(写真:NTTドコモが行った1000日前イベント。渋谷区のドコモビルにプロジェクションマッピング。パラアスリートへの応援メッセージも表示された)

 11月29日は東京パラリンピックまで1000日前という節目の日でした。「1000日後、自分は何をしているんだろう?」と想像すると夢が膨らむと同時に新たなエネルギーが湧いてきます。


 話は8年前にさかのぼります。09年10月2日、東京都庁で「東京オリンピック・パラリンピック開催決定を迎える会」が行われていました。結果は「16年大会は東京招致ならず」という残念なものでしたが、そのときのメモにこう書いていました。

 

<会場ではたくさんの方とお話をしたし、いろんな方のスピーチも拝聴した。ほとんどの人が「オリンピック招致」「オリンピック開催」と言っていて、「東京オリンピック・パラリンピック」とセットで発言する人はごくわずかだった……>

 

 まだ「パラリンピック」という言葉が浸透していなかったことがわかります。一方で最終プレゼンの行われていたコペンハーゲンの会場では、「パラリンピック」という言葉が数多く発せられていたと聞きました。「残念だなあ」というのがそのときの私の素直な感想でした。会場に同席していた数名のパラリンピアンも、このことを課題にあげていました。「これからはもっと日本でもパラリンピックのことを知ってもらわないと」とお互いに話したものです。

 

 その4年後の2013年9月7日、ブエノスアイレスで行われた最終プレゼンで、「2020東京」の開催が決定しました。このころには09年当時とは違って「東京オリンピック・パラリンピック招致」と多くの人が言うようになっていたことが思い出されます。

 

 さらに15年に内閣府が行った東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査によれば、パラリンピックを知っている人は国民の98%になりました。今では連日メディアでパラアスリートの雄姿を見ることができます。8年間、多くの関係者やパラアスリートがパラリンピックやパラスポーツの理解と普及に努めた努力の賜物でしょう。

 

 写真のピンバッジは2020東京オリンピック・パラリンピック招致活動のものです。13年9月の招致決定の際には、このバッジをつけて東商ホールの「2020年オリンピック・パラリンピック開催都市決定を迎える会」に行きました。バッジを見るたびに決定の瞬間を思い出しますが、あのときは喜びと同時に焦燥感が襲ってきたものです。

「東京開催は決まったけど、私はいったい何をすればいいのか。ミッションが与えられた役割の人はそれに一所懸命取り組むけれど、私はそのミッションを自ら創り出さなければならない。2020年までの7年間、何をすればいいんだ……」

 

 開催決定直後の13年11月には、IOC/Tokyo2020オリエンテーションセミナーなど、様々な勉強会や意見交換の場が設けられました。そういった中で明らかにされたのは以下のことでした。

 

「オリンピック・パラリンピックは世界最高峰のスポーツの競技大会である。そして平和の祭典である。開催する国にとっての意義は、その国の未来を大いに語り、実行へ移す。その契機として大会を活用することだ」

 

 日本で開催する意義ということはそういうことなのだと、得心した記憶があります。その後、パラリンピック開催の意義は、共生社会の実現という言葉で表現されていきます。

 

 その後、様々なオリンピック・パラリンピックの準備が始まりました。しかし、そのための組織や予算編成の多くは、2020年までの時限で組まれていることもあり、2020年以降を危惧する声も出ています。「2020年に向けて盛り上がるのはいいけれど、終わった後に何を残していくのか……」と。

 

(写真:13年9月、2020年のオリンピック・パラリンピック開催都市が東京に決まった)

 STANDでボランティアアカデミーを立ち上げたのは15年のことでした。最初は2020年パラリンピックのボランティアに参加したいという多くの方々の声に応えて、パラスポーツのボランティアスタッフを輩出することを目的としていました。しかし実際に開講してみるとすぐにこんな声をいただきました。
「視覚障がいの人をエスコートする実習の後、街中で、白杖を持っている人を見かけました。私は生まれて初めて、障がいのある人に声をかけ、目的地まで案内しました」

 

 この言葉を聞いたときに「この講座はボランティアスタッフを作るのではなく、共生社会を創ることを目的とすればいいのだ」とはっきりわかりました。社会が変わっていくことを目指して講座をずっと続けていこう、と。これも落選の報が届いた09年から時間が経ち、多くの人がパラスポーツに関心を持ってくれたからできたことだと思っています。

 

 こうしてボランティアアカデミーは、2020年以降に続く大きな目的をつかみました。未来の共生社会の実現に向け、社会を変える活動をしていこうと考えています。

 

 冒頭の写真で紹介したドコモ以外にも、11月29日の「パラリンピック1000日前」をキーワードにしたイベントや様々な取り組みは全国で開かれています。2020年以降の未来に思いを馳せる、とてもいい機会になりそうです。

 

◆1000日前に関連した東京2020大会のパートナー企業や自治体・団体のイベント情報
https://tokyo2020.jp/jp/special/1000daystogo/activities/

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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