーはドラフトのみならずFAやトレードでも常時、探しておかなくてはならない。それが編成の仕事だと考えています。

 

―― 石山さんご自身、大学、社会人で豊富な監督経験がおありです。采配を振うにあたってどういうコマが必要かということが一番お分かりになっている方だと思います。今後の選手補強に、それはどう生かされるのでしょう?

 

石山 社会人時代、金属バットで野球をやっていると、きまって8、9回に修羅場が訪れるんです。相手ベンチは、とっておきの代打をここぞとばかりにぶつけてくる。こちらはそれをあたまに入れながら、ピッチャーを替えていかなければならない。左(の代打)が出れば左を、右が出ればアンダースロー、あるいはスポット・コントロールの持ち主といった具合に。時にはこちらから誘いをかけて代打を引っ張り出したり、リリーフのカードをちらつかせることでベンチから出させないといった手も必要になってくる。経験上、リリーフ・ピッチャーは最低でも3タイプが必要です。同じタイプばかりでは意味がありません。

 

―― FAやトレード、外国人も含め、スカウティングにキメの細かさを求めるということでしょうか?

 

石山 そうなるでしょうね。編成部員に対してはそのピッチャーのボールスピードや質だけではなく、修羅場に際しての精神力や勝負度胸、あるいは野球に対する考なども調査させるつもりです。ブルペンでの力がそのまま発揮できないようなピッチャーでは困るんです。特にウチの場合、常に大観衆を相手にし、優勝を義務付けられていますから、精神面がタフでなければ(一軍選手は)務まりません。若い選手には“二軍はチャンス、一軍はピンチ”だという認識が必要でしょう。

 

(後編につづく)


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