(写真:床姉妹<右が姉・亜矢可、左が妹・秦留可>の父はアイスホッケー元日本代表)

 6日、日本アイスホッケー連盟は都内ホテルで会見を開き、来年2月の平昌五輪女子日本代表23名を発表した。GK藤本那菜(札幌ボルテックス)、DF床亜矢可(SEIBUプリンセスラビッツ)、FW久保英恵(SEIBUプリンセスラビッツ)らがソチ五輪に続いて代表入り。床亜矢可の妹・FW秦留可(SEIBUプリンセスラビッツ)も選ばれ、ソチでは叶わなかった姉妹での五輪代表に決まった。キャプテンは2大会連続でFW大澤ちほ(三星ダイトーペリグリン)が務める。

 

 最年長は36歳のFW小野粧子(フルタイムシステム御影グレッズ)、最年少は18歳のDF志賀葵(帯広レディース)。今後は12月12日からフィンランド遠征、24日と25日には長野で壮行試合を行う。1月には東京で壮行試合を開催することも発表された。

 

 日本勢一番乗りで平昌五輪出場を決めたスマイルジャパン。本大会に向けた陣容が固まった。6月からシーズンインすると毎月合宿を行った。当初は35名いた候補選手たちが徐々に絞られ、山中武史監督が「11月の合宿が終わった時点で選んだ」という23名が登壇した。指揮官は「自信を持って選んだ23名です」と胸を張った。平昌五輪での目標はメダル獲得。「今の日本女子でベストな選手、ベストなチーム」は武器であるスピードと運動量を生かすため、パスワークに磨きをかける。

 

 山中監督によれば選考基準は「守りで計算できる選手」だ。平昌五輪でスマイルジャパン(世界ランキング9位)はグループBに入り、スウェーデン(同5位)、スイス(同6位)、韓国(同22位)と対戦する。ここで上位2カ国に入り、上位グループ(A)との決勝トーナメントに進みたい。当然、格上との戦いが多くなるため劣勢に回る展開が予想される。そこを堅守でしのぎ切れれば、勝機は見えてくるという算段だろう。

 

(写真:安定感のあるセービングが持ち味の藤本那菜)

 守護神はソチでゴールマウスを任された藤本那菜が有力だ。ソチ五輪最終予選までは控えGKの位置付けだったが、本大会までにレギュラーの座をつかみ取った。だが、全5試合で16失点に終わった。「4年前は世界との差を感じさせられた。スピードに対応できませんでした」と彼女は振り返る。あれから4年、自身の成長を「いかに早くポジショニングを取れるか。ゴール前の対応力が今は違う」と挙げる。

 

 15年世界選手権でベストGKに選出された後、アメリカに渡り、北米リーグでプレーした。女子の2強と言われるアメリカとカナダの選手たちのパワーとテクニックを体感。「経験値はすごくプラスになりました」という。「正確なポジショニングを取っていればある程度シュートは止められる」。3人のGKで最年長(28歳)となった藤本那菜がスマイルジャパン最後の砦となる。

 

 守備の要である床亜矢可にも期待が集まる。山中監督も「相手のトップスコアラーに対峙させても抑えられるだけの力を持っています」と絶大な信頼を寄せる存在だ。ソチ五輪では主力として5戦全敗を経験。雪辱に燃えている。持ち前の守備力に加え、攻撃意識も高まった。

 

 ソチ五輪は妹・秦留可がメンバー落ち。「私よりお姉ちゃんの方が悔しがっていた」(秦留可)が、4年越しで姉妹での五輪行きが叶った。床亜矢可は「まずはスタート地点に立てた。ここまで支えてくれていた方たちに恩返しできるように結果を残したい」と意気込んだ。

 

 ポジションはDFとFW。秦留可が「真逆だと言われます」と語るようにキャラクターも全然違う。堅実で力強いプレーが持ち味の姉に対して、妹は広い視野と類い希なるパスセンスで攻撃をリードする。山中監督も「キープ力があり、周りが見てゲームメイクができる」と高く評価している。姉がチームの根なら、妹は花だ。

 

 床秦留可は4年前の悔しい思いを胸に鍛練を積んできた。姉・亜矢可によれば「チームを引っ張っていく想いが強くなった」という。課題だったフィジカルを強化し、一回りも二回りも大きくなった。指揮官も「簡単にパックを取られない強さを持っている」と成長を認めるほどだ。

 

 床姉妹が所属するSEIBUプリンセスラビッツで監督を務める八反田孝行強化本部長は「彼女のポテンシャルからすればもっともっと上手くなる」と期待を寄せる逸材。山中監督は「僕の想像を超えたプレーをする。驚かされることが多いです」と話すほど攻撃センスはズバ抜けている。

 

「お互いプレーのことに関しては厳しく言い合います。たまにケンカみたいになりますが、一番鋭い指摘。それを克服することで成長し合える」(亜矢可)という床姉妹。ソチで叶わなかった揃って出場とメダル獲得という夢は、平昌のリンクで実現する。

 

 2大会連続でキャプテンを任された大澤は「一番はチームワーク。全員でひとつになって戦えることが強み」と語る。平昌五輪のキーマンを問われた山中監督は「全員です」と力強く答え、こう続けた。
「“チームのため”という強い想いがある。スーパースターはいないが、1+1が2にも3にもなる。逆に言えば誰からでも点が取れるし、全員が身体を張って守るチームです」

 

(写真:昨年7月より就任した山中監督。ひとつひとつのプレーにこだわる指導法だ)

 12月12日からはフィンランドでプレオリンピックカップラウマに出場。世界ランキング3位のフィンランド、同4位のロシア、同7位のドイツ、平昌五輪でも同組のスウェーデンと対戦する。24日と25日は国内でロシア戦。来年1月、国内での壮行試合はドイツ、チェコ(世界ランキング8位)というスマイルジャパンとランキングの近い国とまみえる。「一定の手応えを得て、万全の準備で臨みたい」と山中監督。種を撒く時期は終わった。スマイルジャパンは氷上に根を張り、芽を出せるか。すべては2カ月後に笑顔の花を咲かせるためである。

 

【日本代表23名】


GK藤本那菜(ボルテックス札幌)
 近藤真衣(フルタイムシステム御影グレッズ)
 小西あかね(SEIBUプリンセスラビッツ)
DF小池詩織(道路建設ペリグリン)
 床亜矢可(SEIBUプリンセスラビッツ)
 鈴木世奈(SEIBUプリンセスラビッツ)
 堀珠花(トヨタシグナス)
 細山田茜(道路建設ペリグリン)
 竹内愛奈(Daishin)
 志賀葵(帯広レディース)

(写真:会見に出席したスマイルジャパン23名の精鋭と山中監督<左上>)

FW米山知奈(道路建設ペリグリン)
 足立友里恵(SEIBUプリンセスラビッツ)
 大澤ちほ(道路建設ペリグリン)
 藤本もえこ(トヨタシグナス)
 床秦留可(SEIBUプリンセスラビッツ)
 浮田留衣(Daishin)

 寺島奈穂(Daishin)
 高涼風(道路建設ペリグリン)
 獅子内美帆(トヨタシグナス)
 久保英恵(SEIBUプリンセスラビッツ)
 岩原知美(SEIBUプリンセスラビッツ)
 中村亜実(SEIBUプリンセスラビッツ)
 小野粧子(フルタイムシステム御影グレッズ)

 

(文・写真/杉浦泰介)