「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。様々な業界からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 今回のゲストは東京23区から初のJリーグ入りを目指す「東京ユナイテッドフットボールクラブ」の福田雅共同代表兼監督です。JFLの1つ下のカテゴリーに属する地域リーグ(関東リーグ1部)の東京ユナイテッドFCは東京大学OBと慶應義塾大学OBをルーツに持つクラブ。座学からの学びとスポーツからの学びを融合した優れた人材輩出を目標としています。福田代表が描くサッカーが繋ぐ大学コミュニティと地域コミュニティの融合とは――。

 

二宮清純: 福田代表が率いる東京ユナイテッドFCは現在、関東サッカーリーグ1部に属しています。3部まであるJリーグの1つ下のカテゴリーがJFLです。関東サッカーリーグは9つある地域リーグの1つ。JFLからは1つ下のカテゴリーになります。

福田雅: 実は今矢さんの弟(直城)さんが監督を務める早稲田ユナイテッドとは何度も対戦経験があるんですよ。東京都リーグ1部や関東リーグ2部でも戦っていますね。チームとしてはライバル関係にありますが、気が合うので仲が良いんです。

今矢賢一: 弟のクラブは今も関東サッカーリーグ2部ですから、追い越されてしまいましたね。

 

二宮: 福田代表から見て、早稲田ユナイテッドはどのようなサッカーを?

福田: 意思のないパスを嫌うサッカーですね。パスを受ける時にも意思を持てと。そういうボールの受け方も徹底しています。出し手だけではなく受ける側の意思をすごく大事にしています。敵ながら早稲田ユナイテッドのサッカーは好きですね。選手の自立を促すサッカー。今矢さんは試合中、細かいことは言わないです。

 

二宮: 福田代表が率いる東京ユナイテッドFCは?

福田: 僕は気の緩んだプレーが嫌いなんです。それに対しては厳しく指導しますが、「ピッチに出たらオマエたちが戦ってくれ」というスタンスですね。その点は今矢さんと似ているかもしれません。

 

今矢: では今度は弟も交えて、サッカー談義しましょう。

福田: ぜひ宜しくお願いいたします。

 

 大学コミュニティを生かしたクラブづくり

 

二宮: 東京ユナイテッドFCは大学を起点にしながら地域に広げていきたいと。まずはクラブをつくった動機を教えていただけますか?

福田: 何よりまず東京23区内にプロサッカークラブがなかったことです。日本と比べるとGDPが3分の1以下であるスペインにはレアル・マドリードとFCバルセロナという経済面においても世界的なビッグクラブがある。この話をすると「文化が違う」という言葉で片付けてしまう人もいますが、それは逃げだと思うんです。文化にしようとする努力が足りていないのではないかと。私は公認会計士の資格も持っているので、経営的観点からサッカーを掘り下げていったんです。日本のクラブは国の経済力を生かせていないと感じました。

 

二宮: 逆に言えば、まだまだ伸びしろがあると。

福田: そうですね。日本のスポーツ文化は体育の延長にある。身体を鍛えるためのものですね。日本のスポーツを通じた教育は学校にあります。学校の部活文化で、学校対学校の構図で日本スポーツは盛り上がってきました。学校の部活文化の頂点は大学における早慶戦などがあります。あれだけの人を呼べるのはすごいコンテンツだと思うんです。

 

二宮: 早慶戦の人気を取り入れたいと?

福田: はい。私はそこに魅力を感じ、まず既存の早稲田ユナイテッドというクラブに「早慶ユナイテッド東京」として、早大OBと慶大OBによる連合クラブチームをつくることを提案したんです。薩長同盟における土佐藩の気持ちです。残念ながら“締結”には至りませんでしたが……。そこで2010年1月、当時は休部状態にあった慶大体育会ソッカー部OBクラブ「慶應BRB」を再結成し、自分たちだけで社会人クラブをスタートしました。そこに東大サッカー部OBクラブ「東大LB」が合流し、2015年に「LB-BRB TOKYO」を創設したんです。さらに2017年からクラブ名を現在の「東京ユナイテッドFC」に変更しました。要するに学校コミュニティの延長線上にクラブをつくったのです。今まで東京23区内にプロクラブがないのは、地域密着するための名士や地元企業を特定しづらいことと、インフラがないことに原因があったと思うんです。この2つを同時に解決する手法が、大学OBというコミュニティ。ここに立脚して、いずれは地域に根付けばいいと考えてスタートしました。

 

二宮: 大学のブランドを最大限に生かすわけですね。

福田: 日本は学歴社会ですから、そこを逆手にとろうと思っています。まずはわかりやすい基軸として「慶大と東大初のクラブです」と言ってクラブをスタートさせたんです。それは学閥クラブをつくるのではなく、気を引くための戦略に過ぎない。Jリーグを目指すためにはスポンサー集めもしなければいけませんので、文京区に本社を置くフクダ電子の福田孝太郎会長に飛び込みでお願いしに行ったんです。「こんなクラブをつくりたいのでご協力いただけませんか?」と。すると「面白いから賛同しまししょう」と言ってもらえて、ユニホームの胸スポンサーにフクダ電子がつくことになりました。

 

 クラブのルーツがアイデンティティ

 

二宮: 東京大学は文京区にキャンパスがあります。

福田: 当初は慶大のキャンパスがある日吉のグラウンドで練習していた時期もありましたが、文京区や東大OBのサポートも得られるようになったので活動拠点を文京区に移しました。さらには女子サッカーの受け皿となれるように僕らは女子の「文京LBレディース」というチームも持っています。女子の選手たちが生涯サッカーをやり続けられる環境を用意したいと思ったからです。そんな活動が実を結び、今年の1月には文京区と相互協力協定を締結する運びとなり、より公式にクラブ全体を応援していただけることになりました。

 

二宮: 世界のサッカークラブにはいろいろな成り立ちがあります。ドイツ・ブンデスリーガのシャルケ04は炭鉱労働者のまちのクラブです。今矢さんが住んでいたオーストラリアのクラブ成立事情は?

今矢: サッカーだとオーストラリアは移民の国ですから、そのコミュニティがルーツになっていることが多いです。シドニーオリンピックという名称でギリシャ系、マルコーニという名称でイタリア系、シドニーユナイテッドという名称でクロアチア系など。あとはマルタ系やマケドニア・セルビア・ユダヤ系のチームがありました。僕らがいた90年代は内戦をしている国をルーツに持つクラブ同士の試合だと、警備体制もかなり厳しくなりました。雰囲気も全然違いましたね。

 

福田: クラブのルーツがアイデンティティとなって、クラブ同士の対立の構造は今のステージからできていなければダメだと思うんです。だから僕らも東大と慶大を前面に押し出して、ヒール役になってもいいから個性を出していこうと考えています。

二宮: それはいいアイデアですね。オーストラリアのリーグは、その後どう成長していったのでしょうか?

今矢: 日本のJリーグができた時の100年構想のようなビジョンがあったと思います。オーストラリアはAリーグになったタイミングで民族色は消し、移民色が強いチームは排除されていきました。唯一NSL(Aリーグの前身)からAリーグに生き残れたのは移民色が少なかったパースグローリーというチームだけです。Aリーグがスタートした当初は西シドニーにチームがなかった。それこそ東京23区内にサッカークラブがないような状況でした。2012-13シーズンからウェスタン・シドニー・ワンダラーズができました。小野伸二選手も当時は所属していました。元々サッカー熱の高い地域だったので、一気にファンが集まって初年度でレギュラーシーズンを優勝で終えたんです。

 

福田: その後、小野選手がコンサドーレ札幌に移籍してからはどうなったんですか?

今矢: クラブ創設3年目でAFCアジアチャンピオンズリーグも制しました。今もファンがついているという意味では、すごく成功していますね。

 

 教育というストロングポイント

 

二宮: 普遍化、一般化していくためにはどういう作業が必要だと考えていますか?

福田: モデルはFCバルセロナです。カタルーニャ地方の少数民族のクラブがグローバル化していったという事実は非常に興味深いです。どのようにすればそうなれるかと聞かれると明確な答えはありませんが、目先はブレずに地味なことをやっていくしかないなと思っています。まずは勝つこと、同時に1人でも多くの方々に我々を知っていただき、理念を訴え続けること。ルーツは東大と慶大ですが、それ自体がどうこうというわけではなく、このクラブを通じて何を実現したいかと言えば、スポーツの社会的なステータス向上です。ルーツを明らかにすることで今までスポーツに理解のない人たちが耳を傾けてくれるのなら、大いに利用したい。我々は、人間形成の場としてスポーツは座学と変わらないぐらい重要なものとして考えています。だからこそ、教育のコンテンツとしての価値をもっと社会に訴えていきたい。今のJリーグクラブの差別化を図るのは「地域性」と「強さ」の2軸だと思うのですが、「理念」というもう1つの軸を加え、“ここのクラブは違うよね”と言われるような存在を目指しています。

 

二宮: いずれは教育産業をバックに付けるとか、そういう提案もできますよね。

福田: そうですね。どこかの塾と提携することもできますし、クラブのスタッフには僕を含め会計士、弁護士がいます。クラブが会計士事務所と弁護士事務所を経営しているので、そこを職業訓練所として機能させれば選手たちのセカンドキャリアにも繋がる。私たちが選手たちを受け入れて職業訓練させて、スポンサー企業などに就職してもらえたら、とてもいいサイクルになると思うんです。

 

二宮: 東京ユナイテッドFCが「セカンドキャリアに定評がある」ということになれば、ビジネスにも繋がりますよね。

福田: 選手も安心してクラブに人生を預けられると思います。地元の名士の弁護士や会計士がクラブのグループ内にいて、そういう人たちに生涯キャリアについて相談できる。一方で、クラブと同一ブランドのプロフェッショナル事務所があれば、サポーターの方々からしてみても安心して仕事を依頼できる。その事務所には引退した選手たちが働いていたりもする。例えばレアル・マドリード会計事務所、レアル・マドリード弁護士事務所があったらおもしろいじゃないですか。それで僕らもつくってみたんですよ。クラブの価値が上がれば、ビジネス部門の価値も上がる。このクラブだからこそ、できる周辺ビジネスがあると考えています。

 

二宮: クラブとしての強みを生かすわけですね。

福田: 来シーズンからは文京区のソレイユFCと提携して、東京ユナイテッドソレイユFCという育成年代のクラブを始動させます。活動内容はトレーニング前に選手たちの自習時間を設けて、勉強が終わった子どもから練習に参加できるというシステムにします。勉強をする習慣を付けようと思っているんです。

 

二宮: それは親御さんからも理解を得られそうですね。

福田: 入団に際し、セレクションは実施しますが、サッカーの技術レベルで落としていないんです。子ども自身がサッカーに一生懸命で、かつ面談を通じて親御さんとクラブが信頼関係を築けそうならば基本的には合格にしています。将来トップチームに昇格できるようなサッカー選手を育成するだけではなく、クラブの理念を体現できる将来のクラブマネジメント層を育てる狙いもあります。

 

今矢: インフラという面ではJクラブを目指すためのホームスタジアムはどのようにお考えですか?

福田: 「このクラブのためにスタジアムをつくろう」「このクラブにスタジアムを使ってもらおう」。それぐらいの声が上がるようなクラブにならなければ、僕らは価値がないなと思っているんです。そこは僕らの勝負。そういう意味ではチャレンジだと思っていますし、「ここをJリーグに上げないと盛り上がらない。もしくは日本サッカーの発展はないでしょう」と言わせるような存在にならないといけません。

 

二宮: その意味ではクラブの顔である福田さんのキャラクターも重要になってきます。

福田: 私は基本的に人が好きですから、どこにでも入っていくんですよね。サッカーを通じての繋がりや広がりは無限の可能性がある。こんなにも人を豊かにするコンテンツはないんじゃないかと思っています。僕は中学校を素行不良で退学になっているんです。そこから暁星高校サッカー部に入部して人生をやり直せた。サッカーに救われたという思いは強く、サッカーに対して恩返しをしたいんです。サッカー、スポーツの価値をいろいろな人に伝えていきたいと思っています。

 

福田雅(ふくだ・まさし)プロフィール>

1975年5月9日生まれ。暁星高校サッカー部時代には全国高校サッカー選手権大会に出場。東京大学進学後はア式蹴球部に所属し、4年時にはキャプテンを務めた。2000年東京大学経済学部卒業後、公認会計士の資格を取得。06年に母校の東大ア式蹴球部監督に就任した。10年には社会人チーム慶應BRB再結成に参画。13年に同チームの監督に就任する。15年に一般社団法人CLUB&BRB創設し、代表兼監督に就いた。同年にみずほ証券株式会社に入社。16年より日本サッカー協会監事も務めている。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)


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