(写真:国体サッカー女子の会場、宇和島市丸山公園陸上競技場)

「えひめ国体での単独優勝を目指して頑張ります!」

 

 今年の春、愛媛FCレディースの選手たちが、国体に向けて意気込みを語っていた。

 

 第72回となる今年の国民体育大会は、我が故郷の愛媛県にて開催。「愛顔(えがお)つなぐえひめ国体」として2017年9月30日から11日間に渡り、華々しく行われた(会期前実施競技は9月9日~9月17日)。

 

 そんな中、愛媛FCレディースは今年も愛媛県代表チームとして「国体サッカー競技女子の部」へ出場。地元チームの誇りを胸に、頂点を目指した。

 

 昨年の「いわて国体(第71回国民体育大会)サッカー競技女子の部」にも出場した愛媛FCレディース。過酷なトーナメントを勝ち上がり、悲願の優勝を成し遂げた。しかし、その優勝は単独での優勝ではなく、新潟県代表と分け合った「2チーム同時の優勝」だった。素晴らしい成果であることに変わりはないが、欲深い周囲の心情が求めるものは、地元開催における決勝戦での勝利。つまり単独優勝である。

 

 選手たちも、重責を感じながらこの1年間、努力の日々を積み重ねてきたのである。10月2日(月)、1回戦が宇和島市丸山公園陸上競技場で行われた。対戦相手は強豪チームの宮城県代表。

 

 序盤、愛媛は硬さもあり、押し込まれる展開が続く。前半14分、相手に中央を突破され失点を喫した。それでも慌てることなく、徐々にペースを取り戻していく愛媛。前半21分、敵陣で相手GKが足元に収めた。これを狙っていたFW阿久根真奈選手が敵ゴール前まで詰める。GKがロングフィードを放つ瞬間、アタックを仕掛けた。すると相手GKがキックしたボールが阿久根選手の右足に見事ヒットし、ゴールへと突き刺さった。同点に追いついた2分後には、FW大矢歩選手が逆転ゴールを決めた。さらに5分後には、FW上野真実選手が追加点を決め、試合を折り返した。

 

 後半17分、再び阿久根選手が得点。大きくリードした愛媛は、後半23分までに交代枠を全て使い切り、体力の温存を図った。そのためか、一時的にバランスを崩し、相手に1点差まで詰め寄られるが、何とか逃げ切り試合終了。4対3で愛媛が難敵を下し、次戦へと勝ち進んだ。

 

(写真:試合前、ピッチ内練習を行う愛媛県代表チーム)

 翌日の10月3日(火)の準々決勝は京都府代表と対戦(会場は同じく丸山公園陸上競技場)。愛媛は立ち上がりからボールを支配し、優位に試合を進めた。前半16分、左サイドのDF佐藤比香理選手からのクロスボールがゴール前での混戦を呼び込む。混戦の中、最後に大矢選手が押し込んで愛媛が先制点をあげた。

 

 そこから、勢いに乗って攻め立てるが、追加点を奪えない。それでも後半18分、愛媛がPKのチャンスを手に入れる。これを上野選手が落ち着いて決めた。その後も相手のシュートをゼロに抑えつつ攻め立てるが、スコアに動きがないまま試合終了。2対0で愛媛が準決勝へと駒を進めた。

 

 10月4日(水)には、鹿児島県代表との準決勝戦が行われた(会場は同じく丸山公園陸上競技場)。前半、敵陣内でのビルドアップが、なかなか図れず、シュートも単発に終わる。

 

 イライラした展開が続いたが、嫌な空気を払拭したのは阿久根選手だった。後半立ち上がりに、大矢選手のアシストから右足を振り抜き、先制ゴールを決めた。後半10分には、コーナーキックからDF西村望選手がヘディングシュートでゴールネットを揺らした。その後も相手を圧倒し、2対0で愛媛が2年連続での決勝進出を果たした。

 

 決勝戦は10月5日(木)。対戦相手は千葉県代表である(会場は同じく丸山公園陸上競技場)。地元・愛媛県の代表チームが決勝進出ということもあり、平日にも関わらず、会場には1700人を超える大勢の観客が応援に詰め掛けていた。

 

 千葉のキックオフで試合がスタート。立ち上がり、阿久根選手のスルーパスから大矢選手が相手DFラインの裏に抜け出す。ドリブルでペナルティエリアまで持ち込みシュートを放つも、GKに弾かれ、惜しくもゴールならず。愛媛としては良い流れを創り出せそうな雰囲気だったのだが、前半20分過ぎにアクシデントが発生。序盤から調子の良かった大矢選手が、相手選手との接触プレーにより、止む無く交代となってしまった。

 

 緊急事態により、愛媛は戦術的にバランスを崩し掛けた。それでも、共に戦ってきた仲間同士。強い絆で助け合い、何とか持ち直し、前半を無失点で終えることができた。後半に入り上手く修正し、積極的な攻撃姿勢を見せる愛媛。MF西川早弓選手のシュートやクロスバーを直撃するMF渡井汐莉選手のフリーキックなど、あと少しでゴールというシーンも見られたがスコアは動かなかった。

 

 試合は0対0のまま、延長戦へと突入。ボールの支配率で勝る愛媛は攻め手を探るためにDFラインでパスを廻していたが、センターサークル付近でボールを奪われ、延長前半7分に相手に1点を献上してしまった。同点に追いつくため必死の反撃を試みる愛媛。延長も後半に入り、幾度となく相手ゴールへと襲い掛かる。西川選手からのアーリークロスが敵ゴール前に供給される。これに反応した上野選手が敵DFと競り合いながら大きくジャンプし、ヘディングシュートを放つ!

 

 しかし、ポストに弾かれゴールならず……。パワープレーの様な敵陣内での攻防が続く中、時間は過ぎ去り、遂にはタイムアップ。延長戦までもつれ込んだ決勝戦は0対1で愛媛が敗れ、目標の単独優勝には届かなかった。

 

 頭を垂れる愛媛の選手たち。涙を流しうずくまる選手も見える。それでも全力を尽くし、4日連続の試合を戦い抜いた選手たちには、大きな歓声と温かい拍手が送られていた。

 

(写真:「会場一番乗りで、応援横断幕を設置)

 試合後、横断幕を片付け、会場をあとにしようとした際、マスコミの取材を終えたキャプテンの阿久根選手と出くわした。私の顔を見てしきりに「すみませんでした」と頭を下げ謝ってくれたが、私からは労いの言葉と共に感謝の気持ちを伝えさせていただいた。

 

 地元開催による周囲からの期待と大きなプレッシャーの中、連戦での疲労を抱えながらも選手たちは、気迫溢れる素晴らしい試合を最後の最後まで見せてくれて、とても感動した。しかも結果として、しっかりとファイナルまで駒を進めてくれたのだから私にとっては、感謝の気持ちしかない。安易に手に入れる優勝よりも、よほど価値があり、誇らしい準優勝に思える。

 

 愛媛FCレディースの選手やスタッフの皆さん、本当にお疲れ様でした。準優勝、おめでとうございます!

 

 思い返せば、この4日間、私も車を運転して松山市と宇和島市の間を毎日往復し、会場で横断幕の設置と撤収作業を繰り返してきた。そして、毎試合、太鼓を叩きながら、コールリードで声を枯らしたのは、長いサポーター人生の中でも初めての経験かもしれない。

 

 今回の「えひめ国体」、いろいろな意味で良い思い出として、私の記憶に深く刻まれそうである。

 

 <松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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