2020年に開催される東京五輪の男子サッカー日本代表監督にサンフレッチェ広島前監督の森保一氏が就任した。10月30日に記者会見が行われ、「自国開催でみなさんが望まれているのは間違いなくメダルの獲得だと思いますので、メダルを獲得できるように頑張っていきたい」と意気込みを語った。

 

 実績は申し分ない。

 サンフレッチェでは2012年シーズン、監督就任1年目でチームを優勝に導いた。翌13年に2連覇を達成。主力を引き抜かれるなど難しいチームマネジメントを強いられながら、15年にはチャンピオンシップを制して3度目のリーグチャンピオンとなった。特にこのシーズンは圧巻の成績だった。リーグ最多73得点、リーグ最小30失点、そして歴代最高となる得失点差43という結果を残した。

 

 本来、五輪代表監督のポジションはこれからキャリアアップしていく監督が担うべきだと個人的に思う。その意味で森保氏の実績を考えれば、A代表監督の候補に挙がってくるのが自然だ。しかし今回は自国開催であり、メダル獲得は至上命題になる。Jリーグで3度の優勝経験がある森保氏に白羽の矢が立ったのは、十分に理解できる。

 

 またサンフレッチェの育成コーチ、U-20日本代表コーチも務めており、育成面でも定評のある人材だ。サンフレッチェでは現在、A代表に定着した浅野拓磨を育てている。

「これまでかかわってきた指導者の方々が大切に育ててきた選手たちを、さらに上の舞台に引き上げられるようにかかわっていきたいと思っています。日本代表で言うなら、ロシアW杯もそうですけど、その次のカタールW杯に多くの選手に行ってもらえるように育成していきたいと思うし、彼らが普段プレーする、Jリーグや大学などで活躍してくれること。所属チームに喜んでもらえるような育成ができたらうれしい」

 

 このコメントから分かるとおり育成にも携わる人の気持ちも、所属チームの思いも大切にしている。学校やクラブとの連係をより密にしていくこともできるだろう。

 

 森保氏に期待したいのはメダルもさることながら、平和への発信だ。

 オリンピック憲章にあるオリンピズム(オリンピック精神)の根本原則の1つに「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てる」とある。参加すること、勝利を目指して努力すること、平和を謳うことにオリンピック本来の意義がある。

 

 彼は高校まで長崎で過ごし、卒業後に当時JSLのマツダに入団するために広島に渡った。のちにサンフレッチェ、日本代表の中核を担う名ボランチに成長し、広島は「第2の故郷」となっていく。

 

 長崎と広島。原爆を投下された2つの都市を故郷とする彼は、平和への思いが強い。

 15年シーズンのクラブW杯で広州恒大との3位決定戦を制した森保氏は試合後の記者会見で「サッカーと平和」について語っている。

「広島は今、スタジアム建設に向けて機運が高まっています。(準決勝の)大阪でリバープレートと対戦しましたが(相手の)サポーターが広島の原爆ドーム、平和記念公園を訪れてから大阪の試合を見るとか。結果を出せば世界に対して広島を発信でき、広島に来ていただける。そういう役割を担えるように、地域貢献していきたい」

 

 世界各地にテレビ中継され、世界のメディアが集まるクラブW杯の舞台を通じて彼は世界のサッカーファンにメッセージを送ったのだった。

 

 就任会見の席でも平和への思いをこう語っている。

「私は長崎出身で、広島で人生を一番長く過ごしてきました。その2つの都市は世界で2カ所しかない被爆地です。そういった今までの人生のなかから、平和都市で過ごしてきた部分を発信できれば幸いです」

 

 東京五輪監督就任は、運命に導かれたものだと思えてくる。

 森保ジャパンは12月のタイ遠征から本格始動する。


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