(写真:発案者の中田氏は自身の経験から社会貢献の輪を広げようとしている)

 30日、日本財団はアスリートによる社会貢献活動を促進する新プロジェクト『HEROs Sportsmanship for the future』(HEROs)創設を発表した。都内の日本財団ビルで行われた会見には日本財団の笹川陽平会長をはじめ、サッカー元日本代表の中田英寿氏、全日本柔道男子代表の井上康生監督ら19名中14名のHEROsアンバサダーが出席した。

 

 今後、HEROsでは「ACADEMY」「ACTION」「AWARD」の3つの取り組みを展開。「ACADEMY」は若手アスリートやチームを対象に、社会とつながるスポーツマンシップのあり方や社会貢献とは何かといったことを考え、人材育成を図る。「ACTION」ではアスリートやチームを社会活動とマッチングさせる。「AWARD」はその名の通り、「HEROs AWARD 2017」開催し、表彰の場を設ける。表彰式は今年12月11日に都内で行うことが決まっている。

 

 まさしくHEROs。メンバーは錚々たる顔ぶれである。

 

 10月30日現在で、中田氏、井上監督をはじめ、日米の名門球団でプレーした松井秀喜氏のほか、19名に及ぶ“各競技の顔”がアンバサダーに名を連ねた。ハンドボール東俊介氏、バドミントンの池田信太郎氏、パラアイスホッケーの上原大祐氏、バレーボールの大林素子氏、山本隆弘氏、シンクロナイズドスイミングの奥野史子氏、パラ水泳の河合純一氏、車いすバスケットボールの根木慎志氏、水泳の萩原智子氏、卓球の松下浩二氏だ。

 

 加えてボクシングからはWBA世界ミドル級王座を奪取した村田諒太、モータースポーツからは今年インディ500を制した佐藤琢磨、バスケットボールからは日本人初のNBAプレーヤーでB.LEAGUE栃木ブレックスの田臥勇太、女子サッカーからは元なでしこジャパンでアメリカ女子サッカーリーグでプレーする川澄奈穂美、ヨットからは世界的冒険家の白石康次郎、ボートレースからは今季8勝の長嶋万記という現役バリバリのアスリートも参加する。

 

(写真:プロジェクト発足の経緯を語る笹川会長)

「日本財団は責任を持ってアンバサダーをサポートし、未来を背負う青少年たちに夢と希望を持ってもらいたい」と、日本財団の笹川会長。日本財団では社会貢献活動をこれまでにも行ってきた。アスリートも個人レベルや組織単体では力を入れてきた競技団体もある。「個々になさっていることをもっと集約する。スポーツ界全体が社会にお返しして、より力強い若者を育てていこう」との想いでHEROsは始動する。

 

 日本財団が行ってきた社会貢献活動のノウハウに、スポーツの力を加えることでより大きな推進力を得る狙いがある。世界的にはアスリートの社会貢献活動はポピュラーだが、日本国内では浸透しているとは言い難い。日本財団によると、2017年実施のインターネット調査(全国10代以上の男女1000名)では「あなたが知っているスポーツの社会貢献活動は?」との問いに「特になし」と答えた人は67.3%もいたという。

 

 社会貢献活動を個々人や競技レベルでは行っていても、世間的な認知は少ない。そこで知名度も高くキャリアも豊富な彼らの発信力が力になる。アンバサダーの松下氏は「1人1人や1つ1つでやってきたことが、これからは10にも100にもなる」と、HEROsの可能性に期待を寄せる。アンバサダーを代表して挨拶をした井上監督は「個々だけでなく総合力でスポーツの素晴らしさを世界に、また日本に出していければと思っております。微力ではありますが、全力で頑張っていきたい」と抱負を述べた。

 

(写真:会見に登壇した笹川会長<左端>と14名のアンバサダー)

 発案者でもあるアンバサダーの中田氏は、一般財団法人「TAKE ACTION FOUNDATION」を設立するなど、かねてから社会貢献活動に積極的だった。ヨーロッパのクラブでもプレー経験もあり、世界を肌で感じたサッカー選手。ゆえに思うところもあったのだろう。
「社会貢献活動は苦しいものでなく楽しいもの。ただ残念ながら往々にして自分1人でやることが多かった。世界中のいろいろな選手がそれぞれ財団を持って、世界中で試合をやっています。だけど同じ業界にいる自分でさえも彼らの情報は全く知らなかった。一緒にやれればもっと大きいことができるんじゃないかと常々思っていました」

 

 スポーツの力、人の力は無限の可能性を秘めている。HEROsの存在はアスリートたちを繋ぐプラットフォームにもなり得る。競技間の情報交換の場にもなるはずだ。ヒーロー、ヒロインたちが力を結集し、社会に輪が広がる。まずは足並みを合わせ、その大きな一歩を踏み出した。

 

(文・写真/杉浦泰介)