「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。様々な業界からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 今回のゲストは四国アイランドリーグPlus(アイランドリーグ)を運営するIBLJの森本美行取締役会長です。四国4県を舞台に行われる独立リーグ・アイランドリーグは今シーズンで13年目を迎えています。四国には無限の可能性がある――。森本会長が見据える独立リーグの未来とは?

 

二宮清純: まずは今シーズン、独立リーググランドチャンピオンシップでアイランドリーグ徳島インディゴソックスがBCリーグ信濃グランセローズを下し、3年ぶり2度目の独立リーグ日本一に輝きました。おめでとうございます!

森本美行: ありがとうございます。2007年にスタートしたグランドチャンピオンシップで、リーグとしては2年ぶり7度目の優勝となりました。

 

二宮: ところでアイランドリーグの経営に関わるようになったのはいつからでしょうか?

森本: 代表取締役社長になったのが昨年です。出資からだと13年前から関わっています。社外取締役としては2013年までいました。経営の状況は見ていましたが、実際に経営の指揮を執ったのは昨年からです。

 

二宮: 13年前に関わるようになったきっかけは?

森本: 僕がデータスタジアム株式会社の代表取締役社長に就任した03年頃からは、地上デジタルビジョン放送が始まった時期で「スポーツはニューメディアのキラーコンテンツとして将来、事業機会がある」と言われた時代で資金が集まった時期だったんです。その時、アイランドリーグ創設者の石毛(宏典)さんがちょうど“独立リーグをつくりたい”と動き出し、資金集めをしていたタイミングだった。社会人野球が疲弊し、野球の受け皿がなくなってきた中での独立リーグ創設。データスタジアムとしても野球が普及して市場が大きくなることはビジネスチャンスとなりますから。そこで出資をさせていただくことに決めたんです。

 

今矢賢一: 創設を経営面からサポートしたんですね。

森本: そうですね。設立当初はリーグに対していろいろな企業がスポンサーとして手を挙げて頂きお金も集まりました。でも最初のブームと言うか期待感が薄れると、得られる協賛金がどんどん減ってしまっていました。僕は去年から社長になりましが、「もう1回、アイランドリーグの価値を考え直そう」というのがスタートでした。

 

今矢: 前向きに再構築をしなければいけないステージに来ているということですね。

二宮: 会社としてはIBLJがあり、各球団は独立しているわけですよね。

森本: スタートしたばかりの頃はアイランドリーグと各球団をひとつの経営母体で運営するシングルエンティティという形式で経営していました。当初こそ協賛金は集まっていましたが、地方における野球独立リーグの経営という初めての大きなチャレンジをした結果、リーグと球団合わせて何億円という負債が生まれてしまい、それをひとつの組織でカバーするのが難しくなってしまいました。試行錯誤の末、リート各球団を分社化するかたちをとりました。

 

二宮: 独立採算制にした上で、リーグに入った資金のいくらかを分配すると?

森本: ええ。リーグとしては配分比率を設定し、各球団に分配します。理事会の運営もやります。チャンピオンシップなどの場合はBCリーグ、その他フェニックスリーグの際はNPB等対外的な交渉も行います。あとはテレビ中継の場合は放映権、各種権利のマネジメントも管理しています。

 

二宮: アイランドリーグ全体の価値を上げるために、この先考えられていることは?

森本: 今までできたこと、できなかったことがありました。できたことは13年続けてこれたことと、年間約150試合を行って、そこに毎年平均で約500人から600人のお客さんを集められるようになったこと、60人弱の野球選手をNPBに排出できたことです。僕は、これからのスポーツビジネスにおいて時間×頻度、つまりスポーツへの接触時間は大きな要素だと思うんです。年間約150試合を開催できるのはウチの最大の武器です。その事業機会をどうすれば最大化できるか。3時間×約150試合分、球場にはビジネスチャンスが転がっています。試合があればローカルメディアも取り扱いますし、今年高知ファイティングドッグスにマニー・ラミレス選手が来たように認知度があれば全国紙やテレビも取り上げてくれるでしょう。メディアをどういうふうに活用するか、SNSの活性化ついては今後の課題でしょう。

 

 独自のスタイル構築を

 

二宮: これまで築いてきた財産を今後に生かしつつ、新しいことにも取り組んでいくと?

森本: はい。昨年9月4日に坊ちゃんスタジアムで行われた愛媛マンダリンパイレーツ対香川オリーブガイナーズの試合をインターネット生中継したんです。入場者数は622人だったんですが、ネット放送は大きな告知をせずに1万ユーザーぐらい視聴がありました。

 

二宮: それはすごい反響ですね。

森本: 当時、今季から愛媛マンダリンパイレーツの監督を務めている河原純一さんに解説をお願いました。特別ゲストには友人である実業家の堀江貴文くんが来てくれました。グラウンドばかりを映すのではなく、堀江くんの「(2004年球界再編問題の新規参入は)本当はここでやりたかった」といったトークも配信して、通常の中継とは違うかたちで流したんです。アメリカのMLBの試合に行くと試合を観ている人もいれば、通路で食事したり会話したり子供を遊ばせたり観戦以外で楽しんでいる人もたくさんいます。それと同じようにただプレーだけをずっと観る人向けにするのでなくライト層も向けに“居酒屋トーク”を配信してもいいのかなと。既存の野球中継にとらわれず、いろいろなことにトライしていこうと思っています。

 

二宮: 試合中継においては映像を記録しておくことはデータと考えても有効ですよね。他のスポーツでは日本女子ソフトボールリーグや女子バスケットボールのWリーグなどもインターネット中継を配信しています。

森本: 今シーズンはスマートフォンと地域BWA(Broadband Wireless Access。市町村においてデジタル・ディバイドの解消、地域の公共サービスの向上等に役立つ高速データ通信サービス)を活用した生中継を全国配信しました。今はいろいろなパターンを試しています。

 

今矢: 様々なチャレンジができることは強みですね。

森本: アイラインドリーグは他とは違うトライをしたいですね。去年、僕が経営に参画した時にアイランドリーグのセールスシートを見ると「12年間続いていること」「平均観客動員が数百人」「NPBのプロ野球選手を60人以上輩出しました」という数字を毎年更新しているだけなんですよ。これだけでは企業の皆さんがスポンサードしてくれるわけがない。他に明るい数字はないかと考えた時に、各球団の社会貢献活動が800回ぐらいやっていたんです。1球団平均200回以上。50人規模のスクールもあれば、5000人が集まるお祭りにも参加するなど関わり方は様々です。そのおかげもあって四国全体の10%、約40万人はアイランドリーグの球団の選手たちと接触しているんです。更にはほとんど取り組んでいなかったTwitterやFacebookなどのSNSを、リーグをはじめとして球団や選手・スタッフが有効に使えば、反響もわかりやすく、多くの人がアイランドリーグを知っているということを内外に示すことができると思います。まだ不十分ですが、リーグとしてSNSはかなり前のめりに取り組み始めました。

 

二宮: サッカーのJリーグ、男子バスケットボールのB.LEAGUEをはじめ地域密着のスポーツクラブ経営は随分根付いてきました。

森本: アイランドリーグという存在が野球を続ける選択肢を広げること繋がっている。四国に選手が集まり、野球の普及に繋がることが重要だと考えています。ただ、アイランドリーグにきた選手のうちNPBのプロ選手になれるのは、せいぜい所属選手の5%程度です。したがってそれ以外の95%の選手のセカンドキャリアや人間教育も大事なことです。野球を通していい人間に育つということも普及のためには大事だと思います。昨年社長に就任して最初にリーグ、球団にお願いしたことは「スポーツマンシップ宣言」をしてもらうことです。高校時代、選手宣誓をした経験のある選手でさえ「スポーツマンシップとは何か?」と問われて明確に答えられない人もいる。そこでリーグ、球団にスポーツマンシップの研修を行い、宣誓の言葉を自分で考え、選手、指導者、経営者が後期開幕戦の時にスポーツマンシップ宣言を行うことにしました。

 

二宮: 選手と交わす統一契約書はあるのでしょうか?

森本: リーグ独自のものがあります。現在は統一契約書が独立リーグによってそれぞれ違うのが実情です。そういうフォーマットも統一できるところはしなくてはいけないし、我々アイランドリーグとしても見直す部分もあると思います。アイランドリーグはNPBに準じる形で13年続いていますが、文字通り独立リーグとしての色を出すためにこれまで以上にローカルを意識する等時代に合わせて変えていかなくてはならない部分もあると考えています。

 

二宮: NPBを目指す選手も多いですからね。ビジネスで言えば、外国からも良い素材を獲って、育ててから高く売るという方法もあります。

森本: それもひとつの手ですね。僕は4球団それぞれがローカル色を前面に出しながら戦っていくようなエンターテインメント性が大事だと思います。例えば豪快なイメージがある高知球団は全員がフルスイングするとか、IT企業の誘致に熱心な神山町を有する徳島球団はデータ野球を全面に押し出すのも良いと思います。データ野球のチームからはNPBのプロ球団に選手だけでなくアナリストが引っ張られるような状況になっても面白いのではないでしょうか。アイランドリーグをよりエンターテインメント性を持ったリーグにできればと考えています。

 

 地域活性化の起爆剤に

 

二宮: NPBの延長戦上にないような独自スタイルがあれば魅力的ですね。

森本: 愛媛県は正岡子規に代表されるように、ある意味、野球発祥の地ですから、それぐらい思い切ったことをやってもいいんじゃないかと思っています。

 

今矢: MLBのロサンゼルス・ドジャースもベンチャー企業に出資したりしています。アイランドリーグとしてもデータやテクノロジーを駆使してベースボールを変えるような新興企業に出資する動きはあるのでしょうか?

森本: 直接投資ではないものの、それ似た戦略を去年からやっているんです。データの仕組みは野球のシステムについては僕もデータスタジアムにいましたから、わかるんですが、本当にデータベースから整備して良いものをつくるには開設費用が数億円かかるんですよ。今回、その基礎技術があるものの使いどころがない企業にお願いし、まるで新しい野球データシステムを我々が現場の意見や希望を集約する形で開発してもらいました。1球1球の情報をデバイスに打ち込めば、ネットでリアルタイムにデータが見られるだけでなく、誰もが野球の試合時につくっている手書きのスコアブックと同じものがデジタル化され、生成される。紙のスコアブック同様のものをつくるのは結構大変で、そのためには新聞の組版システムの応用が必要になります。その開発を行ったaiSports社のアプリはあちこちの野球チームから引く手数多の状態です。現状のアイランドリーグではスポンサーが広告宣伝費を出してもらうのは簡単ではありません。しかし、我々の活動の場を利用して新しいサービスをつくるための研究開発費ならまだ可能性がある。だから「僕らはうまく実験台として使ってください」と、リーグ経由でサービス化のスキームで売り出すこともできると思うんです。

 

今矢: そのテクノロジーはリーグが所有しているのでしょうか?

森本: 基本的には開発者ですが、一部リーグも所有できるように話しています。

 

今矢: なるほど。それをライセンス提供すれば、リーグの収益拡大につながりますね。

森本: はい。今はさらに開発が進んでいます。音声による入力です。スコアブックを記入するにしても、データを打ち込むにしても作業は大変ですが、音声入力が可能になればかなりの手間を省くことができます。開発部隊がラジオ中継を元に試したことがあるそうなんです。ラジオの実況放送では試合で起こったことの95%の事象を言葉にしていることがわかりました。つまり中継の傍に音声入力のできるデバイスをセットしておけば、自動的に公式記録が作成され、かついろいろなコンテンツに活用できる。例えばユーザーが知りたいデータをすぐに引き出すこともできるはずです。スポーツデータやコンテンツ制作、分析はAI(人工知能)と相性が良いと思います。ERP(統合基幹業務システム)で世界最大手のSAPという会社はサッカードイツ代表の2014年ブラジルW杯優勝に貢献した実績があり、企業にとっても自分の技術のプロモーションに大いに役立っています。

 

今矢: すでに「SAPのテクノロジーはすごい」というブランディングができてきていますよね。 

森本: だから僕らもデータをうまく使い、リーグの価値を違うかたちでアピールしています。まだまだ無限の可能性を秘めていて、実は今も面白いメンバーや会社、大学が興味を持ってアイランドリーグが行っているプロジェクトに協力していただけるような動きもあるんです。すごい期待感がありますね。

 

二宮: ちょうど面白い時期に差し掛かっているわけですね。

森本: まぁ大変な時期でもあります(笑)。四国は、野球に限らず他のスポーツチームも必ずしも上手くいっているとは言えません。県によっては他のスポーツとも手を組むかたちもありかなと。例えば新潟アルビレックスのようにひとつのスポーツクラブとして複数のスポーツチームを運営するかたちがあっても面白いのかなと思いますね。

 

二宮: 四国のスポーツを統括する社団法人のような組織ができれば、そういった動きが加速するかもしれませんね。

森本: そうですね。最近はJR四国の新幹線構想がある中で、経済界と自治体が顔を合わせる機会が増えてきていると聞いています。そこにスポーツを絡ませて、地域の活性化に関わっていくことができれば面白い地域のモデルになるかなと思っていますね。

 

今矢: 四国にSportfulな環境が整備できればいいですね。思うに島としてのポテンシャルは高い。野球、サッカーだけでなく自転車やトレイルランも盛んですからね。

二宮: おっしゃる通りです。愛媛県と広島県を繋ぐ、しまなみ海道は自転車の聖地化していますよね。高知県にはサーフィンのメッカもあります。

森本: そうなんですよ。四国のある地域にイングランドプレミアリーグのクラブがアジアのアカデミーをつくれないかと水面下での動きもあります。地域性、教育機関、経済状況などいろいろな課題を抱えている四国は、その課題解消のために様々な施策を考えている。そういった点でも四国はポテンシャルがある。四国のローカルスポーツがグローバルブランドと繋がり、更に世界が広がりそうな感覚があります。例えばテニスの錦織圭選手が育ったIMGの日本版みたいなものが四国にできるようなことがあれば、スポーツを通してもっと地域が活性化すると思いますし、僕はその可能性に期待しています。

 

森本美行(もりもと・みゆき)プロフィール>

1961年生まれ。85年に成城大学卒業後、株式会社日本旅行に入社。92年アメリカ・ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2000年アメリカ・アジアコンテントドットコム株式会社の日本法人における社長兼CEOを務めた。03年にはスポーツデータの分析・配信を行うデータスタジアム株式会社の社長、会長を歴任。16年よりプロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグPlusを運営する株式会社IBLJの代表取締役社長に就任し、今年3月からは同会長を務めている。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)


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