秋は野球選手にとって「解雇」の季節でもある。笑顔でユニホームを脱げる選手は、ほんの一握りに過ぎない。

 


 そんな中、横浜DeNAの「戦力外リスト」に、ひとりのベテラン選手の名前が載った。37歳の久保康友である。プロ13年で、通算97勝(86敗)をあげている技巧派だ。


 今季は若返りの余波を受け、わずか7試合にしか登板していない。4勝(2敗)は、このチームに移籍してから、最も少ない勝ち星だ。


 一世を風靡した「松坂世代」の生き残りのひとりだ。高校3年のセンバツ決勝では関大一高(大阪)のエースとして横浜(神奈川)のスーパースター松坂大輔と投げ合い、0対3で敗れている。


 全盛期の松坂のような150キロを超える快速球があるわけではない。打者がキリキリ舞いするウイニングショットを持っているわけでもない。


 本人に言わせると、「これといって特徴のない」タイプ。そんな投手が曲がりなりにもプロで13年間もメシがくえたのは人並みはずれた洞察力に依る。


 たとえば強打の外国人と相対する場合、彼はどうしたか。契約内容にまで想像を巡らせたというのだから驚きだ。


「四球を嫌う選手がいる。カウントが3ボールになると、焦ってボール球を振り始めるんです。おそらく四球のインセンティブが契約に入っていないんでしょう。だったら“ホームランや打点を稼いだ方がいい”となる。


 一方で平然とボール球を見送り、颯爽と一塁に歩く選手がいる。こういう選手には、四球に関するインセンティブがついているんでしょう。だからボール球で勝負するのは難しい」


 契約内容がある程度分かれば、投球の組み立ても容易になる。久保によれば、打ち取るヒントはグラウンドの外に転がっているというのだ。これは目からウロコだった。


 投手不足の球団は久保の「頭脳」を買うという手もあるのではないか。文字通りの「ヘッドハンティング」である。

 

<この原稿は2017年11月6日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 


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