ブラジル、ベルギーの強豪と戦った欧州遠征は2連敗に終わった。

 

 対ブラジルで崩壊した守備は4日後のベルギー戦においてプレスとブロックの使い分けを含め、多少なりとも改善できていた。だがいくら「守」で奮闘したとはいえ、「攻」に結びつけられなければ勝負にならない。ベルギー戦のスコアは0-1であったものの、攻撃における見せ場は少なかった。速攻をはじめ、攻撃の構築こそが取り組むべき最重要項目となる。

 

 2試合通じて、得点はブラジル戦の1得点のみ。セットプレーから生まれたものだった。後半17分の左コーナーキック。井手口陽介から送られたボールに対し、槙野智章がヘディングで合わせた。

 

 ブラジル相手にゴールを奪うのは2006年のドイツW杯以来、実に11年ぶりだという。バーに阻まれた吉田麻也の直接フリーキックもあった。ベルギー戦でもセットプレーから吉田の惜しいヘディングシュートがあった。当然と言えば当然なのだが、いくら強豪が相手だとしてもセットプレーは得点を生むビッグチャンスであることに変わりはない。ここをしっかりモノにできるかどうか。世界に対抗していくためには、セットプレーの精度を上げていくことが重要だとあらためて感じさせられた遠征でもあった。

 

 ハリルジャパンのキッカーは現在、主に井手口陽介が担っている。キックの質は悪くないが、チームの中でほかに候補が見当たらないのはいささか寂しい。

 

 かつて日本には中村俊輔、遠藤保仁と左右のスペシャルなキッカーがいた。彼らはショートコーナーを使ったり、直接フリーキックでは駆け引きを使ったりと、いろんな仕掛けを用意していた。その時代と比べると、バリエーションが少ないと言わざるを得ない。また、本田圭佑が招集されない現在、レフティーの本命キッカーがいないという問題もある。

 

 ワールドカップの舞台でセットプレーが突破口となったのが、2010年の南アフリカワールドカップのデンマーク戦だった。3ゴールのうち2得点が直接フリーキック。1点目は本田が決め、2点目は遠藤が決めている。左右のキッカーがそろうことで相手を惑わせた好例である。

 

 質の高いプレースキッカーを、メンバーに入れるべきだというのが筆者の考えだ。加えて右利き、左利き両方いることが望ましい。

 

 右利きなら、井手口の代わりになるのはやはり清武弘嗣だろう。ハリルジャパンでもキッカーを務めてきた実績があり、メンバーとの呼吸も合う。

 

 左利きの候補は本田、柏木陽介、太田宏介あたりだろうか。

 太田はヴァイッド・ハリルホジッチ監督からお呼びが掛からなくなっているが、プレースキックの精度は国内随一と言える。

 

 FC東京―ベガルタ仙台戦(9月16日)でのアシストには思わずうならされた。右コーナーキックでニアに入ってきたチャン・ヒョンスにピタリと合わせている。ターゲットは前後、横と3人に囲まれていたのに、だ。

 

 太田は言った。

「相手はゾーンで守っていて、ニアが厚めでした。それでもヒョンスとは“そこで行こう”という話をしていたので、スポットにちょうど落とすボールを蹴ろう、と。速すぎず、遅すぎずのスピードで、引っかけるようなイメージでした。セットプレーは合わせる人との呼吸。コミュニケーションと練習をどれだけやっておくかが大事になる」

 

 キックの質のみならず、ゴールに導く状況判断や味方との呼吸が大切になってくる、ということ。

 

 次の代表戦は、国内組による12月の東アジアE-1選手権(9日、北朝鮮戦、12日、中国戦、16日、韓国)になる。まずは国内組から、キッカーの選定を進めていく必要があるのではないだろうか。


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