NPBもアイランドリーグも勝負どころの夏場の戦いが続いている。アイランドリーグ出身選手では千葉ロッテの角中勝也(元高知)が3割近い打率をマークしてチームの上位争いに貢献し、東京ヤクルトの三輪正義(元香川)もスーパーサブとして1軍のベンチで控える。育成選手だった横浜DeNAの西森将司、冨田康祐(ともに元香川)も7月に支配下登録され、早速1軍出場を果たした。NPB入りというひとつの夢を叶えた彼らの今を追いかけた。
 3本の矢で1軍定着を射止める――西森将司

 今季2番目に多い46,865人もの大観衆をのみこんだ甲子園で、記念すべき一打は生まれた。
 7月27日、阪神−横浜DeNA。8回を終え、DeNAが3−1と2点リードしていた。
「次、ピッチャーの打順で代打行くぞ」
 最終回、DeNAの攻撃、背番号66の西森将司は、コーチからそう指示を受け、ベンチ裏でバットを握りしめた。

 育成選手から支配下登録されて10日、1軍に昇格して4日。デビューの舞台は完全アウェーのスタジアムだ。普通なら緊張でガチガチになりそうなシチュエーションである。

 しかし、25歳のスイッチヒッターは、2軍での教えを自分に言い聞かせて心を落ち着かせた。
「2軍にいる時から、“どんな場合でも常に心と頭の準備をしておけ”とコーチに言われてきました。“1軍だろうと2軍だろうと同じ1打席だ”って」
 打席に入る際のルーティンをいつも通りこなし、集中を高めた。
 
 場面は2死二塁。追加点のチャンスである。ピッチャーはベネズエラ人左腕のロバート・ザラテ。その特徴も頭に叩き込んだ。
「ストレートがシュートするし、前を打っていたツルさん(鶴岡一成)に対してはインコースが逆球になっていました。だから、外のストレート一本に絞って、シュートして中に入ってくるのを待ちました」
 
 カウント1−1からの3球目。狙い通り、外へのストレートがやや真ん中に入ってきた。バットを振りぬくと、打球はセカンドの頭上を越える。1軍初打席での初ヒットだ。しかも二塁走者が生還し、タイムリーとなるオマケつき。西森のダメ押し打により、チームは4−1で勝利を収めた。
 
 香川から育成選手としてDeNAに入って2年目。「勝負の年」と位置づけた今季は飛躍のシーズンとなっている。まず春のキャンプでキャッチャーながら50メートル5秒59の俊足を見込まれ、1軍メンバーに抜擢された。2軍でもレギュラーを獲得し、71試合に出場。打率.277、12打点、8盗塁と成績を出している。そして今季の支配下登録の期限(7月末)が近づいていた7月17日、育成選手からの昇格を果たした。

 アピールポイントとなっているのが、昨秋から取り組んでいる両打ちだ。足の速さを生かすべく、球団から挑戦を促された。
「キャッチャーだから、守りでもやらなくてはいけないことはたくさんあるのに、左打ちも練習するとなると時間が必要になる。もう25歳になるのに、正直言って最初は乗り気ではなかったです」
 しかし、育成の身分から抜け出すには売りはひとつでも多いほうがいい。「それだけ気にかけてもらっている証拠」と思い直し、左打ちの練習を始めた。

 ただ、左打ちは社会人のホンダ時代に少しかじった程度。うまくいかず、すぐに諦めた過去がある。素人同然のレベルからの出発だった。
「最初は詰まるし、手も痛くなりました。ただ、(右ピッチャーだと)ボールはよく見えるんです」
 北海道日本ハムからやってきた大村巌2軍打撃コーチの下、マンツーマンでバットを振り込んだ。

 フォームも試行錯誤の連続だ。足を上げてみたり、オープンに構えたり……。その甲斐あって春から夏と季節が巡るにつれ、左打ちがさまになり、快音も聞かれるようになってきた。「6月、7月と不細工なりにヒットも出だした。かたちになりつつある」と本人も手応えを感じている。

 もちろん、2軍でポジションをつかんだのはキャッチャーとしての能力も買われたからだ。2軍の高浦己佐緒バッテリーコーチは「スローイングがいい」と評価する。盗塁阻止率は3割台後半。一時は4割を超えていた。西森は四国にいた頃からスローイングの正確性を追求しており、今春のキャンプでは1軍の山下和彦バッテリーコーチからより速く投げるためのステップワークを教わった。その成果が表れている。

「肩の強さだけなら、チームの中にも黒羽根(利規)とか高城(俊人)とか、僕より上の人間はいます。でも捕ってからの投げるまでの速さや、狙ったところへ投げられる点では負けていないと思いますね」
  
 俊足、スイッチ、スローイングの良さ――。走攻守の3本の矢で、次に狙う的は1軍定着だ。初ヒットから2日後、ピッチャーを増員する兼ね合いで2軍降格が決まった際には、中畑清監督から直々に「次に上げるチャンスは絶対に来る。準備しておけ」と言葉をもらった。そして、この14日、故障した外野手の井手正太郎の代わりに再び1軍に戻ってきた。控えキャッチャーのみならず、代走、代打もこなせるユーティリティープレーヤーとして、求められる役割は少なくない。

「1軍と2軍ではやっぱりレベルが違います。雰囲気も全然変わりますし、まだまだ未熟者です」
 それでも、結果がすべてのプロの世界である。最初に満員の甲子園でタイムリーを放った事実は西森にとって大きい。今度はマスクをかぶって投手陣をリードし、チームを勝利に導くつもりだ。
「巨人の長野(久義)さんはホンダの先輩です。後ろから精神的に揺さぶりをかけて(笑)、絶対に抑えます」

 DeNAは巨人に対し、3勝13敗と完全にカモにされている。いくら相手が首位といえども、初のクライマックスシリーズ進出へ向け、このまま負け続けるわけにはいかない。巨人の主力バッターを「絶対に抑える」と不敵に笑う元アイランドリーガーが、ハマの秘密兵器となる。 

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 西森選手の直筆サイン色紙を抽選で1名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の冒頭に「西森将司選手のサイン色紙希望」と明記の上、住所、氏名、連絡先(電話番号)、記事への感想をお書き添えの上、送信してください。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締め切りは8月末までです。たくさんのご応募お待ちしております。

(石田洋之)

8月15日(木)

 田村、酒井、完璧リリーフで1点差守る(香川4勝2敗、レクザム、763人)
高知ファイティングドッグス 4 = 000301000
香川オリーブガイナーズ  5 = 05000000×
勝利投手 大場(2勝1敗)
敗戦投手 井川(6勝8敗)
セーブ   酒井(1勝3敗13S)
本塁打  (香)宗雪1号3ラン

<順位表> 勝  負  分  勝率   差
1.徳島   13  3  4  .813
2.愛媛   12  5  3  .706  1.5
3.香川   5  11  2  .313  6.5
4.高知   4  14  4  .222  2.0