J1昇格プレーオフを間近に控えた福岡が出した異例の声明が、ちょっとした話題になっている。普段は九州の他のチームを応援している人たちに向け、アビスパ福岡を応援してほしいと呼びかけたのである。

 

 もちろん、これには理由がある。4位でシーズンを終えた福岡は、本来であれば戦い慣れた本拠地レベルファイブ・スタジアム(レベスタ)に東京Vを迎え打つはずなのだが、2年後に開催されるラグビーW杯へ向けての改修工事が行われており、使用することができない。チームの運命を懸けた一戦を、彼らは熊本で戦わなければならなくなったのである。

 

 2年前、大阪でプレーオフが行われた際は、新大阪駅のそこかしにアビスパ・ファンがいた記憶がある。福岡から熊本までの距離は、言うまでもなく大阪よりも近い。動員の心配をする必要などないのでは、という気もするが、会場となるえがお健康スタジアムの収容人員は、普段よりはだいぶ多い3万2000人だという。となれば、いつものレベスタに負けないだけの圧倒的なホーム感を出すためには、九州全土の力を借りたい、ということなのだろう。

 

 実に興味深い。

 

 いまは取り壊されてしまったエスパニョールの本拠地サリアの入り口付近には、巨大な落書きがあった。

 

「ミランよ、0-4をありがとう!」

 

 この落書きが記されたのは、93~94年CL決勝でミランがバルサを4-0で粉砕した日の夜だったという。熱狂的なエスパニョールのファンがスタジアムに忍び込み、一番目立つところにスプレー缶で書きなぐった。もちろん不法侵入であり、さらに言うならちょっとした建造物損壊罪である。だが、クラブ側はまったく犯人捜しをしなかったばかりか、落書きを消そうともしなかった。かくして、非合法なはずの落書きは、サリアが取り壊されるその日まで、エスパニョールのファンを楽しませ続けたのだった。

 

 ……といった地域の人たちからすると、アビスパのフロントがやったことはまったくもって理解不能だろう。わたしの知人の中にも「これはさすがにどうよ」と眉を顰めている人はいる。

 

 ただ、九州には独特の、九州の人にしかわからない連帯感があるような気もする。以前、鹿児島出身の後輩の結婚式に出席した際、大分出張の新婦から「(新郎が)九州の人なので信用できると思いました」と笑顔で馴れ初めを聞かされ、ちょっとした疎外感を覚えたことを思い出す。

 

 さて、アビスパが出した異例の声明を、九州の人たちはどう受け止めるのだろう。

 

 ご近所さんは絶対に認めがたい存在なのか。それとも、外敵を前にすれば小異を超えて大同につくのが九州人のメンタリティーなのか。答えは、スタジアムの入りと雰囲気に表れる。対戦相手が名門復活に燃えるヴェルディということもあり、何とも楽しみなプレーオフ準決勝である。

 

<この原稿は17年11月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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