(写真:前戦を期に友人関係となった2人。試合が終われば互いに晴れやかな表情だった)

 ボクシングのトリプル世界戦が22日、東京・両国国技館で行われた。5カ月ぶりの再戦となったWBA世界ミドル級タイトルマッチは同級1位の村田諒太(帝拳)が王者のアッサン・エンダム(フランス)に7ラウンド終了TKO勝ちを収め、リベンジを果たした。村田は2度目の世界戦で王座を奪取。エンダムは初防衛に失敗した。WBC世界フライ級タイトルマッチは王者の比嘉大吾(白井・具志堅)が同級5位のトマ・マソン(フランス)に7ラウンドTKO勝ち。デビューから14連続KO勝利で王座を守った。WBC世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の拳四朗(BMB)が同級1位のペドロ・ゲバラ(メキシコ)を判定で下し、初防衛に成功した。

 

 勝つことで得た新たな重み

 

 5カ月前に王座をかけて拳を交えた村田とエンダム。WBAの“物言い”により、再びリング上で対面した。間に試合を挟まないダイレクトリマッチ。本州に台風が近付く中でも会場の両国には多くの観客が詰め掛けた。

 

 前回の対戦で村田は4ラウンドにダウンを奪いながら、判定で敗れた。そのジャッジは物議を醸したが、敗因を挙げるとすれば仕留め切れなかったことだろう。完全決着のためには試合で圧倒する必要がある。それもあってか、村田も積極的に前へ詰めているように映った。

 

(写真:序盤の村田はリング上で笑っているように見えた)

「圧がすごかった」とエンダムが振り返ったように、手数の少なく見えた前回とは違った姿を見せた。エンダムも序盤からクリンチが目立つなど村田のプレッシャーを嫌がっていた。「自分のブロックが通用する」。村田は反撃も抑えられたことで、前への出足は鈍らずに済んだ。

 

 6ラウンドには残り20秒を切ったところで、村田得意の右ストレートがエンダムの顔面をヒット。ガクンとヒザが落ちたが、ここはエンダムが踏ん張る。ラッシュを仕掛けようと前へ詰めたが、ダウンは奪えなかった。それでも試合の主導権は村田が握っていた。7ラウンドも着実にパンチを当てて、圧力をかけ続けた。

 

 8ラウンドが始まる前に、エンダム陣営は試合続行を諦めた。5ラウンド頃から気付いた異常により、これ以上は危険と判断した。9月にケガや体調不良で満足なトレーニングが積めずコンディション調整に失敗していたという。王者の棄権により、村田の勝利が確定。日本人では竹原慎二以来、2人目のミドル級世界王者が誕生した。拳を掲げられながら、男泣きする姿が印象的だった。

 

 村田は今回の再戦に応じたエンダムを「彼とは友人です」と語り、続けた。
「高校の恩師が言っていたことですが、『ボクシングで試合に勝つことは相手を踏みにじって、その上に立つということ。だから勝つ人間は責任が伴うんだ』と。だから彼の分の責任を伴ってこれからは戦いたいと思います」

 

(写真:勝利が決まった瞬間は涙が溢れてきた)

 ロンドン五輪金メダルに次ぐ偉業を達成。「ベルトを獲ってからが大変。4団体ありますし、いろいろな強いチャンピオンがいます。ボクシング好きな人は僕より強いミドル級チャンピオンがいることを知っています」。両国の会場から「ゴロフキン!」との名が挙がると、「そう。そこを目指して頑張りたいと思います」と応えてファンを沸かせた。ゴロフキンとは“ミドル級最強”と呼ばれる現WBAスーパー王者でWBCとIBFのタイトルをも持つゲンナディ・ゴロフキンのことだ。

 

 ビッグマッチ実現へ向け、村田の所属の帝拳ジムの本田明彦会長は来年国内で防衛戦を行い、勝てばアメリカで試合をする方針を示した。「まずは勝ち続けていくこと。一歩一歩上がっていくしかない」と村田。新たな重みを背負う“ゴールデンボーイ”が飛躍を誓った。

 

 “難関”の初防衛戦を突破

 

「ベルトは奪うよりも守る方が難しい」。格闘技界の定説を若き王者たちが乗り越えていった。

 

 まず先にリングに上がったのはWBCライトフライ級の拳四朗だ。5月にガニガン・ロペス(メキシコ)からベルトを奪った拳四朗の防衛戦の相手はゲバラ。14年に八重樫東(大橋)との王座決定戦に勝利し、2度の防衛を果たした元王者だ。

 

(写真:会長である父<左>と記者に囲まれる拳四朗)

 序盤の4ラウンドはゲバラに押される。ラウンド終了後の公開採点では3者が挑戦者を支持した。判定に大きな差が付いていることを知り、「早めにボディを入れないと」と寺地永会長。セコンドからのゴーサインに応じ、拳四朗は攻めに転じた。

 

 ボディを軸にゲバラに効かせる場面が目立った。好戦的なスタイルに拳四朗も「新しい自分が見えた」と手応えを掴んだ。ダウンこそ奪えなかったが、8ラウンド終了時の採点は1人が拳四朗を、1人がゲバラを支持し、もう1人は同点。最終ラウンドまで攻め続け、2-0で逆転勝ちを収めた。

 

「倒したかったが倒し切れなかった」と悔やんだが、初防衛には安堵の表情を見せた。拳四朗は「まだまだですが、もっと強くなる」と更なる成長を目指す。

 

(写真:何度も打ち込んだ左ボディ。相手が嫌がる場面も見受けられた)

 続く比嘉はデビューから13戦連続KO勝利で王座を掴み取った。いわゆる“パーフェクト・レコード”を継続中だった。対戦相手のマソンはプロ21戦のキャリアでKO負けはない。試合後どう転ぼうと、どちらかに初が付くのは間違いなかった。

 

 具志堅用高会長が「序盤は硬かった」と振り返り、野木丈二トレーナーもウォームアップ中に「パンチがきてなかった」と感じたという。野木トレーナーは「スピードとパワーで勝負しろ」と、あえてそのことには触れず声を掛けた。

 

 徐々に温まってきたのか比嘉のパンチの回転数も上がる。4ラウンド終了時の公開採点は3-0。ジャッジすべてが比嘉の優勢と見た。相手のガードを剥がすようなパンチを当てていく。「目が切れていることに気付いた。ボディから攻めてガードの上からも叩いた」と比嘉。休まず打ち続けた。

 

(写真:比嘉が「試したかった」というガードの間を突くアッパー)

 7ラウンドに比嘉の連打でマソンの足が止まる。片ヒザを付き、レフェリーがカウントを取った。10カウントは聞かれなかったが、右目の傷は深く、ドクターチェックが入る。レフェリーが両手を振り、ここでゴングが鳴らされた。

 

「左ジャブに自信あった」と接近戦だけでなくパンチを散らして距離を取って攻撃を組み立てる場面もあった。これには野木トレーナーは「ジャブで刺し勝った。幅が広がっている」と褒める。「間違いなく進化している。ほとんど打たれていない。最高の素材。まだ底が見えない」

 

 TKO勝ちにより、連続KOは14へと伸ばした。日本人の最高記録は15。リング上ではWBAフライ級王者の井岡一翔(井岡)との統一戦をアピールした。「15連続KO、統一戦と視野が広がった。ボクシングは勝たないといけないスポーツ」と比嘉は語る。新カンムリワシは高みを狙い、飛翔する。

 

(文・写真/杉浦泰介)