Jリーグが発足する以前からサッカーをやっていた人ならば、一度は言われたことがあるはずだ。

 

「なんでサッカーなんかやってるの?」

 

 メジャーなスポーツをやっている人が、同じ質問をぶつけられることはない。だが、マイナーなスポーツをやっている人に出くわすと、やっている理由を聞きたくなるのが人間というものらしい。きっと、ヨーロッパで野球をやっている愛好家たちも、うんざりするほど同様の質問をぶつけられていることだろう。

 

 聞かれれば、答えたくなる。それも、相手が納得してくれる答えを口にしたくなる。わたしの場合は、“間口の広さ”が答えのひとつだった。曰く、サッカーは体格に関係なくやれる競技だから。曰く、インテリジェンスがあれば肉体的なハンデを克服できるから――。

 

 それが間違いだった、とは思わない。だが、いつのまにか、わたしの中では少しずつ変質していってしまったように思う。つまり、サッカーに体格は必要ない、運動能力など低くてもかまわない、というふうに。そうでなくても、日本のサッカー界には技術を体力でカバーするタイプの選手を蔑視する傾向がある。体幹などを重視する長友の出現によって多少は変化も出てきているが、ユース年代以下の日本選手の体格は、依然貧弱な者が多い(長友の技術が低い、といっているわけではもちろんないので、念のため)。

 

 冷静に考えてみれば、技術レベルが同じなのであれば、体格に優れ、運動能力に優れている方がいいに決まっている。鈍足はサッカーにおいて必ずしも致命傷ではないが、速いに越したことがないのはいうまでもない。

 

 だが、足の速さとは個人の努力や練習で何とかなるものなのだろうか。

 

「どんな子供でも、どんなアスリートでも、絶対に足は速くなると断言できます」

 

 力強く言い切ったのは、プロスプリントコーチの秋本真吾さんである。200メートルハードルの元日本記録保持者でもある彼は、引退後、世代やジャンルを超え「もっと速く走りたい」と願う人たちの指導に当たっている。サッカー界ではレッズの槙野や宇賀神などが彼のクライアントである。

 

「ずっと陸上の世界で生きてきた人間からすると、サッカーや野球の選手って、まるで磨かれてない巨大なダイヤみたいなもの。速くなる伸びしろがハンパない」

 

 そんな彼がいま興味を持っていることのひとつが、チームを丸ごと俊足揃いの集団に変えてしまうこと。全国大会出場を本気で目指していて、でも出場したことのない高校を長期にわたって指導したらどうなるのか。もし実現すれば、学術的にも極めて興味深いものになりそうな気がする。

 

 ちなみに、秋本さんが考える理想的な走法を実行しているサッカー選手の一人が、ブラジル代表のダニエウ・アウベス。彼があれだけサイドラインを上下できるのは、理由があるのだという。

 

<この原稿は17年11月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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